スパナとメガネを揃えるのは大変! でも「コンビネーションレンチ」なら1本で2度おいしい! 【DIY派はこれを揃えてお工具! 第5回】

工具店に行けばさまざまな種類のレンチが並んでいる。その中からもっともベーシックなものを選ぶとするとスパナとメガネレンチ の2種類になるだろう。だが、2種類のレンチを1度に揃えるのは財布への負担が大きいし、収納場所なども気にしなければならない。そんなときに片口がスパナ、片口がメガネのコンビネーションレンチを選べば、必要とする口径サイズが少ない場合にはレンチの本数を少なくできるのだ。まず初心者はコンビネーションレンチからレンチを揃えてみてはいかがだろうか?

レンチの基本は「スパナ」と「メガネ」

ソケット工具と並んでボルト&ナットを回すのに必要となるのがレンチだ。だが、レンチと一口で言ってもスパナ(オープンエンドレンチ)、メガネレンチ(リングレンチ/ダブルボックスエンドレンチ)、モンキーレンチ(アジャスタブルレンチ)、ラチェットレンチなどの種類があり、製造メーカーやサイズ違いなども考えると選択肢は無数にある。
では、これから工具を揃えようと考えている初心者は最初のレンチとしてどれを選べば良いのだろうか?

一般的には整備で使う基本となるレンチはスパナとメガネレンチとされている。スパナはハンドルの両端に先の開いた差し込み口があり、ボルト&ナットの平行な2面に力をかけることで締緩を行うレンチであり、メガネレンチはハンドルの両端に環状となった12角(6角の製品もある)の口部を設けており、ボルト&ナットの上からアクセスして接触する6面に力を掛けることで締める・緩めるを行うレンチとなる。

スパナ(オープンエンドレンチ)は、ハンドルの両端に先の開いた差し込み口となっており、ボルト&ナットの側方からアクセスできるため、ネジ上部に隙間がなくともボルト&ナットを回すことができる。だが、強い力をかけると差込口が開いてしまいボルト&ナットを破損させてしまうことがある。通常、スパナは10×12mm、12×14mmなどと両端でサイズが異なり、その組み合わせはレンチ選びのときに頭を悩ませることも。
メガネレンチ(リングレンチ/ダブルボックスエンドレンチ)はハンドルの両端に環状となった12角(6角の製品もある)の口部を設けており、接触する6面にトルクをかけることで強い力をかけてもボルト&ナットを破損させるリスクが低い。反面、ボルト&ナットへのアクセスは上方からに限られるため、スパナに比べて作業性は劣る。スパナと同じく両端でサイズが異なる。

接触面が多いほうが安定して力をかけられることから優先して使うべきはメガネレンチであり、スパナはバイクのミラー取りつけナットやバッテリー固定ナットなどのメガネレンチではアクセスが難しい場合や、ボルト&ナットの早回し作業に使用するものとされている。
映画やアニメ、マンガなどのメカの整備シーンで登場することの多いスパナだが、実際の使用頻度はさほど多くはない。とは言え、メガネレンチだけでは作業が難しい場面もある。2種類のレンチを一度で揃えるのは金銭的な負担が大きいし、レンチは嵩張るため保管場所のことも考えなければならない。
そこで輝き出すのが1本のレンチでメガネとスパナの機能を備えたコンビネーションレンチなのである。

一石二鳥の「コンビネーションレンチ」そのメリットとデメリットは?

近代的なコンビネーションレンチが登場したのは1933年のことで、アメリカの老舗工具メーカー・PROTO TOOLS(プロトツールズ)の前身となるPLOMB TOOLS(プロムツール)が発明した。
それ以前にもスパナとメガネを組み合わせたレンチは存在したが、PROTOの製品はメガネ部分に15度のアングルをつけたことが画期的だった。これによりレンチをかけた際に手が入るスペースが生まれ、なおかつ力を入れやすくなったことから登場とともに人気を呼び、以降現在に至るまで工具の世界ではスタンダードな形状となっている。

