サーキット専用ハイパーカー「ヴァルキリーAMRプロ」を試す

サーキット専用ハイパーカー「アストンマーティン ヴァルキリー AMR プロ」は1000ps超とかそういうこと以上に驚愕の性能を持っていた

ル・マン・ハイパーカーのレギュレーションを超えるエアロダイナミクス性能と、F1マシンに迫るサーキット走行性能を備えるヴァルキリーAMRプロ。その走りは驚異的だ。
ル・マン・ハイパーカーのレギュレーションを超えるエアロダイナミクス性能と、F1マシンに迫るサーキット走行性能を備えるヴァルキリーAMRプロ。その走りは驚異的だ。
公道走行が可能なヴァルキリーをベースに作製された、一切の規制から解放された究極のトラックマシン、それがヴァルキリーAMRプロだ。クローズドコースを走るためだけに生まれた1014psのV12マシンの実力を富士スピードウェイで試す。

Aston Martin Valkyrie AMR Pro

シェイクダウン走行のために本社からエンジニアが来日

ヴァルキリーと比べてホイールベースは380mm、全長は266mmそれぞれ延長。トレッドもフロントで96mm、リヤは115mm拡大されている。
ヴァルキリーと比べてホイールベースは380mm、全長は266mmそれぞれ延長。トレッドもフロントで96mm、リヤは115mm拡大されている。

アストンマーティン・ヴァルキリーAMR Proは、ヴァルキリーをベースに仕立てられた世界40台限定の究極のハイパーカーだ。純粋なレーシングマシンではないが公道走行は不可というそのパフォーマンスは、バーレーンをF1の4秒落ちで周回するという驚愕のモデルである。

本邦初上陸の貴重な1台は、アストンマーティン本社も一目置くコアな日本のオーナーに納車されたものだ。この日のために本社からエンジニアとメカニックが来日し、シェイクダウン走行に備えている。なんと、オーナーは自分自身よりも先に我々に試乗を許してくれた。その神対応に感謝である。

ドライビングポジションだが、ステアリングはオーナーに合わせて調節して固定されている。やはり固定されたシートに座り、電動で前後する2つのペダルとフットレストユニットをスライドさせてベストな位置を探るのだ。そして走行までにはいくつかの儀式がある。

まずメインスイッチをONにする。するとモニターに「COSWORTH」の文字が鮮明に浮かびニンマリ。そう、背後に低く搭載される6.5リッター65度V12は名門エンジンメーカーの手になるものだ。

主要なスイッチはステアリング上に集約されている。まずPITスイッチをON。続いてドライブセレクトで「BUMPSTART ACTIVE」を選び、パドルで1速に入れてブレーキペダルをリリースすると、実に重苦しいギヤの噛み合う音を響かせてモーター走行を開始する。ハイブリッドではないが、押しがけのような感じでモーターで動かしてからエンジンをかけるのだ。

フォーミュラカーと同等の横G

「車速が18km/h程になったらフルスロットルにせよ」というスタッフの指示。800psと1000psがあるエンジンマップは800ps設定である。初走行故に全開にして「もし何か起ったら」と危惧したが、PITスイッチONでは最高速が40km/hに設定されるので暴走することはない。

モーター走行からまさに押しがけのようなクランキングを感じたと同時に“チュドーン”と爆発的に始動するV12。タイヤには事前に熱が入っているので、本来のグリップ力が発揮される。

第1コーナーを曲がる。その路面を捉えているタイヤのグリップ感、少ない舵角でノーズからインに吸い込まれるように曲がるこの感触は、前後にウイングを持ち、強力なダウンフォースで路面に接地して走行するフォーミュラカーと同じ印象だ。

つまり速度が増せば増すほど空気の力で路面へ接地させる力が強くなり安定するのだ。1コーナーを下り、左のコカコーラコーナー進入時点ですでに200km/hを超えている。減速もソコソコに曲がれることの凄さを感じながらFSWの難所、100Rに入る。まだ1周目にも関わらず4速200km/hほどで余裕の旋回が可能だ。慣れればさらにアクセルを深く踏める、いや5速でもアクセルを深々と踏み込めるだろうと思えるほど安定して曲がっていく。

ここではヘルメットの重量が首へのストレスとして加わり、腹が捩れるような横Gも感じる。まさにフォーミュラカーと同等だ。前後タイヤのグリップ力は、筆者レベルでは限界を超えることなど到底叶わないほどの高みにある。もっとも、こうした難所をことも無げにクリアする性能があるからこそ、ジェントルマンドライバーが安心してサーキットでアクセルを踏み込めるのである。

300km/h超まで軽々と伸びる車速

ヘアピンを立ち上がり、300Rはやはり軽く200km/hを超え、しかも狙った通りのラインを確実にトレースしていく。Rがきつくテクニカルな後半セクションは車速が高いと曲がり難いのだが、ここもさらに曲げたいと思えば舵角を増すだけであっさりとクリアする。電動パワステの効果によりステアリング操作は軽いが、どれだけの舵角を与えているか、戻りの反力も正確に伝わってくる。アクセルとブレーキは両足で操作する方がやりやすい。また発熱と同時に張り付くように急減速するカーボンブレーキの減速Gにも慣れが必要だ。

最終コーナーを立ち上がりフル加速に入る。200km/hまでが軽快なスーパースポーツは数多く経験したが、200km/hから300km/hを超えるまで、抵抗を感じずに軽々と車速が伸びるクルマは初めて経験する。オーナーカーでブレーキングを無理をするわけにはいかないので2本目のブリッジでアクセルを戻すが、それでも312km/hと、筆者自身のFSW最高速度を更新した。そして300km/hオーバーからのフルブレーキングでは身体がシートベルトに食い込むほどの減速Gの高さも初体験だった。

ハイパーカー市場は今後ますますエスカレートしそうだが、現実のF1チームが開発に携わると、こんな驚愕の性能を持つクルマになることがわかった。

1014ps/740NmのV12エンジンも、最高速の360km/h走行時に2tという(エンジニアは車重と同程度というから1tの説も)ダウンフォースも、巨大なキャリパーとカーボンディスクが生むブレーキ力も、前後左右の最大Gフォースは3Gを超えるというのも、慣れなければ脳が片寄ってブラックアウトしそうな領域に入るレベルだろう。過去に登場したサーキット専用車と比べても、ケタ違いのポテンシャルの持ち主である。

REPORT/桂 伸一(Shinichi KATSURA)
PHOTO/市 健治(Kenji ICHI)、アストンマーティン・ジャパン
MAGAZINE/GENROQ 2022年 10月号

【問い合わせ】
アストンマーティン・ジャパン・リミテッド
TEL 03-5797-7281
https://www.astonmartin.com/ja

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桂 伸一