リヤタイヤのワイド化が走りを変えた
後継モデルの噂がさっぱり聞こえてこないスカイライン。電動化の波に『老兵はただ消え去るのみ』なのか。その動向が気になっていたが、なんとNISMOバージョンが投入された。すでに多くのモデルに採用されているNISMOバージョンはモータースポーツ活動で培った技術を惜しみなく市販モデルに注入し、素材の良さを最大限に発揮。実用性を損なうことなく、走りの良さを極めたパッケージングは、日産車が目指す、走りの完成形でもある。
今回スカイラインNISMOのベースとなったのは3.0L・V6ツインターボを搭載するスカイライン400Rだ。もちろん、400の由来は最高出力(405ps)にある。FRのセダンボディに400psオーバーのハイパワーユニットを搭載する400Rはひと踏みするだけで背筋に緊張が走る刺激を持ち、正に絶滅危惧種の象徴的存在。ここまでやればもう思い残すことがないという気迫の一台だが、それをニスモが手懐けた。
パワーで15ps、トルクで75Nmパワーアップされたにもかかわらず走り出しからして安心感がある。組み合わされるミッションはフェアレディZが搭載する新開発の9速ATとは異なり7速ATのままだが、最大過給圧を0.7から1.0barへと高めたことで中速域でのトルク感が向上。2500rpmを超えるあたりから力強さを増して3000rpmあたりで迎えたピークを維持したままトップエンドのパンチ力へとリレーされていく。その息の長い加速にもかかわらず、リアタイヤはしっかりと路面を蹴り続け、微動だにしない。
従来の400Rが持っていたお尻がムズムズとするような不安定さが陰を潜めると同時に、姿勢もフラット感をキープしパワーを決して無駄にしない。フロントのばねレートを4%、リヤスタビを44%上げたことや、非ランフラット化した上でリヤタイヤを245/40から265/35へとワイド化したことにより、安定感が格段に進歩した。旋回中の動きもパワーをかけ続けている限りは前後のグリップバランスは高次元で保たれて、高い旋回スピードをキープ。姿勢の乱れが少なくなったことでステアbyワイヤーの協調性も向上し、修正舵で苦労することがなくなった。
走行モードを「SPORT」に変更するとロール速度は抑えられ収まりも良い。重めになったステアリングは小さな舵角でノーズを左右に振り、リヤの追従性が良くなったことで、タイトなラインでコーナーをクリア。滑り領域に入ってもエンジン制御が穏やかに介入して限界領域を嘗めるようにトレースし続ける。
ニスモの手によってクルマ本来の持つキャパシティを最大限引き出すと同時に前後バランスを極めたことで、緻密な制御介入が可能となり、横滑り抑制システムも邪魔にならない。ハイパワーFRモデルにもかかわらず、電子制御システムをオフにせず気持ちよく走れたことこそが、シャシー性能進化の大きな証。
扱いやすいパワーフィール同様に、正確性に磨きをかけたハンドリング性能の進化にニスモと日産の底地からを再認識。サイドに光るGT赤バッチの誇りが近代スカイラインにようやく蘇った。『老兵は死なず』これからも戦えるに違いない。1000台限定だけが惜しい。
日産スカイラインNISMO 全長×全幅×全高:4835mm×1820mm×1440mm ホイールベース:2850mm 車重:1760kg サスペンション:Fダブルウィッシュボーン式 Rマルチリンク式 駆動方式:後輪駆動 ステアリングギヤ形式:ラック&ピニオン式 ブレーキ:FRベンチレーテッドディスク タイヤサイズ:F245/40F19/R265/35R19 エンジン形式:V型6気筒DOHC直噴ターボ 型式:VR30DDTT 種類:筒内直接燃料噴射V型6気筒(DOHC) 排気量:2997cc ボア×ストローク:86.0×86.0mm 圧縮比: 最高出力:420ps(309kW) 最大トルク:550Nm 燃料:プレミアム 燃料タンク:80ℓ トランスミッション:マニュアルモード付8速AT 車両本体価格:788万0400円