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レンチの基本は「スパナ」と「メガネ」
ソケット工具と並んでボルト&ナットを回すのに必要となるのがレンチだ。だが、レンチと一口で言ってもスパナ(オープンエンドレンチ)、メガネレンチ(リングレンチ/ダブルボックスエンドレンチ)、モンキーレンチ(アジャスタブルレンチ)、ラチェットレンチなどの種類があり、製造メーカーやサイズ違いなども考えると選択肢は無数にある。
では、これから工具を揃えようと考えている初心者は最初のレンチとしてどれを選べば良いのだろうか?
一般的には整備で使う基本となるレンチはスパナとメガネレンチとされている。スパナはハンドルの両端に先の開いた差し込み口があり、ボルト&ナットの平行な2面に力をかけることで締緩を行うレンチであり、メガネレンチはハンドルの両端に環状となった12角(6角の製品もある)の口部を設けており、ボルト&ナットの上からアクセスして接触する6面に力を掛けることで締める・緩めるを行うレンチとなる。
接触面が多いほうが安定して力をかけられることから優先して使うべきはメガネレンチであり、スパナはバイクのミラー取りつけナットやバッテリー固定ナットなどのメガネレンチではアクセスが難しい場合や、ボルト&ナットの早回し作業に使用するものとされている。
映画やアニメ、マンガなどのメカの整備シーンで登場することの多いスパナだが、実際の使用頻度はさほど多くはない。とは言え、メガネレンチだけでは作業が難しい場面もある。2種類のレンチを一度で揃えるのは金銭的な負担が大きいし、レンチは嵩張るため保管場所のことも考えなければならない。
そこで輝き出すのが1本のレンチでメガネとスパナの機能を備えたコンビネーションレンチなのである。
一石二鳥の「コンビネーションレンチ」そのメリットとデメリットは?
近代的なコンビネーションレンチが登場したのは1933年のことで、アメリカの老舗工具メーカー・PROTO TOOLS(プロトツールズ)の前身となるPLOMB TOOLS(プロムツール)が発明した。
それ以前にもスパナとメガネを組み合わせたレンチは存在したが、PROTOの製品はメガネ部分に15度のアングルをつけたことが画期的だった。これによりレンチをかけた際に手が入るスペースが生まれ、なおかつ力を入れやすくなったことから登場とともに人気を呼び、以降現在に至るまで工具の世界ではスタンダードな形状となっている。
言うまでもなくコンビネーションレンチの最大の長所は1本でスパナとメガネの両方に使えるところにある。当然、両口のサイズは同じである。これは初心者にとって購入時や作業時にわかりやすく、スパナやメガネのようにメーカーや製品ごとに異なるサイズの組み合わせを気にすることがなく、選びやすいということもメリットになる。
つまり回したいボルト&ナットのサイズごとのコンビネーションレンチを手に取れば良いわけで、必要とする口径サイズが少ない場合にはレンチの本数を少なくできるのは大きなメリットだ。
実際、筆者が最初に購入したのも安価なコンビネーションレンチのセットで、最初の数年間はそれだけでレンチが必要となる作業を賄っていた。
デメリットはメリットの裏返しで2本のレンチを1本にまとめたことによる中途半端さにある。
メーカーや製品によっても長さは異なるが、総じて言えばコンビネーションレンチはスパナよりは長く、メガネよりは短い。すなわち、スパナとして使うときには長さ故にオーバートルクに注意しなければならないし、メガネとして使うときには短さ故にボルトやナットを回すのに+αの力が必要ということになる。
ただし、これは製品によっても異なり、Stahlwille(スタビレー)のスタンダードタイプ(13シリーズ)は、14mmレンチの場合だと全長は16.5cmとかなり短く、比較的長めのSnap-onの同サイズのレンチと比べると5.4cmも違いがある(おそらくはスパナでの作業性を重視した結果なのだろう)。
どの製品を選ぶかによっても変わってくるが、揃えたコンビネーションレンチで作業に不満を感じたときにそこで改めてスパナやメガネを買い足しても良いし、長さの違う他社製品やロングタイプと呼ばれる全長の長いコンビネーションレンチを追加しても良いだろう。そうやって自分の作業スタイルや整備内容に応じて少しずつレンチの数や種類を増やしていくことで、できる作業の幅が広がり、快適な作業環境が整っていく。それが工具を揃える楽しさのひとつでもあるのだ。
他にもある! コンビネーションレンチの種類と選び方
今回は割愛したが、コンビネーションレンチにはこのほかにも、狭い場所での作業性を考慮して全長を短くしたミゼットタイプ、メガネ部のオフセットを深くしたディープオフセットタイプ、スパナ部に早回し機能を盛り込んだクイックタイプ、メガネ部にラチェット機構を盛り込んだコンビネーションラチェットレンチ、同レンチの首振りタイプなどが存在する。これらもいずれ機会があれば紹介していきたい。
最後に製品の選び方について。コンビネーションレンチに限らずレンチは、メーカーや製品によっても個性があり、同じサイズの製品でも作りはかなり異なる。価格や数字上のスペックはネットでも確認できるが、質感や肌触り、重量感などは実際に触れてみないとわからない。
工具には相性があり、どんなに評判の良いものでも手に取ってみたら自分には合わないと言うこともある。できれば通販よりも実際に工具店に足を運び、さまざまな製品を見て触れてから自分に合ったレンチを選ぶようにして欲しい。
鏡面? 梨地? 表面の仕上げの違いにもメリットとデメリットがあり
レンチには仕上げによってキラキラしたメッキ処理の鏡面仕上げ、ざらざらしたメッキ処理の梨地仕上げ、メッキ処理を行わない黒染め仕上げのインダストリアルフィニッシュがある。
クルマやバイク用としては鏡面仕上げと梨地仕上げが主流で、前者はアメリカの工具に多く、後者はヨーロッパと日本の工具に多いようだ。
鏡面仕上げは見た目が良いだけでなくサビなどの腐食に強く、オイルなどの汚れが拭き取りやすく手入れもラクという長所がある。
一方で梨地仕上げはオイルがついた手でも滑りにくく、密着性が高いのでメッキが剥がれにくいというメリットがある。
そして両者のメリット・デメリットはその反対となる。
ただ、こうしたメリット・デメリットはあくまでも”強いて言えば”程度のこと。梨地仕上げでもオイル塗れの手で握れば滑るときは滑るし、鏡面仕上げでもSnap-onやneprosなどの一流メーカーの製品ならメッキ剥がれはまず起こらない。
筆者は見た目の美しさと手入れのしやすさから鏡面仕上げ推しだが、これは個人の好みや作業スタイルによっても違う。どちらを選んだからといって間違いではないので、好みで選ぶのが最終的には満足度が高いのではないだろうか。