ロータスの中枢へセルと往年のケタリンガムを訪れて見た驚きの光景

「お城でF1マシンが作られている?」興味深すぎるロータスの伝説の真相を解明するべくケタリンガムに行ってみた

クラシック・ティーム・ロータス(CTL)の2階に保管されているF1マシンたち。ロータス72が何台もあってビックリ。
クラシック・ティーム・ロータス(CTL)の2階に保管されているF1マシンたち。ロータス72が何台もあってビックリ。
15年ぶりにロータスの本拠地であるヘセルを訪れたモータージャーナリスト吉田拓生。そこでは新世代ロータスの象徴とも言えるフル電動ハイパーカー「エヴァイヤ」が粛々と生産されていた! 肉眼で見たその製作の様子と、往年のケタリンガムホール初訪問の感動をリポートする。

目撃、エヴァイヤ!

「そういえばエヴァイヤはどこに?」今回ロータスの本拠地であるヘセルを訪ねた時、最初に考えたのが2019年に発表されたハイパーEV「エヴァイヤ」のことだった。グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピード(FOS)の現場でエヴァイヤの走る姿は目の当たりにしている。それでも実感がわかなかったのは、誰がどこでどうやって作っているのかを目にしていなかったからかもしれない。

ひと通りヘセルの建物を案内してもらった最後、我々は敷地の南端にある体育館ほどの建物に案内された。エミーラを作っているチャプマン・プロダクション・センターのような名称もない、けれども新しくてきれいな建物。中に入ってみると、まるでF1のファクトリーのような明るくて清潔そうな空間の中でエヴァイヤが組み上げられていた。8台ほどリフトアップされており、その中の黒い3台は限定8台のエヴァイヤ・フィッティパルディだ。全てオーナーが決まっている一点物のようなエヴァイヤだけに、ファクトリー内の撮影は禁止。僕はその光景を目に焼き付けるようにして10分ほど見学させてもらった。

2019年に富士スピードウェイでエヴァイヤがお披露目された時、既存のモデルとはかけ離れすぎていたこともあり「これぞロータス!」という実感が湧かなかった。だがエレトレが登場し、エミーラの完成度を知ったあとでは、ヒエラルキーの頂点にエヴァイヤがいるのは必然かもしれないと感じた。

CTLは新社屋でロータスの始祖を製作中

ロータス・カーズの通りを挟んだ向かい側に、クラシック・ティーム・ロータス(CTL)の立派な社屋が建っていた。以前のCTLはその隣の敷地内にある古びた小さなファクトリーで営業していた記憶があるのだが、そのギャップの大きさにびっくりしてしまった。

ロータスの創業者であるコーリン・チャプマンの息子であるクライブ・チャプマン率いるCTLは、現在のロータス社と資本関係があるわけではない。だがクラシック・ロータスの核ともいえるレーシング部門の担い手として両社の関係は良好なようだ。

我々に新たなファクトリー内を案内してくれたのはウィリアム・テイラーさん。どうも名前を聞いたことがあるような気がしたら、ロータス関係の書籍を数多く手がけている著者でもあり、5年ほど前からCTLに属しているという。歴史的なレーシングカーや当時モノの設計図、パーツ、腕利きのメカニックといったリソースだけでなく、ウィリアムさんのようなヒストリアンまで在籍しているあたりに“本物の層の分厚さ”が感じられた。

実際にCTLのカバレッジは拡大しているようで、以前はフォーミュラカーだけだったものが現在はそれ以外のモデルも手掛けるようになっていた。47GTのようなGTレーシングだけでなく、ロータス・マーク1のレプリカの製作も行っていたのである。21世紀に入ってからのクラシックカー人気を象徴するようなCTLの繁栄ぶりだったのである。

かつてのF1基地にて思いがけない収穫。

ロータスのファクトリーとCTLを訪ねたあと、まだ陽が高かったので、ヘセルの小道の奥にあるケタリンガムホールを見に行ってみることにした。かつて「ロータスF1はお城で作られている!」という記述と共に見た古い貴族のお屋敷のようなケタリンガムホールは衝撃的だったが、そういえば実際に行ったことがなかった。

牧草地が広がるヘセル界隈にしては木々が多いケタリンガムの、その奥に古城はあった。見た目は古いままだが、現在はいくつかの会社が入っているらしい。誰もいないのをいいことに勝手に敷地内に入って見物を開始。ほどなくして犬を連れたおじさんが近づいてきたので「あぁ、追い出されちゃう」と思ったらこのおじさん、ロータスの帽子をかぶっている! きっと話が分かる人だと思ったらビンゴだった。昔ここがロータスF1の基地だったと聞いて見に来ましたというと、中を見せてくれるというではないか! 何たる幸運。

おじさんはケタリンガムホールの管理人をしていて、しかもかつてはティーム・ロータスの空力担当だったという! かつてロータスがF1マシンを開発していた部屋は、ごく普通の古いオフィスという感じ。でもイギリスの片田舎、ノーフォーク地方のこの場所でグラウンドエフェクトから世界初(諸説あり)のカーボンモノコックといったF1グランプリを席巻する革新的なテクノロジーの数々が誕生しているのだから面白い。ケタリンガムホールは今回の旅で最もうれしい偶然を演出してくれたのだった。

ケタリンガムホールの場所

2008年以来15年ぶりに訪れたイギリス・ノーフォーク州ヘセルにあるロータスのファクトリー。

「もうあの頃のロータスではない?」15年ぶりに訪れた「へセル」で発見した変化と進化

ロータスの中枢たるヘセル。かつてのロータスの味付けを象徴するテストトラックも工場も、社員食堂すらも大きく変わったその姿を15年ぶりに、ヘセルを訪れたモータージャーナリスト吉田拓生がリポートする。

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著者プロフィール

吉田拓生 近影

吉田拓生

1972年生まれ。趣味系自動車雑誌の編集部に12年在籍し、モータリングライターとして独立。戦前のヴィンテ…