「BMW M3 ツーリング」と「アウディ RS 4 アバント」ハイパワースポーツワゴンを比較試乗

ハイパワー4WDスポーツワゴン「BMW M3 ツーリング」と「アウディ RS 4 アバント」を比較試乗

高い動力性能を持つスポーツワゴン。その最新作であるBMW M3コンペティション M xドライブ ツーリングと、アウディRS4アバントを比較した。
高い動力性能を持つスポーツワゴン。その最新作であるBMW M3コンペティション M xドライブ ツーリングと、アウディRS4アバントを比較した。
1台ですべてを満たしたい。Dセグメントのハイパワーワゴンはそんな目的に最も相応しい。扱いやすいボディサイズと4人での旅行も可能な積載性、そしてスーパースポーツ並みの速さ。BMWとアウディの2台は、どちらを選んでも幸せな日常が送れることは間違いない。(GENROQ 2023年8月号より転載・再構成)

BMW M3 Competition M xDrive Touring
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Audi RS 4 Avant

ハイパワースポーツワゴンを牽引する2モデル

スポーツモデルを試すには、あいにくのウエット路面で、BMW M3コンペティション M xドライブ ツーリングと、アウディRS4アバントを走らせた。

ステーションワゴンはある時期まで“豊かさの象徴”としてとらえられ、同じモデルでもセダンよりも上級の位置づけであることが多い。フロント部はそのままに、リヤを箱型とした姿は、日本では商用バンとしてとらえられがちだが、欧州ではアウトドアアクティビティに対応しながらもフォーマルさも失わないモデルとして一定の需要を保つ。人気の面では、日本では性能向上が著しいSUVに押されがちだが、欧州には根強いファンがいて、主要なモデルにはワゴンが存在する。

豪華なワゴンの派生として、高い動力性能を持つスポーツワゴンというジャンルも生まれた。この分野の先駆者はアウディだ。クワトロ部門、現在のアウディスポーツが1993年に80アバントをベースにターボエンジンを搭載したRS2が、スポーツワゴンの源流と言えよう。RS2はその後RS4へと発展し、さらにパフォーマンスの高いRS6アバントを追加するなど、アウディはスポーツワゴンを充実させた。その動きはいくつかのフォロワーを生み、スポーツワゴンがひとつのジャンルとして確立された。

アウディにとってのアウディスポーツは、BMWで言えばMだ。M3にM5と、その時代に同社がもつ最高のエンジンを与えたスポーツモデルが存在したが、アウディとは違い、これまではほとんどセダンにしかMを設定してこなかった。過去、V10時代のM5にのみ存在したが。

今回、久しぶりにMのツーリングモデルが、M5ではなくM3に設定された。連綿とスポーツワゴンをラインナップしてきたアウディももちろん健在。というわけで、BMW M3コンペティション M xドライブ ツーリングと、アウディRS4アバントを連れ出して走らせた。あいにくすぎるウエット路面を。

遊び心を持ち込んだM3 ツーリング

現行G20、21型のM3は510PS/6250rpm、650Nm/2750-5500rpmを発揮する伝統の直6ターボを搭載する。トランスミッションは8速AT。「BMWといえばFRでしょ」と決めつけるのはオールドファンだ。彼らがxドライブと呼ぶ4WDシステムを幅広いモデルに採用し、M3にもとうとうそれが採用された。

ただしMハイパフォーマンスモデル(BMWはM340iなどをMパフォーマンスモデル、チューニングの高いM3などをMハイパフォーマンスモデルと呼んで分類する)に採用するシステムは、「M xドライブ」と呼ぶ特別なシステムで、DSCオンの4WDモードを基本設定とし、Mダイナミックモードを選ぶとリヤアクスルへの駆動トルク配分が増加し、後輪のスリップ許容量も大きくなる。腕自慢にとってはトラクションの良さと旋回性の良さを両立できるスポーティなモードと言える。

速く走るならこれだけで十分なのだが、BMWはM3に遊び心を盛り込んだ。熟練ドライバーのためにDSCをオフにした際に限って完全に後輪駆動となるモードを選ぶことができる。プレスリリースには「ドライバー自らが車両を操作する歓びをダイレクトに味わうことが可能になっている」とあるが、禁断のモードと言うべきだろう。これまであえて古典的な後輪駆動を堅持してきたM3が500PSを突破したエンジンの破壊力を鑑み、観念したかのように4WD化したにもかかわらず、ドライバーの判断でそれを解除できる仕組みを盛り込むとは実に面白い。

その心意気に敬意を表し、ウエット路面で一度だけ2WDにして発進させると、ほんのわずかにステアリングを切っていただけにもかかわらず、クルマはきれいに横を向こうとするではないか。身体が自然に反応してカウンターステアを当てたことで、クルマは惚れ惚れするような挙動で前進した。これはゲームか?

