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BEVの最大の不安、長距離移動は実際にやるとどうなのか?
BEV化への流れは、欧州のメーカーを中心にここ数年で急速に進んできました。最近はその勢いにも翳りが出てきたようですが、各ブランドからは魅力的なBEVが数多く登場しています。私自身、仕事でBEVに乗る機会は結構あり、そのたびに運動性能や静粛性の高さには本当に感心しています。とはいえ、自分で購入するか? となるとまだそこまでは思い切れない気持ちがあります。
その要因はリセールの不安、バッテリーの劣化などいくつかありますが、やはり最も大きいのは航続距離でしょう。日常の使用範囲ならばまったく心配ないのはわかっていますが、年に何度かある長距離の移動の際はどうなのか。ガソリン車よりもどれくらいの手間と時間がかかるのか、これは実際に体験してみないとわかりません。
そこで、BEVで東京から九州への長距離移動(まあ旅行ですが)を行ってみることにしました。相棒に選んだのは「メルセデス・ベンツ EQE350+」。このクラスになるとさすがにバッテリーも大型で、満充電での走行距離はカタログ上では624kmとなっています。数字上は大阪くらいまで一気に走れてしまうわけですが、これはあくまでカタログ上なので実際はその手前での充電が必要になるでしょう。
出先での充電はもちろん急速充電(CHAdeMO)となります。この急速充電器、あちこちに設置されるようになりましたが、その出力はだいたい20〜150kWと、まちまちなのはご存じでしょうか。出力が大きければ大きいほど充電時間が早まるので、できれば90kW以上を使いたいところ。例えばEQEの場合はバッテリー10%から80%まで充電するのに、90kWの急速充電器なら54分で済むのに、50kWの急速充電器では105分もかかるのですから、この違いは大きい。しかし! 日本の急速充電器はまだ40kW以下がほとんどなのです。こういうインフラの不備もBEVの普及が進まない要因なんでしょうね。
急速充電器検索サイトで事前準備
道中で効率よく充電するために、高速道路のパーキングにある急速充電器の出力を事前に調べました。利用したのはGo Go EV(https://ev.gogo.gs)というサイト。これは高速道路上だけでなく一般施設も含めた全国の急速充電器が検索できて、しかもその出力を低速(20kW未満)/中速(20〜39kW)/高速(40〜89kW)/超高速(90kW以上)で絞り込みできるのでとても便利。
条件を超高速(90kW以上)に指定して検索すると、少ないながらもいくつか表示されます。九州までのルート上だと……なんと浜松SAに150kWが設置されています。150kWはテスラやポルシェ、アウディが独自に整備している超高速充電と同じ出力で、一般利用可能な設備ではまだほとんど見ないレベルですから、これは素晴らしい。東名高速の用賀ICから浜松SAまでは250km弱ですが、これくらいなら一気に走れるでしょう。
その先も何ヵ所か90kWの充電器があります。カタログでの走行可能距離が624kmということは実質80%として約500kmと考えると、半分くらい使ったところで充電、というくらいが安心ですよね。あ、名神高速道路の桂川PAに90kWがありました。浜松SAから桂川PAまでは約230kmですから、2回目の充電場所としてはちょうどいいかな。
山陽道に入ると90kW以上の急速充電器はかなり少なくなりますが、吉備SAにありました。桂川PAから吉備SAまでは約200km。ちょっと早めですがここで充電しておけば四国まで一気に走れるはずです。今回はしまなみ海道で四国に入り、八幡浜港からフェリーで別府に入る予定なので、松山あたりでもう一度充電しておくのが良さそうですね(ちなみに四国の高速道路上に90kW以上の急速充電器はゼロでした!)。検索するとアウディ松山インターに150kWがありました! ここで充電して、初日の目的地である別府まで行くことにしましょう。
さて、九州に入った後は別府、高千穂、そして鹿児島と3泊し、最後は新門司港からフェリーで横須賀までまで戻るという計画を立てました。次の問題は九州内での充電をどうするかですが、ホテルに充電設備があればベストです。朝出発する時に満充電となっていればその日は途中で急速充電をする必要はないでしょう。早速予約したホテルに電話をしてBEV充電の設備があるかどうかを聞いてみました。結果……あるのは熊本のホテルだけ。となると九州内での急速充電も見当をつけておかなければいけません。1日にどれくらいの距離を走ることになりそうなのか、これくらいなら毎日充電しなくても大丈夫かな……など、いろいろ考えるのも、旅の計画の楽しさだと思うことにしましょう。調べたところ別府での充電は問題なさそうですし、なんとかなるでしょう。
