ブガッティが初めて8気筒を搭載した量産モデル「タイプ30」

ブガッティ タイプ30の伝説。100年前に誕生した8気筒モデルの革新性とは?

ブガッティ タイプ30のフロントビュー
1922年に誕生したブガッティ タイプ30は、同社初の量産8気筒モデル。フロントにもブレーキを搭載するなど、革新的な機構を意欲的に採り入れていた。
2.0リッター直列8気筒エンジンを搭載したタイプ30がこの世に生まれてちょうど100年。最高出力100ps、最高速度145km/hを実現した1世紀前のスポーツカーは何が革新的だったのか。タイプ30の素性を振り返る。

Bugatti Type 30

100psを発揮する2.0リッター直8エンジン

ブガッティ タイプ30の8気筒エンジン
ブガッティ タイプ30にはエットーレ・ブガッティ設計の2.0リッター直列8気筒エンジンが搭載された。最高で100ps、145km/hのパフォーマンスを発揮したという。

4気筒のブロックをふたつ繋げ、モノブロックのクランクケースに収めたOHCユニットをフレームへがっちりと固定する──エットーレ・ブガッティの描いた構想は、1921年にタイプ28のプロトタイプとして具現した。しかし、AIACR(FIAの前身)が掲げた1922年の新レギュレーションは、総排気量をそれまでの3.0リッターから2.0リッターに制限すると定義。エットーレ・ブガッティはそれに合わせて、エンジンを再設計した。

2.0リッターの直列8気筒エンジンは、フロント部にバーチカルシャフトを搭載。燃焼室の上には2つの吸気用バルブを設置し、排気効率を高めるために大径の排気バルブを1つ備えている。これはすでにエットーレ・ブガッティが航空機用エンジンに採り入れていた設計だ。また、マグネトー式のツインプラグで点火した後に、バッテリー式点火装置で点火する手法も採用した。さらに、ゼニス製キャブレターを2基装着。エキゾーストマニフォールドはエンジン左側から足を伸ばしている。最高出力は75〜100psを発揮し、最高速度は120〜145km/hを実現したという。タイプ30は当時の量産自動車の中で最速の足を誇る1台だったのである。ちなみにギヤは前進4段(+リバース)を組み合わせていた。

当時は珍しいフロントブレーキも採用

女性初のGPウィナーとして知られるエリザベス・ジュネックと、彼女の愛車ブガッティ タイプ30
女性初のGPウィナーとして知られるエリザベス・ジュネックと、彼女の愛車ブガッティ タイプ30。

ブガッティはこのエンジンを、まずはレースカーのタイプ29に搭載。ショートホイールベース仕様のレーサーに積まれた新型8気筒エンジンは、いくつかのレースでその十分なパワーとパフォーマンス、そして安定性を証明した。テクノロジーやクオリティだけでなく、見栄えも重視した設計とした点もエットーレ・ブガッティらしいこだわりといえる。

タイプ30は、鍛造のフロントアクスルをタイプ22と共有。また、ブガッティの量産モデルとしては初めてフロントブレーキを装着した(初期の自動車では、ブレーキは駆動輪である後輪だけに装着するのが普通だった)。フロントアクスルには初めて油圧システムを採用したが、素材の問題により1924年にケーブル式へ変更されている。

快適性を高めるべくレザーを贅沢に使用

ブガッティ タイプ30のレーシングプロトタイプ。サイドビュー
ブガッティ タイプ30のレーシングプロトタイプ。1922年にフランスの公道で実施されたフランスGPでのワンシーン。

タイプ30はサーキットを主舞台とするレーシングカーではなく、長距離を悠然と横断するためのツーリングカーである。エットーレ・ブガッティは快適性を向上するために、いくつもの施策を投入した。一般的に路面状況が決して良いとはいえなかった当時、乗員に伝わるショックを最小限に抑えるべく数枚のレザーを重ねて配備。信頼性という観点も重視し、新しいスクリューロック方式も採用した。ワッシャを一体化し、振動やショックに影響を受けづらく強固な繋がりをキープできるピッチを刻んだこのロックはエットーレ・ブガッティ自身が特許を取得している。

タイプ30は1922〜1926年の間に、スポーティな4シーターのツアラーや2シーターのクーペ、コンバーチブルなどいくつものバリエーションが作られた。コーチビルダーは腕を競うように個性的なボディをタイプ30に与えていった。また、タイプ30をベースにした流線形のタイプ32“タンク”は、最高速度160km/hを達成したという。

ブガッティは、後継のタイプ38が登場する1926年までの期間におよそ600台のタイプ30を販売した。顧客はタイプ30のパワフルでスポーティなハンドリングについての感想を手紙にしたためてエットーレ・ブガッティへ送ったというが、そのコメントの数々はブガッティが革新的なものづくりに励み続けるモチベーションになったはずだ。

2022年の「GP アイスレース」に登場したブガッティ タイプ51とベイビー II。サイドビュー

非公開: ブガッティ「氷上のグッドウッド」に参戦! セーフティカーはEVになったタイプ35!?

最新のレーシングカーからヒストリックカーまで、多種多様な参戦車両が氷上で性能を競い合う「GP アイスレース」は、“氷上のグッドウッド”として話題を集めている。2019年にスタートし、2022年に第3回を迎えた同レースに、ブガッティはタイプ51と「ブガッティ ベイビー II」という新旧2台のマシンを帯同。タイプ35を75%スケールで再現したミニチュアEVは、セーフティカーとしての大役を果たした。

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著者プロフィール

三代やよい 近影

三代やよい

東京生まれ。青山学院女子短期大学英米文学科卒業後、自動車メーカー広報部勤務。編集プロダクション…