「フルビット免許証」は伝説級の称号

フルビット免許証とは、日本で取得可能な15種類の運転免許をすべて揃えた状態のこと。通常の免許証には自分が持っている免許だけが表示されるが、フルビットの場合は免許欄が全て埋まり、まるで図鑑をコンプリートしたかのような威圧感を放つ。

名前の由来は、かつて免許の種別が0と1のビットで管理されていた時代の名残だ。全項目が「1」で埋まった状態を「フルビット(Full Bit)」と呼び、いまや伝説的ステータスとなっている。

全ての始まりは「原付」や「小型特殊」

フルビット免許を手にいれるには、原付免許取得から始めることが必須(画像提供:モトチャンプ)

フルビットの道は、大型トラックやバス、普通自動車でもない。最初に取るべきは原動機付自転車免許(原付)である。次に農耕用トラクターなどが運転できる小型特殊免許を取得する。というのも、普通免許を取得してしまうと、原付などは「運転可能」にはなるが、免許証上には表示されなくなってしまう。つまり、コンプリートを目指すなら「わざわざ個別に取らなければならない」という、効率の悪さに身を投じる必要があるのだ。

中には、実用性がほぼゼロに近い免許も存在する。たとえば「けん引第二種免許」は、旅客用トレーラーを運転するための資格だが、現実にそうしたバスは日本国内でほぼ走っていない。それでも「フルビッター」を名乗るなら、このような誰も使わない免許こそ避けては通れないのだ。

2023年時点で、けん引二種の所持者は全国でわずか4万人程度。つまり、フルビット達成者はその数よりもさらに少ないということになる。フルビット免許は物流業界・バス業界での就職に有利とされている。だが現実には、「それ全部必要ですか?」というリアルな疑問もつきまとう。

教習所職員や試験官を目指すならまだしも、実務でけん引も大型バスもショベルカーも乗りこなす場面はまずない。つまりフルビットとは、“使わないのに取る”という矛盾を抱えながら、自らを追い込む自己表現の形とも言える。

フルビット免許証取得までの費用は200万円を超え、期間3年以上

普通自動車免許を取得する前に、取るべき免許がある。

フルビットを達成するには、200〜240万円の教習費用と、最低でも3年以上の期間が必要だ。

免許ごとに年齢制限や運転歴の要件が異なり、ひとつでも順番を間違えれば、全体計画が崩壊する。違反をすれば資格要件を満たさなくなり、リスタートすらできなくなることもある。免許取得可能な年齢になったら即行動。次の免許に備えて運転経歴を積み、違反ゼロで通過することが必要だ。まさに、人生をかけた「運転免許RPG」である。

また厄介なのが、制度改正によって新たな免許区分が追加されるリスクである。たとえば2017年、準中型免許が新設されたことで、それ以前にフルビットだった人たちの免許証には未取得欄が新たに出現する事態が起きた。

つまり、全免許を揃えていたはずの人が、制度変更によって「フルビットではなくなる」のである。これにより、一度揃えたら永久フルビットではいられないという不条理が生まれた。将来、新たなカテゴリーが登場すれば、再び教習所に通い直す必要すらある。

意味がないからこそ、やるというフルビットの美学

「全車種運転できます」と言っても、現実には全部に乗る機会などそうそうない。それでも、時間をかけて、金をつぎ込み、あえて非効率な道を選ぶ。それがフルビットだ。それはまさに、努力・計画・情熱の結晶と言える。人生をかけた“免許の収集”は、資格でも武器でもなく「生き様そのもの」なのである。