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ソフトトップに回帰した新型SLは「2+2」
メルセデス・ベンツ製オープンスポーツカーのアイコンともいえる「SL」が新型に移行した。先代から新型への移行に際しては多くの変化があるが、そのひとつがメルセデスAMGによる完全自社開発になったことだ。AMGはレーシングカー開発の技術とメルセデス・ベンツの最先端技術を結集したトップパフォーマンスモデルの生産を行なっている。
6代目にあたる先代(R231)は金属製のトップを備えていたが、新型(R232)はソフトトップだ。SLがソフトトップに回帰するのは4代目(R129:1989年〜2001年)以来である。金属製ルーフからソフトトップに変更することで21kgの軽量化を実現。低重心化にもつながっている。ソフトトップは3層構造で、外側シェルとルーフライナーの間には450g/m²のしっかりした防音マットを挟んでいる。
ソフトトップの開閉操作はセンターコンソールのスイッチパネル、もしくは11.9インチサイズの縦型メディアディスプレイをタッチして行なう。開閉は約15秒で完了。60km/hまでであれば走行中でも開閉が可能だ。Z形に折りたたまれるソフトトップを完全に収納した際は周囲の面より突出せず、きれいに収納される。見た目にも極めてスマートだ。前席左右ともシートヒーター機能を含むシートベンチレーターを標準で装備するし、首元に温風を吹きつけるエアスカーフも標準装備。オールシーズンで快適なドライブが楽しめそうだ。クローズドにしたときの静粛性は高く、迫力あるエンジンサウンド(詳細は後述)を楽しむのに向いている。
新しいSLは2シーターではなく、2+2としているのも特徴だ。SLが2+2のレイアウトを採用するのはやはり、R129型以来。ただし、後席に着座できる乗員の身長は150cmまでに制限されている。現実的には、手持ちのバッグや上着を放り込むスペースとして利用するケースが多いだろう(そうと割り切った場合でも、便利に違いない)。
最新のテクノロジーが注ぎ込まれたボディ&シャシー
エクステリアはロングノーズ・ショートデッキの伝統的なプロポーションを保っている。長いボンネットフードには「パワードーム」と呼ぶ隆起が走り、メルセデスAMG製スポーツカーの遺伝的特徴を受け継いでいる。遺伝といえば、14本の垂直ルーバーを配したフロントグリルは1952年のレース車両、300SL(W194)からの引用だ。SLはSuper Light(超軽量)の略で、アルミ製スペースフレームとアルミ製ボディにより軽量化を図ったことに由来する。
国内に導入されるメルセデスAMG SL 43の車両重量は1780kgだ。超軽量とは言いがたいが、全長×全幅が4700×1915mmという立派な体躯であることを考慮に入れる必要があるし、アルミニウム複合シャシー(アルミ、スチール、マグネシウム、複合繊維材を使用)を採用して軽量化を追求してはいる。しかも、SL向けの専用開発だ。ねじり剛性は先代に比べて18%高く、横剛性はAMG GTロードスター比で50%増、前後剛性は40%増で、ホワイトボディ重量は約270kgである。
サスペンションは前後ともに5リンク(マルチリンク)式だ。特筆すべきはフロントで、アッパーリンクをホイールの内側に収めているのが特徴。メルセデスAMGの量産車としては初適用だ。ホイールの内側にアッパー、ロワーの両リンクを収めると、リンク類がコンパクトにまとめられるのでフードを低く設定しやすい。半面、一般論としては、キャンバー剛性やキャスター剛性の確保が難しく、剛性を高めようとするとブッシュ剛性を高くしたくなり、快適性面が犠牲になりがちだ。
このネガを解消するのがアッパーリンクをホイールの外(上)に配置するハイマウントアッパーリンクタイプで、乗用車のフロントにマルチリンク式を採用する場合はこちらが一般的。新型SLはレーシングカー譲りのコンパクトなレイアウトを採用してきたというわけだ。
メルセデスは「ホイールをコントロールする部分とサスペンション機能を受け持つ部分を相互に独立させることで、高い横加速度を可能としつつ、ステアリングシステムに対する駆動力の影響を最小限に抑えている」と説明している。アッパーのAアームを2本のリンクに分割することで、ナックル側ピボットが受け持つ軸の機能をストロークと転舵で分離したということだろう(特別なことは言ってないし、ハイマウントタイプのマルチリンクでも対応可)。ナックル、ハブキャリア、各種リンクはすべて鍛造アルミ製だ。