PROTO TOOLSの前身となるPLOMB TOOLSが1933年に発売した世界初の近代的コンビネーションレンチ。PROTO TOOLSは終戦後間も無く、Snap-onとともに日本にもたらされ、当時は進駐軍払い下げの同社の工具は日本人メカニックが憧れた舶来工具のひとつであった。現在では正規輸入代理店が存在しないことから国内では知る人ぞ知るブランドだ。
メガネ部分の比較。メガネ部分だけでも種類があり、上から「ストレートメガネ」「コンビネーションレンチ」「45度オフセットメガネ」「75度メガネレンチ」。比較的全長の短いハンドル部分と浅い15度のオフセットにより、コンビネーションレンチは特に使い勝手が良い。

言うまでもなくコンビネーションレンチの最大の長所は1本でスパナとメガネの両方に使えるところにある。当然、両口のサイズは同じである。これは初心者にとって購入時や作業時にわかりやすく、スパナやメガネのようにメーカーや製品ごとに異なるサイズの組み合わせを気にすることがなく、選びやすいということもメリットになる。
つまり回したいボルト&ナットのサイズごとのコンビネーションレンチを手に取れば良いわけで、必要とする口径サイズが少ない場合にはレンチの本数を少なくできるのは大きなメリットだ。

実際、筆者が最初に購入したのも安価なコンビネーションレンチのセットで、最初の数年間はそれだけでレンチが必要となる作業を賄っていた。

筆者が愛用するコンビネーションレンチ・その1。9~19mmまでがARMSTRONG TOOLS(アームストロング ツールズ)製のスタンダードタイプで、8mmのみDeen(ファクトリーギア)を使用。使い勝手の良さからもっとも手に取ることが多いレンチだ
筆者が愛用するコンビネーションレンチ・その2。全長がやや長いものが欲しくなり購入。9~18mmまでがSnap-on(スナップオン)のスタンダードタイプで、8mmがARMSTRONG TOOLSのロングタイプ、6~7mmがWilliames Tools(ウィリアムズ)のスタンダードタイプ。コンビネーションレンチは8mmと10~19mmまでを揃えておくことで多くの作業をこなすことができる。

デメリットはメリットの裏返しで2本のレンチを1本にまとめたことによる中途半端さにある。
メーカーや製品によっても長さは異なるが、総じて言えばコンビネーションレンチはスパナよりは長く、メガネよりは短い。すなわち、スパナとして使うときには長さ故にオーバートルクに注意しなければならないし、メガネとして使うときには短さ故にボルトやナットを回すのに+αの力が必要ということになる。
ただし、これは製品によっても異なり、Stahlwille(スタビレー)のスタンダードタイプ(13シリーズ)は、14mmレンチの場合だと全長は16.5cmとかなり短く、比較的長めのSnap-onの同サイズのレンチと比べると5.4cmも違いがある(おそらくはスパナでの作業性を重視した結果なのだろう)。

全長が短めのARMSTRONG TOOLS(上)と長めのSnap-on(スパナ部分の食いつきが良いフランクドライブではなく標準タイプ)(下)との比較。ともにスタンダードサイズだが、ARMSTRONGは20.6cm、Snap-onが25.3cmと全長は4.7cmも違う。ダブルナットへの対処を考えると、コンビネーションレンチは全長の違うものを2セット、あるいはスパナのセットを組み合わせて所有すると良い。
Stahlwille(スタビレー)の13シリーズ・コンビネーションレンチ。スパナと比べても分かる通り、その全長はかなり短い。ロングタイプの14シリーズの設定もある。

どの製品を選ぶかによっても変わってくるが、揃えたコンビネーションレンチで作業に不満を感じたときにそこで改めてスパナやメガネを買い足しても良いし、長さの違う他社製品やロングタイプと呼ばれる全長の長いコンビネーションレンチを追加しても良いだろう。そうやって自分の作業スタイルや整備内容に応じて少しずつレンチの数や種類を増やしていくことで、できる作業の幅が広がり、快適な作業環境が整っていく。それが工具を揃える楽しさのひとつでもあるのだ。

