「メルセデス AMG SL」と「ベントレー コンチネンタル GTC」2台を試乗して比較

4.0リッターV8のラグジュアリーコンバーチブル「メルセデス AMG SL」と「ベントレー コンチネンタル GTC」2台を比較

現存するオープンカーの系譜として、今回の2台ほど由緒正しいモデルはないかもしれない。
現存するオープンカーの系譜として、今回の2台ほど由緒正しいモデルはないかもしれない。
4代目以来となる2+2シートを採用したメルセデスAMG SL。中でもAMGが自社開発した585PS/800Nmを発生するM177型4.0リッターV8を搭載したSL 63は、まさにスーパースポーツといった動力性能を誇るオープンモデルだ。対するは同じくトルキーなV8を搭載するコンチネンタルGTCアズール。いずれも世俗とは隔絶した独自の世界観を持つモデルであった。(GENROQ 2023年12月号より転載・再構成)

Mercedes-AMG SL 63 4Matic+
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Bentley Continental GTC Azure

今回の2台ほど由緒正しいオープンカーの系譜はない

真打ちと言えるV8エンジン搭載の「SL63」と同じくV8を積む「コンチネンタルGTC」。

圧倒的な動力性能を備えた豪奢なオープンモデルは太古の昔から存在していた。幌型車はツアラーとして優雅なモデルがいくつもあるし、一方レーシングの世界では前面投影面積を減らすため、フロントのウインドスクリーンを小さなものに換え、屋根なしで走ることが有効だとされた時代もあったのである。そんな歴史的な背景からアプローチしてみたのは、今回揃えた2台が、クーペに対するぽっと出のバリエーションモデルではないからである。

コンチネンタルGTCは往年のベントレー・コンチネンタルRの直接的な子孫といえる。だがその系譜をさらに深く辿るとすれば、オープントップの巨大なボディで戦前のル・マン24時間レースを席巻した一連のブロワー・ベントレーたちに行き着くことになる。

一方メルセデスAMG SL63の血統もいい。いわずもがな、あの300SLの子孫なのだから。ガルウイング・クーペが有名だが、偉大という点では300SLRのようなオープンモデルの方が上だろう。

つまり現存するオープンカーの系譜として、今回の2台ほど由緒正しいモデルはないともいえる。

V8エンジンを搭載した歴代SLに共通する威厳

とはいえもちろん、最新の2台を前にして身構える必要はない。それらはスイッチ操作ひとつで青空を仰ぎつつ、リラックスして楽しむべきカジュアルな乗り物なのである。

個人的に興味があったのはメルセデスAMG SL63の方。以前4気筒のSL43をドライブし「軽快なSLの新しい風」を感じていたので、真打ちともいうべきV8モデルがどのような仕上がりになっているのか、気になっていたからである。

さっそくセンタースクリーン内のスイッチでソフトトップを開け放ち、頭頂部に風と日差しを感じながら走りはじめる。ステアリングのしっとりした重みと、ズシリと凝縮した質感が見事に符合する。30km/hで走っていても、V8エンジンを搭載した歴代SLに共通する威厳がひしひしと感じられる。

その点SL43は、低速時に肩透かしを食らうような感覚があった。鼻先の軽さが、「軽快感」となってポジティブに感じられるのは、かなりペースが上がってからの話。4気筒のSLは「本気で走らないと咀嚼できないスポーツカー」だったのだ。

でもSLってそれで良かったんだっけ? という疑問が湧いたことも確かだった。SLといえばスポーティな走りよりも威厳の方が重要と考える人も多いと思う。その点、今回のSL63はさすがだった。ゆっくり走っても、いいモノ感たっぷり。でもスロットルを深く踏み込めば、終る気配のない強烈な加速が続く。その際のスタビリティも異常なくらいに高い。その磐石な走行フィールに4マティックが貢献していないはずはないのだが、その違和感が微塵もないというのも凄い。車内に吹き込む走行風も非常に少ないので、結果としてスピードメーターの値の半分くらいの速度感しかないのである。

天井知らずの加速を見せてくれるGTC

V8エンジン搭載のSLはやっぱり真打ちだった。というとりあえずの結論を踏まえ、今度はベントレー・コンチネンタルGTCアズールに乗ってみる。アズールという上質なイクイップメントで固めたグレードではあるが、ベース車はSLほど新しいというわけではない。

