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普段は1991年式の白い国産セダンに乗っている筆者。ベントレーとは無縁のカーライフを送ってきただけに、正直言ってかなりビビってました。5ナンバーサイズの愛車に対してあまりに大きく、サーキットとはいえその大きさを持て余すのではないか? ラグジュアリーブランドとはいえビッグパワーに振り回されるのはないか? 何かあったら一体幾らになるのか……そんな心配ばかりしてしまう。
個人的にベントレーと言えば最も「コンチネンタルGT」のイメージが強かったことから、やはりこのモデルを試乗していみたい。とはいえ、今回の試乗会にはクローズドボディの用意はなく、オープンカーの「コンチネンタルGTC AZURE」のみだった。
ビビりながらもベントレーとのファーストコンタクトにコンチネンタルGTC AZUREをセレクト。さっそく、試乗車に乗り込むわけだが……。
さっそくコンチネンタルGTCのシートにおさまる……リヤの!
ベントレー・コンチネンタルGTCの試乗機会などなかなかあるものではないし、ましてはそのリヤシートに座る機会はさらに貴重なのではないか?と考えた。おそらく、オーナーが自身がリヤシートに座ることはまず無いだろうし、パッセンジャーが乗せられることも極めて稀なケースだろう。
大柄な4座オープンクーペとはいえ、あくまでオマケ的な位置付けと思ってしまうリヤシートはボディサイズからすれば確かに狭い。しかし、車幅があるので包み込まれるようなサイドラインの高さほどにはあまり窮屈ではなかった。しかもオープンボディだけに開放感は抜群だ。ただし、これは上半身のこと。
一方で、さすがに膝回りはそうもいかない。フロントシートをドライビングポジションと同位置くらいにすると、ニースペースは拳1個も入らない。ただ、シートバックの膝あたりが抉り込まれた形状は、リヤシートにもそれなりに配慮していることを窺わせる。深めに腰掛けて膝がやや立つポジションで、フロントシート下に爪先を入れれば、3列シートSUVの3列目よりは良いかもしれない。
リヤシートの左右席の間には蓋付きのドリンクホルダーが用意されている。ドリンクホルダーは当然2つあり、DC12VとUSB(タイプA)の2つの電源ソケットも用意されている。DC12VとUSB(タイプA)という点にやや古さを感じさせるが、オープンクーペのリヤシートと思えば十分すぎる装備だろう。
スペースは狭くともさすがオープンカー。走っている時は狭さを感じることはなかった。この開放感はさすがオープンカー。しかも、風の巻き込みもさほどではなく、帽子をかぶって試乗したが、飛ばされるような感じはしなかった。これは帽子のタイプにもよるだろうが。
舗装の良いサーキットで100km/h上限での試乗では、リヤシートの乗り心地に全く不満は感じなかった。むしろ、囲まれ感の強いリヤシートは、フロントシートよりも安定感があったようにも思われるくらい。
ただ、これもオープン時の感想。おそらく幌を閉めたらかなり窮屈で閉塞感も強いのだろう。というのも、幌を閉めた状態で試乗する時間がなかったのだ。こればかりは画竜点睛を欠いたと言わざるをえない。
もし、今一度機会があれば、幌を閉めたリヤシートがどのようなものか確かめてみたい。
オープンエアのV8サウンドは盛り上がる
もちろん、せっかくのコンチネンタルGTCをリヤシートに座って終わりにするわけもなく、ドライビングの機会もいただいた。さりとて、路面状況の良いサーキットでの上限100km/h走行では、制限内で目一杯加速してみたり、コーナーの進入でちょっと頑張ってみたところで、クルマのポテンシャルの完全な手のひらの内。至極快適なドライブが楽しめてしまった。
現行のコンチネンタルGTはシリーズの三代目にあたり、デビューは2017年。コンバーチブルのGTCが追加されたのが2018年で、試乗車のV8ツインターボは2019年に追加されたもの。
そんな年式ゆえか、昨今の高級車に比べて加飾こそ価格に相応しい豪華さだが、インターフェースは至極オーソドックスなレイアウトになっていて、初見でも戸惑うことがなかったのは好印象だった。スイッチ類も意外と物理スイッチが多く使いやすいと感じた。
