古いクルマのイベントやミーティングに出かけると、展示されている車両の多くが日産車であることに気付かされる。現在の新型車販売台数を見ると圧倒的にトヨタ車が強く、日産車はトップ40に数台がランクインするだけと寂しい。ところが1960年代から90年代くらいまで、日産には数多くの人気モデルが存在したし販売台数でも国内2位をキープしてきた。それだけに数多くの古い日産車が残っているのは理解できるが、旧車としての人気はトヨタを上回るものがある。一般的に言われるのは日産車のエンジンが丈夫でオーバーホールだけでなくチューニングにも適しているから、数多くの古い日産車が残ったというもの。確かにオーバーホール中のL型エンジンを見ると、シリンダーのボアピッチに余裕がある設計だとわかる。だから排気量の違うピストンやコンロッドを組み合わせて排気量アップするのに適していた。
L型エンジンというと6気筒のイメージが強い。人気のスカイラインやフェアレディZに搭載されたほか、ローレルやセドリック・グロリアといった日産の主だった車種に採用されていた。ただ、L型には4気筒があることを忘れてはいけない。L型4気筒は1967年にフルモデルチェンジした3代目の510ブルーバードに初採用されたエンジン。すでに6気筒のL20型がセドリックに採用されいてたが、新型ブルーバードには排気量を1.6リッターとして2気筒少なくした4気筒版が新開発されたのだ。
L16型エンジンを搭載するブルーバードはスポーツグレードである1600SSS。スーパー・スポーツ・セダンの頭文字を並べたSSSは非常に高いポテンシャルを秘めており、映画『栄光への5000キロ』で知られるように世界三大ラリーの一つであるサファリラリーで総合優勝を果たしている。エンジン性能だけでなく車体のバランスに優れているため高いコーナリングスピードが可能であり、実に現在のクラシックカーレースで改造自由度の高いクラスの最速の座につくのが510ブルーバードでもある。
性能だけでなくスーパーソニックラインと呼ばれた直線基調のスタイリングも好評で、ライバルであるトヨタ・コロナと激しい販売合戦を繰り広げたもの。そのため次世代モデルであるブルーバードUが1971年に発売された後も510は併売され、1973年にバイオレットが発売されるまで継続生産された。それだけ人気だったモデルのため、現在でも数多くの510ブルーバードが残存している。なかでも人気なのはL型エンジンを搭載した1600SSS、さらには排気量を拡大した1800SSSだ。
旧車、特に古い国産車に乗るオーナーというと、その多くが50代以上の世代。若い頃や幼い頃、近所を走っていた姿に憧れ手に入れたという人が多く、その理由についても理解しやすい。ところが近年になって若い世代が国産旧車を楽しんでいる姿を見かけるようになった。その理由としては親世代が旧車に乗っていて、その姿を見て育った子供世代が旧車に乗り始めたということが挙げられる。典型的な例が6月4日に新潟県で開催されたノスタルジックカーフェスタGOSENで見られたので紹介したい。
1971年式ブルーバード1800SSSに乗るのは34歳の荒木 兼さん。34歳と聞くとそれほど若く感じられないかもしれないが、荒木さんが510ブルーバードを手に入れたのは今から11年前の2012年のこと。当時はまだ23歳で、なんと社会人1年目で手に入れている。社会人になるまでは家のクルマで我慢してきたのだろう。自分で働いたお金で買うものとして、国産旧車を対象にするとは余程の入れ込みよう。その理由を聞いて納得、なんと荒木さんのお父さんは長くハコスカを所有されてきた。さらに古いバイクまで所有していて幼い頃からお父さんが旧車を楽しむ姿を見てきた。だから社会人になって選ぶなら日産の旧車と決めていたのだ。
お目当てはハコスカかS30フェアレディZ。ところがすでに当時、両車は結構な相場になっていて社会人1年生には手が出ない。そこで就職した会社の社長に相談することにした。というのも、荒木さんが就職したのは古い輸入車を扱う専門店だったのだ。しかも社長は自らの愛車としてTE27レビン・トレノを所有している。相談相手として、まさに適役。そんな折、ヤフオク!に1800SSSが出品されているのを見つけた。出品者と連絡を取り、事前に社長に同行してもらい下見に行くこととなった。こうして手に入れたのが現在の愛車なのだ。
手に入れるとカスタムを開始。まずミッションを標準の4速から5速へ載せ換え、LSDを組み込んでいる。さらにインターネットで入手したという車高調整式サスペンションシステムを組んで、510が備える走りの良さに磨きをかけた。楽しく走っていたが、まずエンジンが根を上げた。入手時から打音が聞こえていたのでエンジンを下ろして開けてみると、ピストンが首を振っていた。そこでブロック側をオーバーホールしつつ、その後にヘッドもオーバーホールすることになった。
さらにラジエターとヒーターのパンクが3度ほど続いたが、どちらもコアを入れ替える修理を済ませた。今は不安なく走れる状態になっていて、クーラーまで追加装備したから暑い時期でも楽しめる。2023年は7月に入ると酷暑が続き体温以上の気温を観測している。さすがにここまで暑いとクーラーのないクルマには乗っていられるものではない。快適かつ走りが楽しい510ブルーバードは、肩肘張らずに楽しめるいい相棒になったようだ。