フェラーリでマラネッロからル・マンまで1200km旅で感じた跳ね馬の未来

「マラネッロからル・マンへ」1200kmフェラーリの旅で感じた刺激と興奮だけじゃない跳ね馬の可能性とは?

ル・マン24時間の日程にあわせてフェラーリが用意したメディアツアー。マラネッロからル・マンまでの1200kmを2日かけてロードカーで移動した。
ル・マン24時間の日程にあわせてフェラーリが用意したメディアツアー。マラネッロからル・マンまでの1200kmを2日かけてロードカーで移動した。
50年ぶりにル・マン24時間のトップカテゴリーに挑むフェラーリ。かつてレーシングカーが自走でサーキットを訪れた時代へのオマージュか、フェラーリがル・マンへと送り込んだ499Pと同じV6ハイブリッドの296で、フェラーリの中枢たるマラネッロからル・マンへの旅を敢行した。(GENROQ 2023年8月号より転載・再構成)

ROAD TO LE MANS

Ferrari 296 GTB/GTS

ル・マンまで1200kmの旅へ

100周年という節目を迎えたル・マン24時間レースにおいて展開された、フェラーリのドラマチックな物語。その物語が始まる3日前の朝、久しぶりにマラネッロのゲートをくぐった筆者の前には、長旅に出るべく準備を終えた296GTBが用意されていた。

フェラーリはル・マン24時間の日程にあわせて、マラネッロからル・マンまでの1200kmを2日かけてロードカーで移動するメディアツアーをわれわれに用意した。かつてル・マン24時間といえども、参加するマシンはサーキットまで自走で行き、そして自走で帰ってきた。世界ラリー選手権(WRC)のモンテカルロラリーもつい最近までコンサントラシオンと呼ばれる、各マニファクチャラーのファクトリーからモナコまで、自走する儀式があったが、その現代版だろう。

いずれにせよ往時のレーシングカー、あるいはレーサーを気取るには最高の舞台が、ル・マン24時間を前に用意されたことに妙に感動してしまった。しかも、われわれに供されたフェラーリは296である。既報のとおり、今回ル・マン24時間レースで優勝した499Pは、この296の3.0リッターV6ツインターボとエンジンブロックを共用する。ハイブリッドパワートレインという点も同じである。この時はまだウイニングマシンと知る由もないのだが。

ゾーン30ではハイブリッドモードを選択してEV走行

はやる気持ちを抑えて、まずは無事完走、そして願わくばビリにならないようにそそくさとスタートした。このメディアツアーには欧米アジアなど世界各国から60媒体以上が参加しており、われわれ日本チームはマラネッロからスタートするが、欧州勢はパリやロンドン、フランクフルトなどを起点とするという。マラネッロからのスタートは12台24媒体だ。結果的には迷子になったり、時間の感覚を喪失した媒体があって、ツーリングはゴール予定時間になっても全車揃わない、いつもの光景となるのだが。

1200kmツーリングはマスツーリングではなく単独ドライブとなるが、運転は2人で交代しながら走る。今回ペアを組んだのは、『カーグラフィック』の加藤社長だ。前職の元上司なので、車内は基本的に逆らえない雰囲気に包まれるだろう。

296GTBにはこれまで日本でも何度か乗ったことがあるが、1200kmも一気に走るのは初めてだ。3.0リッターV6の恐ろしいほどのレスポンスと溢れんばかりの出力とトルクは、改めて感服せざるを得ない。高速域でもスピードコントロールしやすく、ゾーン30のような市街地ではハイブリッドモードを選択すればEVモードになり、眉を顰められることもない。ただしル・マンに近づくにつれ「なぜサウンドを聴かせないんだ」と言うメッセージ(ご想像の通りのジェスチャー)を受けるようになったことも付け加えておきたい。

移動するという行為自体は変わらなくても

結局、初日の夜、指定されたホテルに1番に着いた。加藤さん、めちゃくちゃ飛ばしてたからな……。そんな走行でも800kmのうち約1割をEV走行したとメーターに表示された。もちろん途中で給油したが、エコランすれば、これまでのフェラーリでは見たこともないような燃費が拝める可能性を感じた。

途中立ち寄ったフランス・ラドゥーのミシュランR&Dセンターでは、フェラーリとミシュランの関連性や、様々な次世代技術のプレゼンを受けた。次世代技術は主にサステナブルに主眼を置いたものだ。これはル・マン24時間の会場でも感じたことだが、サステナブルな才能や性能は、誰でもどこでもフェラーリすらも求められているのだ。すでに代替燃料によるレースは、国内トップカテゴリーのGTやフォーミュラでも進行中だし、ル・マン24時間レースでも2026年には水素燃料クラスが用意されるという。

移動するという行為自体は変わらなくても、その内容やそこに伴う責任は100年前とは大きく異なるものになった。1200kmの旅路は刺激的ではあったが、基本暇なので色んなことを考える時間があった。

REPORT/吉岡卓朗(Takuro YOSHIOKA)
PHOTO/FERRARI S.p.A、GENROQ
MAGAZINE/GENROQ 2023年8月号

SPECIFICATIONS

フェラーリ296GTB〈GTS〉

ボディサイズ:全長4565 全幅1958 全高1187〈1191〉mm
ホイールベース:2600mm
車両乾燥重量:1470〈1540〉kg
エンジン:V型6気筒DOHCツインターボ+モーター
総排気量:2992cc
最高出力:488kW(663PS)/8000rpm
システム総合最高出力:610kW(830PS)/8000rpm
システム総合最大トルク:740Nm /6250rpm
バッテリー容量:7.45kWh
トランスミッション:8速DCT
駆動方式:RWD
サスペンション形式:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ(リム幅):前245/35ZR20(9.0J) 後305/35ZR20(11J)
最高速度:330km/h以上
0-100km/h加速:2.9秒
車両本体価格:3710〈4313〉万円

ウイニングランを行うフェラーリAFコルセの「フェラーリ 499P」51号車(アレッサンドロ・ピエール・グイディ/ジェームズ・カラド/アントニオ・ジョビナッツィ)。

2023年ル・マン24時間レースで「フェラーリ 499P」が総合優勝「50年ぶりのトップクラス参戦」【動画】

2023年6月11日、ル・マン24時間レースで「フェラーリ 499P」が総合優勝を達成した。50年ぶりにトップクラスに参戦したフェラーリは、半世紀を経て、歴史的な結果を収めた。跳ね馬にとってル・マン24時間レースにおける10回目の総合優勝という。

キーワードで検索する

著者プロフィール

吉岡卓朗 近影

吉岡卓朗

大学卒業後、損害保険会社に就職するも学生時代から好きだったクルマのメディアに関わりたいと、1999年に…