日本のロードキル発生件数

2022年度に発表された国土交通省の報告によれば、国直轄道路で年間約7万件、高速道路で約5.1万件もの動物との交通事故(ロードキル)が発生し、市道などを含めた全国の発生件数は12万件以上にのぼる可能性がある。
多くの動物が被害を受けているが、特に多いのは野良猫である。特定非営利活動法人「人と動物の共生センター」の調査によると、2024年度における野良猫のロードキルは、約23万頭に達し、これは殺処分数の24倍に相当するという驚くべき数字だ。
また、地域ごとの深刻な状況も見逃せない。北海道警察によれば、2024年における北海道内でのエゾシカとの交通事故は約3千件であり、前年同期比でも増加傾向にある。
さらに、希少動物の痛ましい犠牲も報告されている。環境省の調査によれば、2024年に奄美大島と徳之島で確認された国指定天然記念物「アマミノクロウサギ」の死亡件数は242件にのぼる。そのうち、交通事故によるロードキルは最も多く、奄美大島では121件(前年より26件減少)、徳之島では42件(前年より14件増加)と、特に徳之島では過去最多を記録した。
地域性豊かな「動物注意」標識

日本では、動物との接触事故を防ぐために「動物が飛び出すおそれあり(動物注意)」という警戒標識が各地に設置している。この標識は、標識設置地点からおよそ30~200m以内に野生動物が出現しやすいことをドライバーに知らせ、減速・注意を促す役割を果たすものだ。
一般的には「シカ」のデザインが主流だが、地域の生態系に応じてタヌキやサル、ウサギなど、地域で飛び出し事故が発生しやすい動物の絵柄が描かれている。これらの標識はすべて「正式な警戒標識」として認可されており、2020年代に入ってからはデザイン標識を含め160種以上が報告されている。
「動物注意」の標識を見かけたら、スピードを落とし視野を広く保ち路肩にも意識を向けることが必要だ。また動物を見かけてもクラクションなそ刺激を与える行為はNGだ。
近年では標識だけでなく、動物用の横断トンネルやフェンス、センサー式警報灯などのインフラも一部地域では整備されつつある。
事故直後の初動対応が鍵

万が一、動物との接触事故を起こしてしまった場合、まずは自車の安全確保と二次被害の防止を最優先に行うことが大切だ。ハザードランプを点灯し、可能であれば車を路肩に寄せて停車する。さらに、後続車への注意喚起として三角表示板を設置し、安全な場所で対応することが重要だ。
野生動物との衝突事故が発生した場合は、道路交通法第72条に基づき必ず警察に通報し、事故証明を取得する必要がある。この通報は、後に任意保険の補償を受ける際の根拠にもなるため怠ってはならない。
衝突した動物が生きている場合には、素手での接触は避け、タオルや段ボールなどで覆い、できるだけ速やかに動物病院や自治体へ連絡する。
すでに死亡している場合は、道路の通行を妨げない範囲で安全に移動させ、自治体や道路管理者に通報するのが適切だ。たとえ接触していない「飛び出しによる単独事故」のようなケースであっても、放置すれば後続車との二次事故につながるおそれがあるため、必ず対応すべきだ。
また、事故後は自身の保険会社へも速やかに連絡を入れることも忘れてはいけない。車両に損傷がある場合、一般的に自損事故扱いとされ、契約内容によっては保険等級が下がるケースもあるため、補償内容や免責事項について事前に確認しておくと安心だ。
そもそも衝突を避けるために何ができるか?

野生動物との衝突事故を未然に防ぐには、ドライバー自身の注意力強化と運転習慣の見直しが不可欠である。特に早朝や夜間は動物の活動が活発になるため、視認性を高める意味でもヘッドライトは上向き(ハイビーム)を推奨する。ただし、対向車や前方車両がいる場合は当然ながらロービームに切り替える配慮が必要だ。
動物が急に飛び出してきた際、慌てて急ハンドルを切るのはかえって危険であり、車両がスリップしたり、ガードレールなどに衝突するリスクを高める。JAFによれば、衝突を完全に避けられない状況下では、正面から当たるほうが乗員の安全性が高まるとされている。
物理的な衝撃を軽減する手段として、一部の車両に装備されるのが「アニマルガード」である。これはバンパー前方に装着される金属製の保護パーツで、オフロード車両やトラックなどに多く採用されている。オーストラリアなど動物との接触事故が日常的に発生する地域では「カンガルーバー」や「グリルガード」としても知られ、動物との衝突時にラジエーターやヘッドライトなど車両前部の損傷を防ぐ目的がある。
ただし、日本国内では歩行者との接触時に深刻な外傷を与える危険性が指摘されており、法的にも厳密な用途規制はないものの、あくまで装飾用途やオフロード志向のドレスアップとして用いられるケースがほとんどだ。
インフラ側の対策としては、道路管理者が進める「アニマルガードフェンス」の設置が挙げられる。これは高速道路やバイパス沿いのフェンス下部にゴム製の覆いを追加し、小動物が道路に侵入しないように隙間をふさぐ構造となっている。
フェンスの隙間から入り込むタヌキやキツネなど中型動物の飛び出しを抑止することで、ロードキルの発生件数を減らすことが期待されており、高速道路調査会などによって試験的な導入が進んでいる。