1973 Porsche 917/30 【ポルシェ図鑑:23】

「ポルシェ917/30(1973)」 ターボの道を切り拓いた史上最強の917 《ポルシェ図鑑》

ポルシェ 917/30のフロントスタイル
5.4リッターV12ツインターボは1200hpを発生。Can-Amで6連勝を飾るなど最強の917と呼ばれる伝説の名車だ。
1970年にル・マン24時間レースを初制覇したポルシェ屈指の名レーシングカー「917」は、次なる活躍の場として当時北米でもっとも高い人気を誇ったCan-Am(カナダ-アメリカン・チャンピオンシップ)への参戦を決めるが、Can-Amのレギュレーションに合わせて急造した917PAはワークス・マクラーレンに屈してしまう。そして新たな917シリーズとしてポルシェ初のターボを搭載した917/10K、そして後に常勝を誇る917/30が生み出された。

1973 Porsche 917/30

Can-Amシリーズを席巻した伝説のレーシングカー、917/30

1973年のCan-Am用に開発された究極の917「917/30」。1200hpを発揮するようになった5.4リッターV12DOHCツインターボを搭載するため、ホイールベースが延長されシャシーも強化された。マーク・ダナヒューが6勝を挙げチャンピオンに輝く。

ポルシェ 917/30は北米Can-Amシリーズに活動拠点を移したポルシェが、1973年に開発したグループ7マシン。1200hpの5.3リッター・ターボの圧倒的なパワーでシリーズを席巻した。

1966年に北米のスポーツカー・レースのトップカテゴリーとしてスタートしたCan-Am(カナダ-アメリカン・チャンピオンシップ)は、排気量無制限という自由なレギュレーションによる豊富で革新的なマシン・バラエティと、ヨーロッパでのスケジュールを縫ってF1ドライバーらが大挙出場した華やかさもあり、北米で最も人気のあるレースカテゴリーへと成長していた。

917PAでワークス・マクラーレンに苦杯を喫したポルシェ

1969年のCan-Amシリーズに向けポルシェが917Kをベースに開発した917PA。ライトなど余計なものを排除したオープンボディを纏っていたが、それでもライバルより100kg近く重かったという。「PA」とは北米での販売戦力をにらんで「ポルシェ-アウディ」の頭文字をとって名付けられたもの。

69年7月、その第3戦ワトキンスグレンにジョー・シファートのドライブで908/2が出場し大反響を巻き起こしたポルシェは、主力市場である北米での影響力の大きさを理解し、開発したばかりのグループ4マシン、917をCan-Amに投入するプロジェクトをスタートさせる。

こうして急造的に開発されたのが917PA(当時の北米の販売網を意識しポルシェ-アウディ=PA を名乗った)だ。Can-Amのレギュレーションに合わせ、灯火類やスペアタイヤを外し、オープントップのボディを架装して軽量化を図った917PAだったが、大排気量、大パワーのシボレーV8を搭載するワークス・マクラーレンには敵わなかった。

マクラーレンに対抗するためV型16気筒エンジンを開発

その後、ヨーロッパでのマニュファクチャラーズ選手権に集中するため、1970年のCan-Am挑戦は休止されるものの、ポルシェでは71年からの参戦再開を目指して開発を継続。大排気量V8に対抗するため、917の5.0リッターV12にさらに4気筒を付け足した6.5リッター空冷180度V16DOHCエンジンを開発する。

このV16ユニットを搭載した917PA/16スパイダーは、800hpというパワーもあり、テストでは高評価を得たと言われるが、結局実戦には投入されずにお蔵入りすることとなった。というのも、ヴァイザッハでは大きく重いV16に代わる新たなエンジンが産声を上げていたからだ。

5.0リッターV12にポルシェ初のターボを積む912/12ユニットへスイッチ

ポルシェ 917/10Kのフロントスタイル
917/10に5.0リッターV12DOHCツインターボを搭載した917/10K。ペンスキー・レーシングのジョージ・フォルマーの活躍で、ポルシェ初のCan-Am優勝を飾ったほか、シリーズタイトルも獲得した。

それがポルシェ初のターボ・エンジン、912/12ユニットである。これは917の5.0リッターV12DOHCにエーペルシュペヒャー(後のKKK)製のターボチャージャーを2基装着したもので、その最高出力は850hp(シーズン中に1000hpへ進化)を記録した。

1971年シーズンに、フレーム以外の各部を軽合金に換えて軽量化した917/10で手応えを感じていたポルシェは、72年シーズンが始まると912/12ユニットを搭載した917/10K(Kはターボの意)を投入。ワークスであるペンスキー・レーシングからエントリーしたジョージ・フォルマーが5勝を記録し、常勝マクラーレン・ワークスを打ち破ってシリーズ・タイトルを獲得したのである。

続く73年シーズンに向けてポルシェは排気量を5.4リッターに拡大し、最大で1560hpを発生したといわれるV12ツインターボ 912/52エンジンを搭載した917/30を開発。ペンスキー・スノコ・レーシングのエースとなったマーク・ダナヒューは、このモンスターを見事に乗りこなし、第3戦ワトキンスグレンから6連勝を記録。シリーズチャンピオンに輝いた。

レースから締め出された後も最高速度記録を達成するなど活躍

1975年8月9日、アメリカ・タラデカ・スーパースピードウェイで速度記録に挑戦し、355.860km/hの世界記録を樹立した917/30。ドライブしたマーク・ダナヒューは記録樹立後の8月17日にF1オーストリアGPで起きた事故でこの世を去った。

ところが、ポルシェの圧勝によるシリーズの人気凋落を危惧した主催者は1974年から燃料規制を導入。それを受けポルシェは73年シーズンをもってワークス活動を終了する。

しかし、これで917/30の物語が終わったわけではない。75年8月9日、アメリカ・アラバマ州リンカーンにあるタラデカ・スーパースピードウェイでダナヒューは専用チューンを施した917/ 30でサーキットにおける平均速度の世界記録に挑戦し、355.860km/hという記録を樹立した。

そして917/10K、917/30を通じて極限の状況下で鍛え上げられたポルシェのターボ技術は、そのまま市販モデルへとフィードバックされることとなる。

【SPECIFICATIONS】
ポルシェ 917/30
年式:1973年
エンジン形式:空冷180度V型12気筒DOHCツインターボ
排気量:5374cc
最高出力:1200~1560hp
最高速度:385km/h

TEXT&PHOTO/藤原よしお(Yoshio FUJIWARA)
COOPERATION/ポルシェ ジャパン(Porsche Japan KK)

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藤原よしお

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