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自動車産業界の合従連衡がさらに進行
2023年は「EV化宣言の見直しを行う自動車メーカーが登場する!」と予測し、2024年は「自動車の価格がさらに上がる!」と指摘して見事に言い当ててしまった私。まあ、この程度のことは予言でもなんでもなく、自動車産業界の動向をウォッチしていた方の多くが気づいていたはずのこと。言ってみれば、2023年も2024年も予定どおりのことが起きたという印象です。では、2025年はなにが起きるでしょうか?
これも自動車産業界を注視してきたならすでにお気づきのとおり、パーツサプライヤーを含めた自動車産業界の合従連衡がさらに進行するでしょう。その象徴が、年末に発表されたホンダ、日産の経営統合化計画です。この問題、多くの人たちがその本質を見失っているようですが、経営統合というのは複数の企業を合併させることではなく、個々の企業やブランドを存続させながら各社の株式を持ち株会社の所有とし、意思決定の統一を図ることにあります。というわけで、あちこちから噴出している「体質がまるで異なるホンダと日産が一緒になってシナジー効果が生まれるのか?」という疑問は的外れ。大事なのは、むしろ意思決定のほうなのです。
じゃあ、その持ち株会社でなんの意思決定をするかといえば、ホンダと日産のブランド性を保ちつつ、引き続きクルマの電動化や知能化で必要となる基礎技術とコンポーネントを共用化することが柱となるでしょう。ひょっとすると、こういった部分の効率化をさらに深い部分で行う可能性もありますが、彼らが経営統合を行う最大の理由はこの点にあるというのが、私の読みです。
市場が重なっているのはむしろ好都合
なぜでしょうか。今後、自動車の電動化と知能化がさらに重要になり、自動車の価値を形作るもっとも基本的な価値となることは間違いありません。しかし、この領域の開発や部品調達にはとてつもなくお金がかかります。だからこそ、そうした開発や部品調達をできるだけ2社(ひょっとすると三菱自動車を交えた3社)で共通化し、コスト低減を図ろうとしているのです。
しかも、電動化や知能化のベースとなる技術開発や基本コンポーネントは、多くの場合、自動車のキャラクターそのものを大きく左右することがありません。なぜなら、それらを制御するのは基本的にソフトウェアなので、ソフトウェア次第でキャラクターはいかようにも作り分けられるからです。それどころか、共通化するうえで大事なのは大まかなパフォーマンスや価格帯のほうだから、ホンダと日産(と三菱?)のように市場が重なっているのはむしろ好都合ということになります。
というわけで、各メディアが質問していることの多くは「的外れだなあ」と思いながら、私は記者会見場にひとり佇んでいました。
合理化に向けたさらなる努力が必要
もちろん、今回の経営統合が絶対に成功するとは言い切れません。もしも片方が急激な経営難に陥れば、もう1社もそれに足を引きずられてしまうでしょうし、製品開発の足並みだってある程度は揃わないと効率化の効果は十分に得られないはず。そうした事態を回避しながら、いかに強固な体制を作り上げていくかが、今後、経営陣に課せられた使命だといえるでしょう。
そして、同様の効率化は他の自動車メーカーやパーツサプライヤーにも等しく求められることになります。すでに十分な企業規模を持つトヨタやフォルクスワーゲンの各連合、そしてBYDあたりはいいでしょうが、残るほとんどの企業は合理化に向けたさらなる努力が必要となるはず。つまり、ホンダと日産の経営統合は、自動車産業界で新たな効率化・合理化競争が始まったことを知らせる号砲に過ぎないとも考えられるわけです。