元祖スポーツプレミアムSUV「ポルシェ カイエン」の新型に試乗

「見た目はそんなに変わらない?」新型「ポルシェ カイエン」が大きくリファインされた点を解説

新旧を即座に見分ける識別点は、ヘッドライトの目頭のあたりの形状がシャープに、またバンパーの開口部が大きくスクエアになっていること。ターボは専用のマスクで、デイタイムライトが二重になっているのがわかりやすい。
新旧を即座に見分ける識別点は、ヘッドライトの目頭のあたりの形状がシャープに、またバンパーの開口部が大きくスクエアになっていること。ターボは専用のマスクで、デイタイムライトが二重になっているのがわかりやすい。
スポーツプレミアムSUVのパイオニアであるカイエンが、新型に生まれ変わった。新しくなったフロントマスクやテールライトを採用し、インテリアも一新されている。パワーユニットもリファインされ、新たなV8やPHVなど、全方位での進化を遂げている。(GENROQ 2024年1月号より転載・再構成)

Porsche Cayenne

数値だけをみてもトップパフォーマー

軽量化を施したGTパッケージはクーペボディのみに設定される。

Cayenne Turbo E-Hybrid Coupe with GT Package

ポルシェの流儀のひとつに、モデルバリエーションの多様さがある。例えば911を例にみると、ベースにはじまり、SにGTS、さらにはRRと4WDの駆動方式やクーペやカブリオレといった車型の違いもあって、その数は26にも及ぶ。

ポルシェのトップセラーであるカイエンももちろんその例にもれない。ベースにはじまり、S、ターボ、GTSと拡充していくのが通例で、ボディタイプはSUV(標準)とクーペの2種類がある。しかし、カイエンはいまBEVへの移行期でもあり少しばかりモデル展開が複雑になっている。2023年4月の上海モーターショーで発表された新型カイエンには、導入当初は3.0リッターV6の「カイエン」、それをベースとしたPHVの「カイエンE-ハイブリッド」、4.0リッターV8の「カイエンS」が設定された。そして今回新たに追加されたのが、2種類のPHV、「カイエンSE-ハイブリッド」と「カイエンターボE-ハイブリッド」で新型には3種類のPHVモデルが用意されたことになる。ポルシェはこれらを総称して「カイエンE-Performance」と呼んでいた。

10月にスペイン・バルセロナで開催された「カイエンE-Performance」国際試乗会の会場には、フラッグシップとなる「カイエンターボE-ハイブリッド」がズラリと並べられていた。最高出力599PS、最大トルク800Nmの4.0リッターV8ツインターボエンジンにモーターを組み合わせ、パワーユニットの合計出力は“カイエン史上最高”の739PS、最大トルクは950Nmに到達する。数値だけをみてもトップパフォーマーであることに疑いはない。ただ、先代にはニュルブルクリンク・ノルドシュライフェで7分38秒9というSUV最速記録を樹立した「ターボGT」というモデルがあった。その後継はどうなるのかと開発者に尋ねると、実は新型にもターボGTは存在するのだが、欧州をはじめ日本、香港、台湾、シンガポールなどのアジア圏では排ガス規制に適合せず、主に北米と中国で販売されるという。そこで欧州や日本向けには新たにクーペボディにのみ「GTパッケージ」というグレードが新設された。これはエクステリアの随所にカーボンパーツを多用し、軽量バッテリーなどを採用することで、ベースモデル比マイナス100kgの軽量化を実現。車高は10mm低められている。

ほぼ全面刷新されたインテリア

試乗当日の朝、出発地点となるバルセロナ市内のホテルでカイエンターボE-ハイブリッドの鍵をうけとる。新旧を即座に見分けることができるのは、カイエンオーナーかよほどのポルシェマニアくらいかもしれない。ヘッドライトの目頭のあたりの形状がシャープに、またバンパーの開口部が大きくスクエアになっている。ターボは専用のマスクで、デイタイムライトが二重になっているのがわかりやすい識別点だ。

インテリアはほぼ全面刷新といえる。タイカンの要素を全面的に取り入れたもので、メーターパネルは、いわゆるナセルがないフリースタンディングデザインの12.6インチ曲面ディスプレイを採用。そしてオートマチックギヤセレクターは、ステアリングホイールの隣に移設されている。新型ではバッテリー容量が25.9kWhに増加しており、一充電あたりの電動走行距離は最長82km(WLTPモード計測値)に延伸。メーター表示は満充電には少し欠けていたようで、航続可能距離は66kmと表示されていた。電動走行モードであるE-POWERで走りだす。排気音も排気ガスも出さないというのは、早朝のホテルでも後ろめたさがなくていい。バルセロナ市街地は通勤のクルマやバスで大渋滞している。ゆるゆると電動走行で街中をくぐり抜けて、高速道路に入る。スペインの高速道路は片道2車線または3車線で、制限速度は大半が100km/h、速い区間でも120km/hと日本と似た設定になっている。ターボE-ハイブリッドは約130km/hまでは電動走行が可能なためエンジンが始動することはない。室内は風切り音やロードノイズの侵入も抑えられおり静粛性が高い。会話や音楽を楽しむには最適の空間だ。

