ホンダがシビックタイプR(CNF-R)をスーパー耐久シリーズで走らせる狙い

「ENEOS スーパー耐久シリーズ2023 第2戦 NAPAC 富士 SUPER TEC 24時間レース(富士24時間)」の決勝レースを翌日に控えた5月26日、株式会社ホンダ・レーシング(HRC)はチームHRCの参戦概要と狙いを説明すべく、現地(富士スピードウェイ)で記者会見を行なった。
TEXT & PHOTO:世良耕太(SERA Kota)

シビック・タイプR(FL5)によるスーパー耐久シリーズへの参戦

HRCはかつて、ホンダの二輪モータースポーツ活動を一手に引き受けていたが、2022年4月に新たな体制となり、F1をはじめとする四輪モータースポーツ活動を担ってきたHRD Sakuraと本社のモータースポーツ部門を統合した。統合するにあたり、「4つの方針を定めた」と、HRC取締役 企画管理部 部長の長井昌也氏は説明する。

「ひとつはレースに勝つことでホンダのブランドを高めていくこと。2つめに、四輪、二輪の事業に具体的に貢献していくこと。3つめはサステイナブル(持続可能)なモータースポーツを作るためにカーボンニュートラルに対応していくこと。そして4つめは、モータースポーツの裾野を広げていく活動をすること。そう決めました」

ホンダのモータースポーツ活動は「勝つこと」を至上命題に続けてきたが、新生HRCが掲げるのはそれだけではない。「必勝のHRC」ではなく、「勉強のHRC」だと、長井氏は現在のHRCの位置づけを表現した。「お客さまと一緒によろこびを分かち合うこと」が重要で、それを模索しているところだと。

その思いを具体化していく最初の手段が、シビック・タイプR(FL5)によるスーパー耐久シリーズへの参戦だ。サステイナブルなモータースポーツを構築するためにはカーボンニュートラルへの取り組みは欠かせず、HRCが富士24時間から投入するシビック・タイプRはカーボンニュートラル燃料(CNF)の使用が最大の特徴となる。車名はシビック・タイプR CNF-Rだ。

SUPER GT GT500クラスではNSX-GTが今季からCNFを使用しているが、GT500の場合はレース専用に開発された極限のエンジンに適用している。「市販車ベースのクルマについてもCNFを使おうではないか」という考えから、CNFの適用に至ったという。「CNFに適したセッティングのノウハウを、自分たちで参戦して使ってみることでしっかり得る」狙いが、CNF-R誕生の背景にある。

CNF-Rをスーパー耐久シリーズで走らせる狙いはもう1つある。

「お客さまがレースで走らせるためにどんなことを必要としているのか、知りたいからです。自ら参戦することで、信頼耐久性や使い勝手、あるいはパフォーマンスアップについて、どういったものが求められているのか知る。そこで得たノウハウを生かし、レースのベース車両やパーツに反映し、お客さまに使っていただくことでモータースポーツの裾野を拡げたいと考えています」

「モータースポーツとスポーツカーが大好き」でホンダに入社した参加型モータースポーツ プロジェクトリーダーの岡義友氏は、「レースのベース車とレースで使えるパーツを提供することで、モータースポーツを盛り上げたい」と話す。

「スーパー耐久のST-Qクラス(開発車両に認められたクラス)はまさに走る実験室です。そこで技術を磨くべく、参戦を決意するに至りました。大好きなモータースポーツとスポーツカーをこの先も継続していくためには、環境対応はなくてはならないと思っています。271号車のタイプR CNF-Rはその車名どおり、CNFを使うので環境にやさしい。それだけではなく、カスタマー向けを考えているので、扱いやすくて速い。そういったクルマづくりをやっていきたいと考えています」

ドライバーは武藤英紀、伊沢拓也、大津弘樹、小出俊選手の4名だ。武藤選手は昨年と今年1戦ずつ、ホンダの社員自己啓発チームであるHonda R&D Challenge(HRDC、富士24時間の参戦メンバーは石垣博基/野尻智紀/木立純一/柿沼秀樹/桂伸一/望月哲明)で参戦している。その経験が買われての起用だろうと自己分析し、「24時間後にきちんとゴールすることを前提に進めていきたい」と意気込みを語った。

武藤選手とともに量産シビック・タイプRの開発に携わった経験を持つ伊沢選手も(武藤選手とともにシビック・タイプRオーナーでもある)、HRDCの一員として開発に携わった経験を持つ。「胸を張ってみなさんに届けられるほどのレベルにはない」と、CNF-Rの現状を正直に吐露しながらも、「ここにいるメンバーとしっかり仕上げていきたい」と話した。

24時間レースに2度参戦した経験を持つ大津選手は、「スーパー耐久レースはレースを始めたばかりの方からプロまで多くいる。どんな方でも攻めることができて楽しめるクルマを、シーズンを通じて開発していきたい」と語った。

4名のメンバーのうち最若手(1999年生まれ)ながら、24時間レース出場は4回目となる小出選手は、「その経験を生かし、車両のフィードバックを進めていきたい。(富士24時間での)メインは夜間の走行になると思うので、体力面でチームをサポートし、プロジェクトの進行をスムーズ進めていけたら」と話した。

速く走ることが目的ではないとしながらも、ターゲットがなければ張り合いはない。そこで、チームHRCはST-2クラスに参戦する前述のHRDCシビック・タイプR(743号車)をベンチマークに据えている模様。CNFのノウハウ蓄積と、誰にとっても扱いやすくて速いカスタマーカーおよびパーツの開発に向けた第一歩が記されようとしている。

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著者プロフィール

世良耕太 近影

世良耕太

1967年東京生まれ。早稲田大学卒業後、出版社に勤務。編集者・ライターとして自動車、技術、F1をはじめと…