2.0L直4に電動ターボを組み合わせるパワートレーン
エンジン形式:直列4気筒DOHCターボ エンジン型式:M139 排気量:1991cc ボア×ストローク:83.0mm×92.0mm 圧縮比:- 最高出力:381ps(280kW)/6750rpm 最大トルク:480Nm/3250-5000rpm 過給機:ターボチャージャー 燃料供給:DI 使用燃料:プレミアム 燃料タンク容量:70ℓ
車名につく数字がエンジンの排気量を表していないのは近年のメルセデスの流儀で、新型SLも例外ではない。メルセデスAMG SL 43が搭載するエンジンの排気量は4.3Lではなく2.0Lで、V8ではなく直列4気筒ターボだ。本国にはSL 55 4MATIC+とSL 63 4MATIC+の設定があり、4.0LV8ツインターボを搭載している(4MATICが示すように4WDだ。SL初の)。SL 43は本国では「魅力的なエントリーモデル」として設定されている。
ではパフォーマンス面で見劣りがするかというと、当然、エンジンの最高出力にしても最大トルクにしても、0-100km/h加速にしても、最高速にしても、4.0LV8ツインターボ搭載モデルに劣るのは当然だ。だが、ちょっとばかり転がした身としては、SL 43のパフォーマンスに不満の声が挙がるとは到底思えない。
最高出力は280kW(381ps)/6750rpm、最大トルクは480Nm/3250-5000rpmを発生する。本国データだが、0-100km/h加速は4.9秒、最高速は275km/hに達する。SL 43からは、これらの数字から想像するパフォーマンスを期待していい。
M139と呼ぶこのエンジンのハイライトは、世界初のエレクトリックエグゾーストガスターボチャージャーを備えていることだ。簡潔に説明すると、コンプレッサーの背後にモーターを搭載しており、そのモーターでコンプレッサーを回転させることでターボラグを解消する仕組みである(48Vシステムで作動)。量産車としては世界初採用だ(F1で同種のシステムを採用している)。
トランスミッションはAMGスピードシフトMCTを搭載。縦置き9速のトランスミッションをベースとし、トルクコンバーターのかわりに湿式多板クラッチを採用しているのが特徴である。ダイレクト感と高い伝達効率を重視しての選択だ。
メルセデスAMG SL 43の走りは刺激的のひと言に尽きる。とことんパワフルだし、感心するほどにいい音を響かせる。コンプレッサーを駆動するモーターが効いているのだろう。どんなシチュエーションでアクセルペダルを踏み込んでも、期待した力が即座に湧いて出てくる。アクセルペダルの動きと連動したエンジンサウンドの変化が気分を盛り立てる。
ステアリングの操作に対するクルマの動きは機敏で、車両のサイズを感じさせない。キビキビと動くし、極めて高い剛性“感”が感じられる。しっかりしたクルマ、いいクルマの印象だ。ワインディングロードで運転を楽しんでいるとオープンカーであるこことを忘れてしまうほどで、オープンカーである前にスポーツカーであることを強く意識させられる。メルセデスAMG SL 43はそんなクルマだ。
メルセデスAMG SL43(BSG搭載モデル) 全長×全幅×全高:4700mm×1915mm×1370mm ホイールベース:2700mm 車重:1780kg サスペンション:Fマクファーソンストラット式 Rダブルウィッシュボーン式 エンジン形式:直列4気筒DOHCターボ エンジン型式:M139 排気量:1991cc ボア×ストローク:83.0mm×92.0mm 圧縮比:- 最高出力:381ps(280kW)/6750rpm 最大トルク:480Nm/3250-5000rpm 過給機:ターボチャージャー 燃料供給:DI 使用燃料:プレミアム 燃料タンク容量:70ℓ トランスミッション:9AT モーター:EM0025型スイッチトリラクタンスモーター 定格出力 8kW 最高出力 10kW 最大トルク58Nm 駆動方式:RWD WLTCモード燃費:10.8km/ℓ 市街地モード7.4km/ℓ 郊外モード11.2km/ℓ 高速道路モード13.2km/ℓ 車両価格:1648万円