連載

GENROQ マクラーレンクロニクル

McLaren MP4-12C

カーボンファイバーに対する膨大なノウハウ

20世紀に誕生した究極のスーパースポーツともいえる「F1」の生産を1998年に終了すると、マクラーレンはメルセデス・ベンツ、メルセデスAMGとの共同開発による「SLRマクラーレン」の生産を2004年に開始した。

SLRシリーズからはさまざまなモデルが派生し、2011年に発表された「スターリング・モス」がその最終モデルとなったが、マクラーレンはこのSLRシリーズの生産と並行して、自社ブランドのスーパースポーツの開発に着手。同時にマクラーレン・オートモーティブという新たな自動車会社を立ち上げるに至ったのだった。

そのファーストモデルとして2011年に誕生したのが、ここで紹介する「MP4-12C」である。車名のMP4とは、マクラーレンが1981年にジョン・バーナードによるエンジニアリングでF1GPの実戦に投じた「MP4/1」から代々レースカーに与えてきたM=マクラーレン、P=プロジェクトの4番目を意味し、それに続く12Cは、12=V型12気筒エンジン搭載車に匹敵する運動性能を発揮する、C=カーボンファイバーをおもな素材とした軽量なモデルであることを物語っている。事実MP4-12Cのエンジニアリングを検証すれば、そこにはマクラーレンが膨大なノウハウを有するカーボンファイバーの使用例が数多く見られる。軽量化はMP4-12Cにとって最も重要な開発コンセプトであったといっても、それは間違いではないのだ。

プロアクティブ・シャシーコントロール機構を採用

たとえばその基本構造体となるセンターモノコックはどうか。カーボン・モノセルと呼ばれたMP4-12Cのそれは、重量がわずか80kg以下というきわめて軽量なワンピース構造。参考までにメルセデス・ベンツのSLRシリーズに使用されたモノコックは7ピース構造であり、さらにレジン・トランスファー・モールディング・プロセスという新しい製法で完成されるマクラーレンのカーボン・モノセルは内部が中空構造となっている。その前後にはアルミニウム製のサブフレームが直接接合され、リヤのサブフレーム上にはパワートレイン一式が搭載される仕組みだ。

搭載されるエンジンは「M838T」型と呼ばれるバンク角90度のV型8気筒ツインターボ。重心高を低下させるためにドライサンプの潤滑方式を採用し、またクランクシャフトはフラットプレーン型を選択している。さらにデュアル可変バルブタイミング機構を備えたことで、最高出力は600PS、最大トルクは600Nmを達成。

組み合わされるミッションは、SSG=シームレスシフト・デュアルクラッチ・ギアボックスと呼ばれる7速DCTとなる。サスペンションは前後ともダブルウイッシュボーン形式で、アダプティブ制御方式のダンパーを採用。プロアクティブ・シャシーコントロール機構を備え、アンチロールバーの代わりに油圧でロール制御を行うのも特長である。

すべてのデザインは機能に従う

2012年にはオープン仕様の「スパイダー」もラインナップに追加された。

軽量化と同時に、マクラーレンがMP4-12Cで徹底したのは、エアロダイナミクスの最適化だ。ボディデザインはフランク・ステファンソンの手になるもので、「すべてのデザインは機能に従う」というマクラーレンのデザイン哲学とともに、そのデザインをできるだけ小さく包み込むという「シュリンクド・ラップ」のコンセプトでMP4-12Cのボディはデザインされていった。

アンダーボディは完全にフラットな形状で、ここから効率的にディフューザーへとエアを抜き出すテクニック。またボディサイドを流れるエアを直接ラジエーターへと導くデザインなどは、このモデルの大きな見どころ。リヤには可変式のウイングが備わるが、これはブレーキング時にはエアブレーキとしての機能も果たす。

2012年にはオープン仕様の「スパイダー」もラインナップに追加され、さらにその人気を高めたMP4-12C。そしてマクラーレンは、このモデルを皮切りに続々とニューモデルを市場へと送り出すことになるのだ。

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