シートもさすが高級車。ポジションは細かく調整でき、メモリ機能も備えるのは当然。座り心地とホールド性も高水準でバランスされていた。
ドアが大きくシートベルトが遠くなるのが大柄なクーペの宿命だが、乗車してドアを閉めるとシートベルトホルダーが片口まで迫り出してくるギミックは便利だし面白い。壊れたり、事故の際に折れたりしないのか気になってしまうが、そこはメーカーがきちんと作っているので心配するようなことでもないのだろう。
試乗車のコンチネンタルGTC AZUREのエンジンは4.0L V型8気筒DOHCインタークーラーツインターボで、550psに770Nm(78.51kgm※)というスペックだ。前述のとおり試乗レベルではそのフルスペックを発揮することはなかったが、オープンエアで運転席に響いてくるV8サウンドはなかなかに獰猛な印象を受けた。
V8サウンドを響かせながら走るのは、なかなかに気分が盛り上がる。V8エンジン信仰があるのも頷ける。
※編集部換算値
ただ、残念ながらエンジンルームを覗いてみても昨今のクルマの定石通りカバー類に覆われており、せっかくのV8ツインターボエンジンのご尊顔を拝することはできなかった。せっかくハイスペックなエンジンを搭載しているのだからグラマラスなエキゾーストパイプでも見せる演出をしてくれてもいいのに……と思わずにはいられない。
とはいえ、「π」字型のタワーバーやその下のシルバーのカバー、「B」のエンブレム入りオイルフィラーキャップは文句なくカッコいい。こういったところでも所有欲を感じさせるのだろう。
ブラックのホイールにレッドの対向キャリパーもスポーティを通り越してレーシーな雰囲気を漂わせる。コンチネンタルGTCがただのラグジュアリークーペではないことを漂わせる演出だ。
ホイールは22インチ(フロント:9.5J/リヤ:11J)で、フロントが275/35ZR22、リヤが315/30ZR22のピレリP-ZEROを装着していた。ちなみに市場価格だと前者が6万円、後者が7万円くらいするタイヤで、4本全部交換したら工賃込みで30万円は掛かることになる(編集部調べ)。もっとも、そんなことを気にしないユーザーが乗るクルマではあるのだろうが。
一方で、フロントスポイラーやサイドスポイラーはインテリアと同じくブルーの差し色をあしらっており、ダーク系のボディカラーの良いアクセントになっている。リヤのスポイラーはカーボンで、気がつかなければ存在を見落としてしまいそうなサイズだ。
ブルーのアクセントカラーはともかく、スポイラー類を小さくまとめているのは派手になりすぎないスポーティさの演出といったところか。スポーティなクーペではあってもスポーティ<ラグジュアリーという立ち位置なのだろう。
ボディサイズは全長4880mm×全幅1965mm×全高1400mm、ホイールベース2850mm。広いサーキットを運転した限りでは気になるボディサイズではなかったし、狭めのピットロード入口でもさほど気にならなかったのは意外だった。かと言って、市街地でも大丈夫というサイズではないだろう。間違っても世田谷の住宅街とかには入り込みたくない。
重量は2370kgもあるが、そこは550ps/770Nmのパワーとトルクがあるのでまったく問題ない。あるとすれば急停止時になるだろうが、こればかりは試しようもない。
大排気量ツインターボエンジンを搭載したクーペのロマン
ここのところ、各社が多少音を上げつつあるようだが、ヨーロッパの自動車メーカー各社は電動化に邁進している。しかも、世界はまだまだSUVの真っ只中。となると、今後4.0L V8ツインターボのような大排気量・大出力の純ガソリンエンジンを搭載したクーペは生まれにくくなるのは確実。それだけに、今、乗ることができるコンチネンタルGTCは貴重なクルマと言えるだろう。
試乗前に抱いていた不安はまったくの杞憂に過ぎなかった。この貴重なクルマがまだ楽しめるうちに存分に味わいたい……ところだが、試乗車のコンチネンタルGTC AZUREは税込価格で3946万8000円。ほぼ4000万円である。郊外なら東京都内でも一戸建てが建つレベル。とてもじゃないが個人的に買える価格ではない。今回、試乗の機会を与えてくださったベントレーモーターズジャパンには改めてお礼を言いたい。