「フェラーリ SF90 XX」の驚異のテクノロジーを解説

1030PSのAWDミッドシップ「フェラーリ SF90 XX」に見る先進のテクノロジーを解説

1030PSを発揮するスーパースポーツ・プラグインハイブリッド「フェラーリ SF90 XX ストラダーレ」。わずか限定799台の生産だが、そこに盛り込まれたのは、これからの新機軸となる最先端の技術ばかりであった。(GENROQ 2024年1月号より転載・再構成)

Signature Elements in Ferrari SF90 XX Stradale

レーシングカーもかくやという空力

AERODYNAMICS

SF90XXストラダーレ(以下、SF90XX)の最大の特徴はエアロダイナミクスにあるといって間違いない。そして、その象徴ともいえる存在が、ボディのリヤエンドにそそり立つ独立式ウイングである。フェラーリは「デザインの美しさを損なう」ことを理由に、1995年発表のF50以降はロードカーに独立式リヤウイングを採用してこなかった。しかし、SF90XXではサーキット走行のために開発されたXXモデルの思想を受け継ぎ、公道走行が可能なモデルであるにもかかわらず敢えて独立式リヤウイングを装備することになった。

「それでは、今までの主張はなんだったのか?」という声が聞こえてきそうだが、独立式リヤウイングには「空力効率を改善できる」という明確なメリットがある。つまり、250km/hで530kgというレーシングカー並みのダウンフォースを発生させる一方で、空気抵抗の増加を最小限に抑える効果が、この独立式リヤウイングにはあるのだ。さらに、SF90に続いてシャットオフガーニーを装備。これはリヤウイングの真下に位置するボディパネルを上下させることで、ハイダウンフォースもしくはローダウンフォースのセッティングを選択できるというもの。なお、シャットオフガーニーのポジションは車載コンピューターによって自動的に制御される。

独立式リヤウイングによって増大したリヤのダウンフォースとバランスをとるため、車体前部に新装備されたのがSダクトだ。これは、車体前部から採り入れた気流をフロントボンネットから上向きに排出することでダウンフォースを生み出すもの。シャットオフガーニーのような可変機構は持たないものの、内部のダクト形状を工夫することで常に最適の空力特性が得られるという。前後フェンダー上に設けられたルーバーも、SF90にはないSF90XXだけの特徴。これはホイールハウス内の空気を上部に逃がすことで、タイヤの回転に伴う空気抵抗の増大を防ぐものだ。

1030PSを発揮する技術の裏付け

POWERTRAIN

プラグインハイブリッドのパワートレインを採用するSF90XXだが、そのパワーの源となるのはF154FBと名付けられた排気量3990ccのV8ツインターボエンジンである。これはSF90ストラダーレ(以下、SF90)に搭載されたF154FAをベースとしながら、吸排気マニフォールドの内部を研磨したほか、ピストンの頭頂部を変更して圧縮比を9.5:1から9.54:1に引き上げることで、SF90を17PS上回る797PSを7900rpmで発揮。6250rpmで発生する最大トルクは804Nm、最高回転数は8000rpmと発表されている。

また、吸気系に取り付けられていたセカンダリー・エアシステムを省略することで3.5kgの軽量化を図ったことも注目される。さらにエンジンサウンドを改善するため、エンジン音をキャビンに伝えるホットチューブシステムを最適化。より高音を強調した音色に改められた。SF90同様、SF90XXにも、エンジンとギヤボックスの間に1基、前車軸に2基の電気モーターが搭載される。ただし、その最高出力は別項で解説するするエクストラブーストの活用により220PSから233PSへと引き上げられた。

前車軸上に設けられた2基のモーターが、左右の駆動力配分を制御してトルクベクタリングを実現していることはいうまでもない。また、ハイブリッドシステムはeマネッティーノを操作することで、eドライブ、ハイブリッド、パフォーマンス、クォリファイの4モードから選択できる。なお、バッテリー容量が7.9kWhで最大25kmのEV走行が可能なほか、EV走行時の最高速度が135km/hになる点などはSF90に準じる。

ギヤボックスは基本的にSF90と同じ8速DCTを搭載。ただし、変速を司るソフトウェアを改良することで、シフト時にはデイトナSP3と同様の「クルマが前に押し出される」感触が味わえるほか、中高回転域では変速時にダイナミックなサウンドが楽しめるという。

