主役は世界を見据える若手──2023年スーパーフォーミュラの終盤戦を経験の差は左右するか【主要モータースポーツ2023年上半期振り返り】

2023年全日本スーパーフォーミュラ選手権
2023年の第6戦を終えた時点ではふたりの若手ドライバーがタイトルを争う構図となっている。
日本国内におけるサーキットレースの頂点に君臨する全日本スーパーフォーミュラ選手権。2023年シーズンはマシンが一新され、それにともない勢力図も昨シーズンから変化が起きているように見受けられる。シーズン終盤に突入する前に、今季の状況を整理する。

今年51年目のシーズンを迎えている全日本スーパーフォーミュラ選手権(SF)。長年国内最高峰のレースカテゴリーとして君臨してきたシリーズは、今年新たな時代に突入している。

2023年全日本スーパーフォーミュラ選手権

今シーズン一番のビッグニュースは、使用するマシンが新しくなったことだ。
SFでは使用するマシンの性能差をなくすため、現在はシャシーはイタリアのダラーラ社がワンメイク供給、またエンジンはトヨタ/TRD(現TCD)とホンダ/M-TECが各チームに供給するかたちをとっている。
エンジンについてはすでに開発が凍結されており、それぞれに特性の違いこそあるものの総合的なパフォーマンスにはほとんど差はないとされる。そのため、わずかな違いがレース、ひいてはシーズン全体を左右することとなり、各陣営が重箱の隅をつつくような工夫をこらす、細かい戦いが繰り広げられているのである。

昨季までと特性が“逆”の新マシン

今季新たに導入された『SF23』は、モノコックやサスペンションなどは昨季までの『SF19』と共通のものを使用するが、前後ウイングやフロアなどをアップデート。前を行く車両が作った乱気流の影響を受けにくく、ドライバーたちが接近戦を演じやすいように設計されたエアロパッケージを纏っている。

この変更によりドライバーたちも、昨年までよりも前のクルマに近づけるようになったと証言しているほか、実際にレース序盤における追い抜きの回数も増えているとのことで、狙い通りの結果が出ていると言える。
それと同時に車両の特性も変化した。空力パーツの変更により、ごく簡単に表現すれば、SF19がどちらかと言えばアンダーステア傾向なパッケージだったのに対し、SF23はオーバーステア傾向に転じているという。

依然として空力に依存する部分が大きいマシンであるため、空力が変わればマシンとしても別物になったと言っても過言ではない。また、今季開幕前のテストが鈴鹿での1回だけとなったこともあり、全チームが手探り状態のまま開幕を迎えることとなった。
そのため、今季前半戦に予想外の苦戦をしいられた強豪チームがある一方、昨季まで低迷していたチームが高い競争力を発揮するなど、勢力図に変化が起きている。

ふたりの若手に現役王者が絡む

そんなシーズンのタイトル争いの中心にいるのはふたりの若手。7月中旬に行なわれた第5戦富士が終了した時点で、ポイントランキングトップにつけている宮田莉朋(VANTELIN TEAM TOM’S)と、同2位のリアム・ローソン(TEAM MUGEN)だ。

SF23
8月10日に24歳になったばかりの宮田。今季は国内トップカテゴリーでダブルタイトル獲得のチャンスを得ている。

宮田は神奈川県出身の24歳。トヨタ傘下でFIA-F4選手権から全日本スーパーフォーミュラライツ選手権(旧全日本F3選手権)でタイトルを獲得するなど、フォーミュラで着実に実績を積んできた。今年のSFでは第3戦鈴鹿でシリーズ初優勝を果たすなど2勝。86ポイントを稼いでランキングトップに立っている。

また、スーパーGT GT500クラスでも現在ランキング2位につけており、国内ダブルタイトルも視野に入っているほか、世界耐久選手権(WEC)で活躍できるドライバーの輩出を目的にTOYOTA GAZOO Racingが展開する『TGR WECチャレンジプログラム』のドライバーにも選出されるなど、トヨタ傘下の若手として今一番期待されている選手と言える。

