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Pagani Utopia
いちはやくCFRPの内製を導入
オラチオ・パガーニがランボルギーニ社を離れ、自身の会社「モデナデザイン」を興したのは1992年のことだ。
ランボルギーニ社は当時、クライスラー傘下となって束の間の平穏期を迎えようとしていたが、新しい経営陣がスーパーカービジネスの未来を読む力などまるでないことをオラチオ自身は見抜いていたに違いない(実際、クライスラーはスモールランボ開発予算をF1に注ぎ込むなどめちゃくちゃだった)。
新たなテクノロジーとして炭素繊維強化樹脂(CFRP)の内製を訴えるもこれを却下されると、彼は潔く会社をやめて起業し、プリプレグ成形用オートクレーブを導入したのだった。彼に先見の明のあったことは言うまでもない。パガーニ社は今やカーボン成型の最先端企業として世界に認められているほか、ランボルギーニも2011年以降、カーボン成型に(ようやく)力を入れ始めたのだから。
世界におよそ100名いるVIPに向けて
モデナデザインの創立から数えてちょうど30周年の節目にあたる2022年、既報の通り、ついに第3世代のパガーニ・ロードカーがデビューを果たした。その名もウトピア(筆者はあえてユートピアと呼ばない)。
筆者の第一印象は“まさにパガーニ”だった。その開発キーワードは「シンプル」「ライトウェイト」「ドライビングファン」という、これまた極めてわかりやすいテーマを並べているが、実を言うとこれらはパガーニにとって馴染みの深いキーワードでしかない。これまでの2世代、ゾンダとウアイラもそれらのテーマを根源的に実現するモデルであることは間違いない。
世界におそらくは100名程度に絞られるに違いないパガーニのVIPユーザーが、その3つを望んだとオラチオは説明したが、ある意味、それは当然だ。ゾンダもウアイラもそうだったのだから。
ビス1本にいたるまで
それゆえウトピアのパフォーマンスを導き出すパワートレインやボディ、シャシー、エアロダイナミクスデザインなどはウアイラの発展系と見てよく、もちろん得意のチタン&カーボンのモノコックボディや軽量サスペンションシステムなどメカニズム構成は完全に新設計ながら従来のコンセプトを一層磨き上げたものだと言っていい。
そもそもパガーニのハイパーカーコンセプトは極めてわかりやすい。Cカーに代表される1990年代のスポーツプロトタイプの構成をお手本に、ビス1本に至るまであらゆる軽量かつ高価な素材を適材適所で贅沢に使い、スパルタンではあるけれどもとびきりラグジュアリーに仕立て上げた“走る宝石”、それがパガーニだ。
それゆえゾンダの頃からその作りは贅沢であるけれどもシンプルで、結果的に軽量であり、そしてダイムラー・メルセデスとの協力によって供給されるV12ユニットのおかげで、パワフルなドライビングファンカーであり続けている。それぞれのパートにおける進化はあっても、それは、ウアイラも、そして最新のウトピアも同様であると言っていい。
なんとATからMTに変更可能
ウトピアの第一印象は、ゾンダとウアイラRに1960年代のスポーツプロトタイプレーサーの雰囲気を足して3で割ったというものだった。
ウトピアで絶賛すべきはマニュアルトランスミッションを復活させたことだろう。サーキットでのラップタイムよりファンを望むVIPの声を聞き入れ、3年前に急遽、方針転換したらしい。ギアボックスそのものはXトラックそのもので変わらない。その着想はゲーム(あるいはシミュレーター)から得たもので、面白いのはロボタイズドMTの変速システムの“マニュアル化”を自社で設計し直したということだ。
つまり顧客は望めば3ペダルと2ペダルの変換をオーナーライフの途中であってもパガーニにオーダーできる。パガーニはミッションそのものを載せ替えることなくペダル数とシフト操作装置(パドルシフトかスティックシフターか)を変更できるというわけだ。
パワートレインはどうなるのか?
現在、パガーニ社の生産規模は年産最大50台だという。計算上、ウトピア ベルリネッタはこれから3年以内に完売する。ルーフ形状から考えてオープンを出すのか出さないのか、出すならどのように出すのか、興味は尽きない。けれどもそれ以上に注目したいのはメルセデスAMGによるエンジン供給だ。
1990年代、オラチオはイタリアでの就職活動に続き、再び、故郷の英雄ファン・マヌエル・ファンジオを頼って、ゾンダの基本コンセプトを確立した。その際、紹介されたのがメルセデス・ベンツのエンジン開発部門にいたディーター・ツェッチェ、後のベンツ社長である。そのツェッチェも今はもういない。果たしてエンジン供給はこの先、どうなるのか。オラチオがすでにその答えを出していることは間違いない。