ドライビングスリルを追求

DYNAMICS

eマネッティーノでクオリファイモードを選べば、後はシステムが自動的に最適な状況を見つけ出し、コーナー脱出などを中心に2秒程度の“エクストラパワー”を追加してくれる。
eマネッティーノでクオリファイモードを選べば、後はシステムが自動的に最適な状況を見つけ出し、コーナー脱出などを中心に2秒程度の“エクストラパワー”を追加してくれる。

フェラーリの最新モデルに相応しく、SF90XXには同社が誇る電子制御システムがふんだんに盛り込まれている。まず、注目したいのがエクストラブーストだ。SF90XXでは、ハイブリッドシステムの冷却能力を高めることで、一時的にSF90を上回る電気エネルギーを引き出すことに成功。これを活用してパフォーマンスを向上させるのがエクストラブーストだ。

エクストラブーストが使用できるのは、バッテリーに十分なエネルギーが蓄えられていて、車載のコンピューターがGPS、加速度センサー、ペダル操作量などから追加の出力を発揮することが可能と判断された場合のみ。操作方法は簡単で、eマネッティーノでクオリファイモードを選べば、後はシステムが自動的に最適な状況を見つけ出し、コーナー脱出などを中心に2秒程度の“エクストラパワー”を追加する。このエクストラパワーが何PSに相当するのかについて具体的な説明はなかったが、発表された図表などから推測すると200PS前後にも達する模様だ。

SF90には用意されなかったABS evoが装備されたこともニュースのひとつだ。これはABS用の加速度センサーに前後、左右、上下の3次元に加え、それぞれを軸とした回転モーメントを計測できる6W-CDSと呼ばれる6次元センサーを搭載。これにより、タイヤがスキッドした状態でも制動力をコントロールできるシステムだ。

フェラーリ・ダイナミック・エンハンサー(FDE)はトルクベクタリングを司るものだが、SF90XXではこれが進化して2.0となった。ちなみに、ダイナミック・マネッティーノでどのモードを選んでもFDEが動作するようになったのは、SF90XXが最初である。

こうした数多くのシステムを有機的に活用し、パワートレインやシャシーを適切にコントロールするのがエレクトロニクス・サイド・スリップコントロール(eSSC)1.0の役割。いわば、SF90XXの頭脳と呼ぶべき存在がeSSCなのである。

機能を優先した結果としての美しさ

DESIGN

「公道を走行可能な初のXXモデル」であるSF90XXには、当然のことながらフェラーリがこれまで培ってきたレーシングテクノロジーが余すところなく採用されている。そこでフラヴィオ・マンゾーニ率いるチェントロ・スティーレは、技術開発部隊と緊密に連携をとりながら、そうしたレーシングテクノロジーを隠すのではなく、むしろ強調する方向でSF90XXの内外装を改める方針を固めた。

例えばフロントのダウンフォースを増強するSダクトは、採り入れ口と排出口の両方をボディとは異なるカラーでペイントすることにより、その存在をより明確にしている。独立して設けられたリヤウイングの翼端板をアクセントカラーで彩ったのも、同じ効果を狙ったものと考えられる。

また、独立式リヤウイングが装備されたことを受け、例えばリヤフェンダー周りのボリューム感をSF90よりも絞り込むことで、視覚的なバランス取りを図ったという。なかでも、リヤフェンダーの厚みが削り取られて点は、とりわけ印象的だ。

同じくリヤまわりでいえば、テールライトが角形4灯式からボディ全幅にわたるストライプ形に改められたほか、リヤディフューザー形状を大幅に見直した結果、まるでテールエンド全体がエアアウトレットとなったような印象を見る者に与える。

インテリアでは、ドアの内張を簡素化することで軽量化が図られた。ドアを開閉したとき、その動きが圧倒的に軽くなっていることに驚かされるだろう。また、ダッシュボード上部をアルカンターラ張りにしたほか、センタートンネルもドアと同じように内装を簡素なものへと改めて重量軽減に努めた。

このようにデザイン上のモデファイは広範に及んでいるが、SF90がもともと持っていたスタイリングの美しさや上質感をいささかも失っていない点はさすがというしかない。この点でも、チェントロ・スティーレは見事な働きをしたといえるだろう。

REPORT/大谷達也(Tatsuya OTANI)
PHOTO/Ferrari S.p.A.
MAGAZINE/GENROQ 2024年 1月号

SF90の30PSアップとなる最高出力1030PSや、公道モデルとしてはF50以来の固定式大型リヤウイングといった斬新な空力ソリューションの採用などトピックが多いSF90 XX。

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著者プロフィール

大谷達也 近影

大谷達也

大学卒業後、電機メーカーの研究所にエンジニアとして勤務。1990年に自動車雑誌「CAR GRAPHIC」の編集部員…