SF23

宮田から1ポイント差のランキング2位のローソンは、レッドブル・ジュニアドライバーの一員。ニュージーランド出身の21歳は、昨年FIA F2選手権でランキング3位につけるなど、F1への昇格に向けて順調にキャリアを積み重ねてきた。今年はレッドブルF1のリザーブドライバーを務めると同時にSFに参戦。そして、日本レース界デビュー戦である開幕戦富士でいきなり優勝するなど、今季すでに3勝をマーク。度肝を抜くような活躍で非凡な才能を見せつけている。

レッドブル傘下のローソンは、SFでタイトルを獲得すればF1昇格にグッと近づくと言われている。

ちなみにローソンのようなF1候補生がSFに参戦した事例は、近年だとストフェル・バンドーン(元マクラーレンF1、現アストンマーティン リザーブ兼テストドライバー)、ピエール・ガスリー(現アルピーヌF1)に次ぐもの。両者ともに日本最高峰シリーズで結果を残し、世界へと羽ばたいていった。

今季の平均順位を比べると、宮田が予選4.5位、決勝2.7位、ローソンは予選4.2位、決勝2.8位とほぼ五分。宮田は直近4戦連続で表彰台に上がるなど安定して好結果を残している。対するローソンはチームとの連携ミスなどでポイントを取りこぼす場面もあった一方、ハマったときは手のつけられない速さを見せている。

そのふたりに続くのが、2021年から選手権を2連覇した現役王者、野尻智紀(TEAM MUGEN)だ。今季の野尻は開幕戦と第2戦でそれぞれ2位、1位とランキングトップでスタートしたものの、第3戦鈴鹿は接触によりリタイア、第4戦オートポリスは肺気胸により急きょ欠場と“まさかの無得点”が続いた。それでも、もちろん随所で速さを見せており、第6戦富士終了時点で61ポイントを獲得してランキング3位となっている。

第4戦オートポリスを肺気胸により急きょ欠場した野尻だが、ドライバーズランキング3位につけている。

野尻は昨季、早い段階で選手権をリードすると、優勝よりも各日にポイントを稼ぐことを優先してどちらかと言えば守りに入るレースが多かった。だが、追う立場となった今季残りの3戦は全身全霊をかけて“獲りにいく”王者が見られることだろう。

昨季のチャンピオンチームであるTEAM MUGENのマシンは今季もトップレベルの競争力を誇っているのは間違いない。それもあり、現時点で最多勝を挙げているのはローソンだが、彼は決勝でのレースペースに定評がある一方、日本のサーキットでの経験不足という要素はあるにしても、予選における一発の速さは自らも認める課題としているという。冒頭述べた通り、重爆の隅をつつくような戦いをしているSFにおいては、純粋なスピード、そして経験のわずかな差は結果として明確な差を生む要素になりうる。

その2点においては、現役王者の野尻に分がある。国内屈指のスピードを誇る野尻は、今季は開幕2戦でポールポジションを獲得するなど、予選は平均3位と若手ふたりを上回っている。また、SFタイトル初挑戦となる若手と、このシリーズで酸いも甘いも噛み分けた王者では、経験は比べるまでもない。

SF23

残りのシーズンはもてぎで1戦、鈴鹿で2戦が行なわれる。どちらのサーキットもコース上での追い抜きが難しいレイアウトであるため、予選の重要性が高いラウンドとなる。
まずは8月19~20日の第7戦もてぎ、その予選で誰が一番前に行くのかに注目したい。

2023年全日本スーパーフォーミュラ選手権ドライバーズランキング(Rd.6富士終了時点)

