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Lotus Emeya
中国の大資本ジーリーによる買収で
ロータスが今、急激に生まれ変わろうとしている。いったいこれが何度目の正直なのか。数えることはしないでおこう。けれども伝説の創始者コーリン・チャプマン(ACBC)亡き後、ロータス社の経営は決して一筋縄ではいかなかった。
1990年代半ば以降にはエリーゼにはじまるライトウェイトスポーツカービジネスで一定の成功を果たしたとはいうものの、自動車産業そのものが大変革の時代を迎えるにあたって、その未来は必ずしも明るくなかったように思う。
一筋の光明が中国の大資本ジーリーによる買収である。そして今、ロータスはジーリーによる潤沢な投資を受けてファンやマニアでさえキャッチアップできないくらいスピーディな変革を遂げようとしているのだ。
初物づくしの「エレトレ」
9月初旬。筆者は新時代のロータスにおけるひとつの柱、フルバッテリー駆動ラグジュアリーカーシリーズの第1弾であるSUV「エレトレ」のジャパンプレミアに立ち会った。BEVという意味ではすでに「エヴァイヤ」というスーパースポーツを発表しているロータスだが「4ドア」「AWD」「SUV」となれば、そのヘリテージにはない存在であり、全く新しい取り組みであることはロータスをよく知らない人でも感じ取れたはずだ。
マニアはさらに複雑な思いを抱いたことだろう。過去のロータスにはまるでないイメージのモデルが、しかもBEVで登場したとなれば心中穏やかではなかったはず。否定派ももちろんいただろう。それでもブランドが生き残るためには仕方ないという消極的な肯定派も多かったに違いない。だが果たして積極的な肯定派はいるのだろうか?
驚愕のパフォーマンスを誇るエレトレ。しかしロータスの経営陣はそれだけで新世代の幕開けと宣言したのではなかった。翌週、筆者はニューヨークに飛んだ。早くも登場する第2弾のワールドプレミアを目撃するためだった。
第2弾の名は「エメヤ」。既報の通り、エレトレと多くのメカニカルコンポーネンツを共有する4ドアのスポーツサルーン。ロータスはハイパーGTと呼ぶ。世界で最も速いセダンである。
ニューヨークからあえて発信した理由
ワールドプレミアは今、ニューヨーク・マンハッタンで最も賑わう場所、チェルシーの“自動車修理工場”ビルで行われた。ミュンヘンではIAAが行われているというのに、ロータスは単独でニューヨークから発信。そこに経営陣の覚悟があった。
ビルのなかはロータスワールドだ。ヘリテージモデルが並ぶフロア、アルミのボディシェルなどエメヤの革新を伝えるフロア、そしてエメヤそのもの。ルーフトップにももう1台、グレーのエメヤが展示され、3日間限定で開かれたイベントでは夜な夜なパーティーピープルたちで賑わった。これまでのロータスにあった、擦り切れたレザーやアルカンタラに滲む汗や油のイメージはまるでない。若い世代の彼らこそは、新生ロータスの積極的な肯定者になりうる。
間近で見たエメヤは、そのサイドビューの美しさと運転席からのスポーツカーらしい眺め(ふくよかなフェンダーが見える)で筆者を喜ばせた。デザイン担当VPとなったベン・ペインも、「(7月に急逝した前任者の)ピーター(ホルバリー)からは、とにかく美しいクルマをデザインしろってずっと言われてきた。ロータスというとヘリテージを知っている人もいるけれど、知らない人はずっと多い。だからこそチャンスだと思う。聞きなれないブランドというわけではないけれど、見たこともない魅力的なクルマを作っていると人々に印象付けられたらいい」という。つまり、ニューヨークからあえて発信した理由はそこにある。
生まれ変わった最新ロータス
ブランドのマーケティングを担当するCCOのマイク・ジョンストンも、「ヘリテージを大事にしつつ、けれどもまったく新しいチャレンジを発表する場所として、ニューヨークほどふさわしい場所はない。ヘリテージ、スポーツカー、そしてBEVのラグジュアリーカーとさまざまな顔を持つブランドだからバランスを取っていくのは難しいけれど、とてもチャレンジングだしエキサイティングだ」とエネルギッシュに語った。
我々メディアはホテルからワールドプレミア会場(スタジオ・エメヤ)までニューヨークの街をエレトレで送迎された。静かに近づき去っていくエレトレに見とれているように見える人も多かった。口元が明らかに「ランボルギーニ?」と動く人もいた。LはLでもこれはロータス。よく覚えておきなさいよ。お節介にもそう言い聞かせて歩きたくなった。
週末には1966年式のエランS3を楽しむ筆者も、エレトレそしてエメヤと生まれ変わった最新ロータスを間近でみた後は、積極的に肯定する気分になっていたのだった。
PHOTO/西川淳(Jun Nishikawa)