ほとんどを4WDの基本設定で走らせたのだが、一般道での乗り心地は前後異サイズの極太タイヤを装着するにもかかわらず320iといっても通用するような快適さ。ハイパワーを獲得する代わりに差し出すものがない。ただどんな状態からでもアクセルペダルを強く踏んだ際にロケットのように加速する点のみが、320iと決定的に異なる。

最新のRS4でも変わらぬアウディの黄金律

4世代目となる現行のアウディRS4は2017年にデビューした。450PS、600Nmを発揮する2.9リッターのV6ターボを搭載。このエンジンは従来型のV8(4.2リッター)に比べ、最高出力は同じながらも最大トルクは170Nm向上している。

8速AT、そしてもちろん4WDである。M3のように後輪駆動になるような悪ノリは備わらず、左右の駆動力配分を最適化するスポーツディファレンシャルを装備し、とてつもないパワーを確実に路面に伝達することを優先する。機械的に作動するセンターデフによって、トルクの60%をリヤに、40%をフロントに配分する。前後左右いずれかの車輪がスリップすれば、フロントに最大70%、リヤに最大85%のトルクが配分される。この前後配分の機構は昔から変わらない。つまりアウディはスポーツ4WDにはこの配分がベストであると信じて疑わないわけだ。

飛ばさない間の快適度が高いのはM3と同じだ。スイッチバルブを内蔵した新世代可変ダンパーのおかげで各ドライブモードの“幅”が広く、コンフォートを選択すれば275/30R20のタイヤとは思えず、ほぼ35TFSI同様の快適性が得られる。

常に意思確認してくるように思える。

両者の動力性能の上限はもはや一般道では到底垣間見ることの出来ない領域にあるが、ワインディングロードや高速道で味わうことができる範囲で比較すると、M3はどこからでも踏めばかっ飛ぶわかりやすいスポーティさ、ワイルドさを見せるのに対し、RS4は常に「お前は本当に速く走らせたいのか?」と意思確認してくるように思えた。ステアリングやペダル類の操作に必要な重みとして、旋回性能よりも直進でのトラクションを重視した特性として表出していたように思える。

いずれもベースモデルは登場してからかなり時間が経っているのだが、昨年大きな変更があって、インフォテインメントシステムを中心に、大きく刷新された3シリーズから生まれたM3のほうが全体的に新しさを感じる。走りの本質とは直接関係ないことではあるが。最後になったが、ステーションワゴンの本懐であるユーティリティー性能は拮抗している。

REPORT/塩見 智(Satoshi SHIOMI)
PHOTO/篠原晃一(Koichi SHINOHARA)
MAGAZINE/GENROQ 2023年8月号

SPECIFICATIONS

BMW M3コンペティション M xドライブツーリング

ボディサイズ:全長4805 全幅1905 全高1450mm
ホイールベース:2855mm
乾燥重量:1870kg
エンジンタイプ:直列6気筒DOHCツインターボ
排気量:2992cc
最高出力:375kW(510ps)/6250rpm
最大トルク:650Nm(66.3kgm)/2750-5500rpm
トランスミッション:8速AT
駆動方式:AWD
サスペンション:前マクファーソンストラット 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤ&ホイール:前275/35ZR19 後285/30ZR20
0-100km/h加速:3.6秒
車両本体価格:1394万円

アウディRS 4アバント

ボディサイズ:全長4780 全幅1865 全高1435mm
ホイールベース:2825mm
乾燥重量:1820kg
エンジンタイプ:V型6気筒DOHCツインターボ
排気量:2893cc
最高出力:331kW(450ps)/5700-6700rpm
最大トルク:600Nm(61.2kgm)/1900-5000rpm
トランスミッション:8速AT
駆動方式:AWD
サスペンション:前後ダブルウィッシュボーン
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤ&ホイール:前後275/30ZR20
車両本体価格:1316万円

【問い合わせ】
BMWカスタマー·インタラクション·センター
TEL 0120-269-437
http://www.bmw.co.jp/

アウディ コミュニケーションセンター
TEL 0120-598-106
http://www.audi.co.jp/

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著者プロフィール

塩見 智 近影

塩見 智

1972年岡山県生まれ。1995年に山陽新聞社入社、2000年に『ベストカー』編集部へ。2004年に二玄社『NAVI』…