創業期より続くレース活動

ビッグレースの開催ウィークは特別な社交の機会が増えるタイミングである。そもそも欧米ではサーキットそのものが趣味やビジネスを問わずそういう場所になるのが通例だ。そして多くの人たちが世界中からひとつの街に集結するわけだから、当然、サーキット以外においても“その時かぎり”の特別な空間がいくつも現れる。
5月17〜18日、今年で日本開催は2回目となるフォーミュラEが開催された。お台場で開催される都市型イベント、であると同時に、多くの自動車メーカーが参戦したため人気も上々。郊外のサーキット型イベントに比べ、電動マシンによるレースということもあって、モータースポーツのオイル臭さよりもライフスタイルの優雅さが印象に残る。そんな人気イベント「東京E-Prix」の興行前夜、正確には2日前の夜、東京のど真ん中で限られた人たちのためのパーティがひっそりと、けれども華やかに開催された。
催したのはマセラティだ。モデナに本拠を置く老舗のラグジュアリーブランドは伝統的にモータースポーツへの関心も強く、いっときの中断があったものの創業期よりレース活動を続けている。技術的に見どころの多いV6エンジン“ネットゥーノ”を自社開発・生産で持つ一方で、電動化モデル“フォルゴレ”にも力を入れているため、現在ではフォーミュラEの他にGT2カテゴリーにも参戦するなど“電気とエンジン”両面でモータースポーツ活動を続ける稀有なラグジュアリーブランドとなった。昨年の東京E-Prixでは劇的な優勝を遂げている。
飛び交う話題はクルマだけにあらず


そんなマセラティがVIPナイトの場所として選んだのが2023年4月に開業したブルガリホテル東京だ。東京の表玄関、東京駅八重洲口に聳える45階建の高層ビル施設、東京ミッドタウン八重洲の40〜45階に位置し、都心のすべてを眼下に収めることができる。
40階にあるテラスルームにはその夜、全国から15組30名のVIPカスタマーが招待された。東京の絶景を楽しむことのできる大きなテラスを備えたそのボールルームに思い思いにドレスアップした紳士淑女が集まってくる。会話に熱が入り次第にボリュームも上がっていく。パーティが始まる前の、少しそわそわとした感覚がたまらない。
マセラティジャパン代表の木村隆之氏のスピーチと乾杯でパーティは始まった。筆者も早速、旧知の友人を見つけ、クルマ談義に花を咲かせる。最大の関心事は最新モデル「GT2ストラダーレ」の仕上がりについて。すでにオーダーを済ませたという。すでにスペインでサーキットと一般道のテストを終えた筆者が第一印象を伝えた。ダイレクトなコミュニケーションを本音でできるという点で、ナイトパーティは面白いし有意義だ。
聞こえてくるのはもちろんクルマの話がメインだけれども、VIPカスタマーだけあって、ライフスタイルにまつわる様々な話題も飛び交っていた。なるほどひとつの枠組み、今回でいえばマセラティを愛してやまないVIPカスタマーたち、で集まれば、いろんな意味で打ち解けやすい。趣味のクルマ話はもちろん、投資やビジネスのネタにも困らないようだ。
参加したのはスペシャルゲスト

パーティの主役はもちろん集まったVIPカスタマーたち。そして盛り上げ役となるのは豪華なゲスト陣だろう。この夜、ブルガリホテル東京にはスペシャルゲストが3名、参加した。
ひとり目はイタリア本社からやってきたマリア・コンティ氏だ。彼女は現在、マセラティ・コルセ(レーシングチーム)の代表を務めている。以前はアルファロメオやマセラティで広報活動に従事していたため、筆者とも旧知の間柄。どうやら顔だけは覚えていてくれたらしく、しばしの立ち話で旧交を温める。
そして2組目はもちろん、その週末にお台場で戦うドライバーたちだ。ひとり目は日本でもお馴染みのストフェル・バンドーン選手(ベルギー)。かつて日本のスーパーフォーミュラを戦い、マクラーレンF1チームにも所属した。2020〜21年のフォーミュラE年間チャンピオンでもある。もうひとりはフォーミュラ経験も豊かなジェイク・ヒューズ選手(イギリス)だ。
“VIPパーティならでは”の空気感


チーム監督を伴って彼らが会場に入ってくると、パーティの雰囲気がさらにヒートアップする。役者が揃うとはこのことだろう。壇上でのトークショーを終えると、記念撮影攻めに遭っていた。印象的だったのは彼らが終始リラックスしてファンサービスを行っていたこと。これもまた限られた人たちの集う“VIPパーティならでは”の空気感がそうさせたのだろう。ちなみに彼らは日本の熱狂的なファンはもちろん、食事も楽しみにしていたらしい。
パーティの2日後。雨で予選が途中で中止されるなど波乱の幕開けとなった土曜日の第8戦を制したのはストフェル・バンドーン選手であった。パーティに参加したカスタマーたちはこの上なく貴重な余韻の興奮に浸れたに違いない。