バイクのミラー取り付けナットなどはスパナでなければ回すことができない。コンビネーションレンチで対応可能だが、その全長の長さからオーバートルク=締め付け過ぎに注意する必要がある。最悪の場合、捩じ切ってしまうことも……。
上下方向からアクセスできるボルト&ナットにはメガネを優先して使うのが基本。コンビネーションレンチは同サイズのボルト&ナットならば、工具を持ち替えることなく1本で作業できるのが大きなメリットと言える。

他にもある! コンビネーションレンチの種類と選び方

今回は割愛したが、コンビネーションレンチにはこのほかにも、狭い場所での作業性を考慮して全長を短くしたミゼットタイプ、メガネ部のオフセットを深くしたディープオフセットタイプ、スパナ部に早回し機能を盛り込んだクイックタイプ、メガネ部にラチェット機構を盛り込んだコンビネーションラチェットレンチ、同レンチの首振りタイプなどが存在する。これらもいずれ機会があれば紹介していきたい。

同サイズで手持ちのレンチを並べてみた。上からメガネレンチ(PROTO製)、コンビネーションレンチ(ARMSTRONG製)、ラチェットコンビレンチのミゼットサイズ(ARMSTRONG製)、薄型ラチェットコンビレンチ(DEEN/ファクトリーギア製)、首振りラチェットコンビレンチ (PROXXON製)。ラチェットコンビレンチについてはいずれ機会を改めて紹介したい。

最後に製品の選び方について。コンビネーションレンチに限らずレンチは、メーカーや製品によっても個性があり、同じサイズの製品でも作りはかなり異なる。価格や数字上のスペックはネットでも確認できるが、質感や肌触り、重量感などは実際に触れてみないとわからない。
工具には相性があり、どんなに評判の良いものでも手に取ってみたら自分には合わないと言うこともある。できれば通販よりも実際に工具店に足を運び、さまざまな製品を見て触れてから自分に合ったレンチを選ぶようにして欲しい。

ARMSTRONG製ラチェットコンビレンチのミゼットサイズのスパナ部分には切り込みが入っている。これはSnap-onのフランクドライブと同じくボルト&ナットへの食いつきを良くして高いトルクをかけられるようにした工夫だ。ただしボルト&ナットに線傷が入るため、使用する際には注意が必要。

鏡面? 梨地? 表面の仕上げの違いにもメリットとデメリットがあり

レンチには仕上げによってキラキラしたメッキ処理の鏡面仕上げ、ざらざらしたメッキ処理の梨地仕上げ、メッキ処理を行わない黒染め仕上げのインダストリアルフィニッシュがある。
クルマやバイク用としては鏡面仕上げと梨地仕上げが主流で、前者はアメリカの工具に多く、後者はヨーロッパと日本の工具に多いようだ。

コンビネーションレンチに限らず、レンチには鏡面仕上げと梨地仕上げがある。どちらも一長一短があるので、特徴を理解した上で好きな方を選ぶと良いだろう。

鏡面仕上げは見た目が良いだけでなくサビなどの腐食に強く、オイルなどの汚れが拭き取りやすく手入れもラクという長所がある。
一方で梨地仕上げはオイルがついた手でも滑りにくく、密着性が高いのでメッキが剥がれにくいというメリットがある。
そして両者のメリット・デメリットはその反対となる。
ただ、こうしたメリット・デメリットはあくまでも”強いて言えば”程度のこと。梨地仕上げでもオイル塗れの手で握れば滑るときは滑るし、鏡面仕上げでもSnap-onやneprosなどの一流メーカーの製品ならメッキ剥がれはまず起こらない。

筆者は見た目の美しさと手入れのしやすさから鏡面仕上げ推しだが、これは個人の好みや作業スタイルによっても違う。どちらを選んだからといって間違いではないので、好みで選ぶのが最終的には満足度が高いのではないだろうか。

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著者プロフィール

山崎 龍 近影

山崎 龍

フリーライター。1973年東京生まれ。自動車雑誌編集者を経てフリーに。クルマやバイクが一応の専門だが、…