ちなみに今回の2台は、共にオープンモデルであるという以外に、4.0リッターV8を積むという共通項もある。コンチネンタルGTCの最高出力は550PS。対するSL63は585PSというスペックを誇っている。まさに真っ向勝負なのである。

ところが、鮮やかなブルーの差し色が入ったアズールのシートに座った瞬間、最高出力のことはすっかり抜け落ちてしまった。その代わりに、ゆったりとして適度に柔らかいシートの座り心地に酔いしれた。直前まで座っていたSL63のシートがなかなか押さえ込みの強いタイプだったので、ベントレーのシートがいつも以上によく感じられたということもあるはずだ。

ベントレーもまた、スロットルを深く踏み込めば天井知らずの加速を見せてくれることは知っている。けれど「そんなことよりゆったりと季節感を楽しみましょうよ、せっかくのオープンモデルなんだし」と語り掛けてくれるような雰囲気がコンチネンタルGTCにはあるのだ。

だからといってコンチネンタルGTCの技術的な部分がSL63に対して劣っているということではない。技術的な部分を前面に押し出して主張するメルセデスAMGに対し、ベントレーは優雅な世界観で外殻を固めている感じ。とどのつまり、ブランドが目指す方向性が違う、ということなのだと思う。

触れているだけで心が豊かになるオープンモデル

共にオープンモデルで4.0リッターV8を積む2台。「コンチネンタルGTC」の最高出力は550PSに対し「SL63」は585PSというスペック。

とはいえ、公道仕様の高級オープンモデルという今回の主旨に照らし合わせた時「威厳こそあれ、やはり飛ばしてナンボ」というSLはどうなのか? と思わずにいられないのも事実。その点、3〜4代目のデタッチャブルハードトップがあった世代のSLは踏まなくてもOKな優雅さや威厳に満ちていたように思う。

「今回はメルセデスAMGなので、優雅さなんていりません」と言われたらそれまでなのだが……。でも個人的には、落としどころのない高性能車に見えてしまった。

今回の比較においてはコンチネンタルGTCの優位性が際立っていた。触れているだけで心が豊かになるオープンモデル。ベントレーに関しては、ついにW12エンジンが終わってしまうという残念なニュースもあるけれど、この英国ブランドの核心はそこではないといい切れる。

REPORT/吉田拓生(Takuo YOSHIDA)
PHOTO/小林邦寿(Kunihisa KOBAYASHI)
MAGAZINE/GENROQ 2023年12月号

SPECIFICATIONS

メルセデスAMG SL 63 4マティック+

ボディサイズ:全長4705 全幅1915 全高1365mm
ホイールベース:2700mm
車両重量:1940kg
エンジンタイプ:V型8気筒DOHCツインターボ
総排気量:3982cc
最高出力:430kW(585PS)/5500-6500rpm
最大トルク:800Nm(81.6kgm)/2500-5000rpm
トランスミッション:9速AT
駆動方式:AWD
サスペンション:前後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前275/35R21 後305/30R21
車両本体価格:2890万円

ベントレー・コンチネンタルGTCアズール

ボディサイズ:全長4880 全幅1965 全高1400mm
ホイールベース:2850mm
車両重量:2370kg
エンジンタイプ:V型8気筒DOHCツインターボ
総排気量:3996cc
最高出力:404kW(550PS)/5750-6000rpm
最大トルク:770Nm(78.5kgm)/2000-4500rpm
トランスミッション:8速DCT
駆動方式:AWD
サスペンション:前ダブルウィッシュボーン 後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク
タイヤサイズ:前275/35ZR22 後315/30ZR22
車両本体価格:3946万8000円

【問い合わせ】

メルセデス・コール
TEL 0120-190-610
https://www.mercedes-benz.co.jp/

ベントレーコール
TEL 0120-97-7797
https://www.bentleymotors.jp/

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著者プロフィール

吉田拓生 近影

吉田拓生

1972年生まれ。趣味系自動車雑誌の編集部に12年在籍し、モータリングライターとして独立。戦前のヴィンテ…