しばらく高速道路を走行したのちナビゲーションにしたがって山間のワインディングロードに入った。わずかな指の力にも呼応するハンドリングと22インチであることなど微塵も感じさせないコンフォート性能に感心する。ホテルをスタートしてから59kmを走行した時点でようやくエンジンが始動した。それも突然大きなエンジン音や振動が発生するわけではなく、限りなくシームレスにエンジンへとバトンタッチしたことがわかる振る舞いだった。これくらい掛け値なしに電動走行できれば日常はBEVとしてカバーできるだろう。エンジンの動力を使ってバッテリーを充電するE-CHARGEモードもあるので、高速道路を走行中に充電して、市街地で電動走行する使い方もできる。

HVでも2.5tでも流儀にのっとればスポーツカーに

Cayenne Turbo E-Hybrid SUV

ナビゲーションの目的地は、バルセロナ郊外にあるサーキット、パルクモートル・カステリョリだった。全長4140m、11コーナーがあり高低差は約50mもあるテクニカルなコースだ。ここではターボE-ハイブリッドクーペにのみ設定される「GTパッケージ」を試す。911ターボを先導車にコースインする。走行モードをスポーツプラスモードに切り替えると、青色に焼けたチタンマフラー内のフラップが開き、野太いV8サウンドが車内に響く。

この新型の開発マネージャーに今回注力したポイントを尋ねると新開発のシャシーだと答えた。ターボにはサスペンションの伸側と縮側を別々に調整してくれる2チャンバー、2バルブ技術を採用したアダプティブエアサスペンションを標準装備する。サーキット路面ということもあるが、スポーツプラスでもハードな印象はない。

ものは試しと縁石にタイヤをのせてみたりしたが、ピッチやロールをしっかりと抑制しながら実にしなやかに動いていることが伝わってくる。ベースのターボとも比較してみたが、軽量化と低い車高や空力が効いており明らかにコーナリング時の安定感が増す。山を上りきった先にある裏のストレートでは速度は200km/hを超える。そこからハードブレーキで下りのコーナーへと進入していくのだが、標準装着のPCCBが慣性の法則に逆らいきっちりと速度を抑え込んでくれる。ターボGTほどの爆発的な速さはないけれど、洗練されたスピードがある。SUVでも、ハイブリッドでも、2.5tでも、ポルシェの流儀にのっとれば、スポーツカーになるということだ。

内燃機関を搭載する最終世代のカイエン

GTパッケージとは異なり、マフラーは左右4本出しとなる。パワートレインはクーペのGTパッケージと同じだ。
GTパッケージとは異なり、マフラーは左右4本出しとなる。パワートレインはクーペのGTパッケージと同じだ。

フル電動化の波はまず弟分のマカンにやってくる。2024年にはBEV版がデビュー予定で、カイエンもその翌年にはBEV化するという。内燃エンジン搭載車も併売されるというが、おそらくこの新型が内燃機関を搭載する最終世代のカイエンということになりそうだ。

深夜早朝など日常では、唸り声をあげることなくBEVとしてジェントルに、然るべき道では最後のポルシェ謹製V8の鼓動を感じながらアグレッシブに、新しいターボE-ハイブリッドは、歴代のカイエンのなかでもっとも振り幅が大きい多様性を備えたモデルといえるものだった。

REPORT/藤野太一(Taichi FUJINO)
PHOTO/PORSCHE AG.
MAGAZINE/GENROQ 2024年 1月号

SPECIFICATIONS

ポルシェ・カイエンターボ Eハイブリッドクーペ with GTパッケージ

ボディサイズ:全長4930 全幅1995 全高1652mm
ホイールベース:2895mm
車両重量:2495kg
エンジン:V型8気筒DOHCツインターボ
総排気量:3996cc
最高出力:441kW(599PS)/6000rpm
最大トルク:800Nm(74.4kgm)/2400-4500rpm
モーター最高出力:130kW(176PS)
モーター最大トルク:460Nm(74.4kgm)
トランスミッション:8速AT
駆動方式:AWD
サスペンション形式:前後マルチリンク
ブレーキ:前後ベンチレーテッドディスク(カーボンセラミック)
タイヤサイズ(リム幅):前285/40ZR22(10.5J) 後315/35ZR22(11.5J)
0-100km/h加速:3.6秒
最高速度:305km/h
車両本体価格:2790万円

日本導入がスタートした「ポルシェ カイエン S E-ハイブリッド」の走行シーン。

ポルシェ第3のPHEVカイエン「カイエン S E-ハイブリッド」日本導入開始「実用性とパフォーマンスの両立」

ポルシェジャパンは、全面改良されたラグジュアリーSUV「カイエン」として、3番目のプラグイン…

キーワードで検索する

著者プロフィール

藤野太一 近影

藤野太一