夜中の走行で道路と充電器の渋滞を回避
渋滞を避けるために、東京を夜に出発して夜通し走り続けることにしました。22時、バッテリー容量81%の状態でスタートします。渋滞ポイントの横浜近辺もスムーズに通過し、新東名の浜松SAに到着したのは深夜1時でした。この時点で走行距離233km、バッテリー容量は41%です。この調子だともっと先まで行けそうですが、貴重な150kW充電器を活用することにしましょう。サービスエリアに入っていくと、あ、ありました、150kW急速充電器。同時に2台まで充電可能ですが、2台で使うと1台あたりの出力は落ちてしまうとのこと。幸い夜中ということもあり、他に充電車はいないようです。
そう、夜中に走ることにしたのは充電器が空いているだろうと思ったことも大きな理由です。先客がいたらその人が終わるまで待たなくてはいけませんから、それは大きな時間ロス。急速充電器は30分で自動ストップするので最悪でも30分、いや、オーナーがクルマを離れて食事でもしていて戻ってこなかったら、ひたすら待たなくてはいけないのです。こんなこともEVロングドライブのリスクなんですよね……。
充電口にプラグを差し込んで充電スタート。表示されるリアル出力はだいたい120kWですね。実際の出力がスペックよりも少し落ちるのは急速充電器の常のようです。そして充電量80%を超えるとバッテリー保護のために出力が落ちるのも急速充電器のお約束なのですが、今回も80%を超えたあたりから40kWくらいまで落ちました。つまり急速充電器で100%まで充電するのは効率が悪いということです。それでも自動停止する30分間充電したら、87%まで充電できました。さすが150kW、頼りになります。
再び新東名高速を西へと進みます。徹夜で走って疲れないかな?と心配でしたが、最新メルセデスのACCはホントに優秀で、速度調整と車線キープはもはや自動運転レベル、こちらはほぼ座っているだけなので疲労は最小限。真夜中はクルマも少ないから制限速度の120km/hをほぼずっとキープできるのでストレスも少なく、むしろ夜中に走ることにしてよかったな、というくらいです。
順調に走行を続け伊勢湾岸道、新名神、名神と経由して次の充電目的地である桂川PAに到着したのは4時で、走行距離は450kmでした。約2時間30分で220km走ったわけですから、なかなかいいペースですね。日中なら絶対にこうはいきません。バッテリー計は52%を表示しています。これならば高速道路なら満充電でカタログ値の600kmくらい走れそうですね。
80%から2時間、200kmちょっと走ると約50%に
桂川PAの急速充電器は90kWなのでリアル出力は70kWちょっと、という感じです。それでも30分充電したら77%まで充電できました。先にも書いたように80%以上になると充電出力が落ちてしまうので、これくらいで切り上げるのがちょうどいいのでしょう。充電のたびに30分かかるのは時間の無駄のようにも感じますが、実際にやってみると200kmちょっと走って30分くらい休憩する(しなくてはならない)のは、案外ドライバーにとってもちょうどいいペースだと感じます。
4時30分過ぎに充電が完了、今度は山陽自動車道の吉備SAを目指します。これなら朝の渋滞が始まる前に関西地区を通過できそうです。高槻JCTから新名神を経由して山陽自動車道に入ります。幸い渋滞や事故などもなく、快調にEQEは走り続けます。
こうやって高速道路を巡航しているとBEVのスムーズさと静かさは本当に素晴らしいなと実感。ACCを使っていると前車に合わせて加減速を自動で行なってくれるのですが、瞬時にトルクが立ち上がるので加速の素早さは感動するほどです。車線のちょうど中央を自然に保ってくれるレーンキープ機能も完璧です。個人的にACCの走りにはあまり馴染めなかったのですが、EQEは減速と加速のリズムがとても自然なので、安心して運転を委ねることができました。
この旅は9月下旬だったので、5時を回ると段々と空が明るくなってきました。吉備SAに到着したのは6時40分、走行距離は643kmを指していますから、掛川SAから193km走ったわけです。バッテリー残は51%ですから、ここの90kW急速充電なら30分で約80%まで充電できるでしょう。(つづく)