Rank.No.DriverTeam & EnginePts.
137宮田莉朋VANTELIN TEAM TOM’S
TOYOTA / TRD 01F
86
215L.ローソンTEAM MUGEN
HONDA / M-TEC HR-417E
85
31野尻智紀TEAM MUGEN
HONDA / M-TEC HR-417E
61
438坪井 翔P.MU/CERUMO・INGING
TOYOTA / TRD 01F
50
55牧野任祐DOCOMO TEAM DANDELION RACING
HONDA / M-TEC HR-417E
37
620平川 亮ITOCHU ENEX TEAM IMPUL
TOYOTA / TRD 01F
36
73山下健太KONDO RACING
TOYOTA / TRD 01F
28
865佐藤 蓮TCS NAKAJIMA RACING
HONDA / M-TEC HR-417E
17
964山本尚貴TCS NAKAJIMA RACING
HONDA / M-TEC HR-417E
14
107小林可夢偉Kids com Team KCMG
TOYOTA / TRD 01F
12
1153大湯都史樹TGM Grand Prix
HONDA / M-TEC HR-417E
11
1214大嶋和也docomo business ROOKIE
TOYOTA / TRD 01F
10
1339阪口晴南P.MU/CERUMO・INGING
TOYOTA / TRD 01F
9
1412福住仁嶺ThreeBond Racing
HONDA / M-TEC HR-417E
8
156太田格之進DOCOMO TEAM DANDELION RACING
HONDA / M-TEC HR-417E
6
164小高一斗KONDO RACING
TOYOTA / TRD 01F
5
1755C.ブリュックバシェTGM Grand Prix
HONDA / M-TEC HR-417E
5
1836G.アレジVANTELIN TEAM TOM’S
TOYOTA / TRD 01F
3
1918国本雄資Kids com Team KCMG
TOYOTA / TRD 01F
3
1大津弘樹TEAM MUGEN
HONDA / M-TEC HR-417E
0
19関口雄飛ITOCHU ENEX TEAM IMPUL
TOYOTA / TRD 01F
0
36笹原右京VANTELIN TEAM TOM’S
TOYOTA / TRD 01F
0
50松下信治B-Max Racing Team
HONDA / M-TEC HR-417E
0
51R.ハイマンB-Max Racing Team
HONDA / M-TEC HR-417E
0
53大津弘樹TGM Grand Prix
HONDA / M-TEC HR-417E
0
ポイントシステムは以下の通り
決勝……1位:20点、2位:15点、3位:11点、4位:8点、5位:6点、6位:5点、7位:4点、8位:3点、9位:2点、10位:1点
予選……1位:3点、2位:2点、3位:1点

2023年全日本スーパーフォーミュラ選手権チームランキング(Rd.6富士終了時点)

Rank.Team & EnginePts.
1TEAM MUGEN HONDA / M-TEC HR-417E133
2VANTELIN TEAM TOM’S TOYOTA / TRD 01F83
3P.MU/CERUMO・INGING TOYOTA / TRD 01F53
4DOCOMO TEAM DANDELION RACING HONDA / M-TEC HR-417E39
5ITOCHU ENEX TEAM IMPUL TOYOTA / TRD 01F36
6KONDO RACING TOYOTA / TRD 01F33
7TCS NAKAJIMA RACING HONDA / M-TEC HR-417E31
8Kids com Team KCMG TOYOTA / TRD 01F15
9docomo business ROOKIE TOYOTA / TRD 01F10
10TGM Grand Prix HONDA / M-TEC HR-417E9
11ThreeBond Racing HONDA / M-TEC HR-417E8
B-Max Racing Team HONDA / M-TEC HR-417E0
ポイントシステムは以下の通り
決勝……1位:20点、2位:15点、3位:11点、4位:8点、5位:6点、6位:5点、7位:4点、8位:3点、9位:2点、10位:1点
2台以上走らせるチームは、上位2台分が得点対象となる。なお、予選での獲得ポイントはチームポイントには加算されない。
全日本スーパーフォーミュラ選手権 2023年シーズン 残りの日程
Rd.DateCircuit
78月19-20日モビリティリゾートもてぎ
810月28日鈴鹿サーキット
910月29日鈴鹿サーキット
※鈴鹿での第8戦と第9戦は1イベント2レース制となっている。

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