秋の日暮れが早い理由と、つるべ落としの意味とは

ピーコック
紐に吊るされているバケツがつるべである。

秋分を過ぎる頃になると、日中の明るさが急に短く感じられるようになる。朝晩の気温が下がり始め、空気も澄んでくるこの時期、夕方の景色がみるみるうちに暗くなる体感が強まるためだ。

このような情景を表すことわざに、「秋の日はつるべ落とし」というものがある。この言葉は、井戸の釣瓶(つるべ)が真っすぐに落ちていく速さを、沈む太陽になぞらえた言葉である。

釣瓶とは、井戸から水を汲み上げるために使う桶を縄で吊るした道具のこと。手を離せば一気に井戸の底へ落ちていく釣瓶のように、秋の日は沈み始めるとすぐに地平線の向こうに姿を消してしまう。

この言葉は、古くは江戸時代の歌舞伎『勧善懲悪覗機関』(1862年)にも登場しており、秋の夕暮れが早いという感覚は、昔から人々の生活に深く根づいていたことがわかる。

一方で、この体感には科学的な裏付けもある。たとえば、国立天文台の観測データによると、東京では10月だけで日の入り時刻が約40分も早まる。

6月には19時頃だった日没が、11月には16時半を過ぎたころには暗くなってしまう。この変化こそが、つるべ落としと呼ばれる体感の正体である。

秋の昼間の写真
夏と同じ感覚で外にいたら、いつの間にか真っ暗になっていることも少なくない。

また、秋の太陽は夏に比べて低い角度を通る。そのため、地平線へと沈むまでの距離が短く、光が弱まる速度が速く感じられるのだ。

さらに、秋は湿度が下がり空気中の水蒸気量が減る。空気が乾くことで光の散乱が少なくなり、太陽が沈んだ後も空が明るく見える時間が短くなることがわかっている。

つまり、秋の日はつるべ落としは単なる比喩ではなく、天文学的にも裏づけられた現象だといえる。

秋の夕暮れの写真
事故を未然に防ぐためにも、早めのライト点灯を心がける必要がある。

また、こうした言葉には生活の知恵も込められている。日暮れが早まる秋は、交通事故の発生率が上がる時期でもある。視界が急に暗くなるため、ドライバーがヘッドライトの点灯を遅らせてしまうケースが少なくない。

国土交通省も「早めのライト点灯」を呼びかけており、この季節は16時半を過ぎたらライトを点けるのが望ましいとされている。

つまり、「秋の日はつるべ落とし」ということわざは、単に季節の風情を伝えるだけでなく、身の安全を意識するための合言葉でもあるといえるのだ。

通勤や買い物の帰り道、つい「まだ明るい」と思っていても、辺りはほんの数分で暗闇に包まれてしまう。その感覚を先人たちは釣瓶という身近な道具で言い表し、今に伝えてきた。

秋の夕暮れ、彼岸花の写真
過ごしやすくなる秋だが、同時に注意深くなる必要もありそうだ。

秋の夕暮れを早いと感じたら、それは自然の理に沿ったもの。そして、その感覚を知ることこそが、季節を安全に過ごす第一歩になる。

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秋の夕暮れは早い。そう感じたときこそ、ことわざの知恵を思い出したい。運転中早めの点灯と準備で、つるべ落としの秋を味方につけられる。