作動しないリスクはあるのか

「エアバッグは交換不要」とはいっても、絶対に壊れない装置ではない。エアバッグはステアリングやダッシュボードに収納された本体だけでなく、センサー・配線・電子制御ユニット(ECU)といった複数の部品で構成されている。これらが正常に連動することで、衝突時に瞬時に作動する仕組みだ。

経年によって劣化しやすいのは、センサーや配線といった電気系統である。特に、長期間バッテリーを交換せずに使い続けていたり、車の下回りやエンジンルームに湿気やサビが発生していたりすると、センサーの信号が正しく伝わらず、作動しないリスクが生じることがある。

ただし、こうした不具合をドライバーが自分で発見するのは難しい。そこで役立つのがメーターパネルの警告灯だ。エンジンを始動すると、一瞬「エアバッグ」のマークが点灯し、すぐに消えるのが正常な状態。ところが、点灯したまま消えなかったり、走行中に突然点いたりする場合は、エアバッグ関連のシステムに異常がある可能性が高い。

この状態を放置すると、いざという時にエアバッグが開かない危険性があるため、警告灯が点灯したら速やかにディーラーや整備工場で点検を受けることを推奨する。定期点検の際にコンピュータ診断を行えば、センサーや配線の不具合も早期に見つけることができ、結果的に安心につながるはずだ。

エアバッグは一度きり!

一度開いたエアバッグは必ず新品に交換が必要。

エアバッグは、一度きりの装置である。事故の衝撃を感知すると火薬式のガス発生装置が作動し、袋状のクッションが瞬時に膨らむが、この仕組みは再使用できない。一度開いたエアバッグは必ず新品に交換が必要だ。

交換が必要なのは、エアバッグ本体だけではない。展開時にはステアリングホイールやダッシュボードのカバーが破れて開き、内部のセンサーや配線にも衝撃が加わる。

そのため修理では、エアバッグ本体、ステアリングやダッシュボードのカバー部品、センサーや電子制御ユニット(ECU)といった関連部品をまとめて交換するのが一般的だ。

修理費用は数十万円規模になることも珍しくない。例えば運転席と助手席の両方のエアバッグが開いた場合、部品代と工賃で50万〜100万円程度になるケースもある。こうした高額な修理費は、多くの場合自動車保険(車両保険)でカバーできるが、免責金額や保険内容によって自己負担が発生する場合もあるため、事前に契約内容を確認しておくことが大切だ。

つまり、エアバッグは事故で作動すれば確実に守ってくれるが、その後は必ず交換が必要になる装備である。

注意すべきリコール問題

エアバッグは基本的に交換不要の装備だが、例外的に「リコール(無償修理)」で交換が必要になるケースがある。その代表例が、世界的に大規模な問題となったタカタ製エアバッグのリコールだ。

このリコールでは、エアバッグを膨らませるためのインフレーター(膨張装置)に不具合があり、湿度や経年劣化によって内部の部品が異常破裂し、金属片が飛び散る恐れがあると指摘された。実際に海外では死傷事故も発生し、世界中のメーカーが対象車両をリコール。日本国内だけでも1,000万台を超える規模で交換対応が行われた。

中古車を購入した人や、長く同じ車に乗り続けている人は特に注意が必要である。なぜなら、前のオーナーがリコール修理を受けていないまま車が流通している可能性があるからだ。対象車かどうかは、メーカー公式サイトや国土交通省のリコール検索ページで車台番号を入力すればすぐ確認できる。もし該当していれば、無償で修理を受けられるので必ず対応しておきたい。

リコールは「故障してから対応する」ものではなく、安全上の重大な不具合を事前に防ぐための措置である。普段問題なく走っていても、リコール対象であれば必ず点検・修理を受けることが、命を守るための最低限の備えになるのだ。

安心のために確認しておくべきエアバッグ点検の基本

新車であれば軽自動車から高級車まで装備されているエアバック。

エアバッグは、いまや新車であれば軽自動車から高級車まで当たり前に装備されている。しかし「交換不要だから安心」と思って油断してはいけない。

ポイントは次の3つである。

  • 警告灯が点灯したら必ず点検:正常なら数秒で消えるが、点きっぱなしなら不具合のサイン
  • 一度開いたら必ず交換:再利用はできず、関連部品も含めた高額修理になる
  • リコール情報は必ず確認:とくに中古車や長年乗る車は要注意。対象なら無償修理を必ず受ける

エアバッグは最後の砦となる命綱である。普段は存在を意識することは少ないが、いざという時に確実に作動してこそ意味がある装備だ。メーカーからのリコール情報に目を通し、定期点検を怠らないこと。

それが自分や大切な人を守る一番シンプルで確実な方法である。