『ビジョンコペン』にダイハツの底力を見た! ドラゴン山崎が語る「ホントはもっと凄い!!」ダイハツの真の実力とは!?

みなさんは先日大盛況のうちに閉幕した『ジャパンモビリティショー2023(以下。JMS)』のダイハツブースで『ビジョンコペン』はご覧になっただろうか? 次期型コペンを占うデザインスタディということだったが、展示されたショーモデルはコペンらしい愛嬌と魅力的なスタイリングを持つ想像以上の素晴らしいものだった。軽自動車を得意とするダイハツは、世間のイメージとは裏腹に都会的な精錬されたセンスと高いデザイン力を持ったメーカーだ。ただ不憫なことに厳しい制約のある軽自動車では、その力量を思う存分振るうことは難しい。そこで筆者は考えた。次期コペンの発表を契機としてトヨタで言うところのレクサスにあたるハイブランドを同社も立ち上げてみてはどうか……と。
REPORT&PHOTO:山崎 龍(YAMAZAKI Ryu)

ダイハツの優れたセンスとデザイン力は過小評価されている?

クルマ好き以外にはあまり知られていないことかもしれないが、ダイハツは都会的な洗練と優れたセンス、高いデザイン力、そしてエンスージアスティックな情熱を内に秘めたメーカーである。ダイハツの不幸はその実力をいかんなく発揮できる環境が少ないことだ。

なんと言っても彼らの主力商品は軽自動車だ。数あるクルマのなかでももっともコモディティ化が進んだジャンルであり、もはや自動車というよりも「移動のための民具」とでも言うべき存在と言えるかもしれない。そんな軽自動車の需要は、地方あるいは郊外のベットタウンに住むユーザーとそのセカンドカーが多く、価格や実用性こそがクルマ選びの重要なポイントとなる。

ダイハツ タント カスタム
実用性と経済性を追求した軽スーパーハイトワゴンにユーザーが求める押し出し感を加えた結果、軽自動車版の”アル/ヴェル”とでも言うべ面持ちとなった現行型タントカスタム。筆者が思うに、大きく厳ついフロントマスクがアンバランスでスタイリングのまとまり感が悪く、ダイハツが本来持つ洗練やセンスの良さを感じさせるクルマではない。

そういった需要下では、斬新なコンセプトであるとか、スタイリングの美しさであるとか、運転の楽しさや走りの良さといったエモーショナルな魅力であるとかを提示されてもそれは優先順位のさらに外。ダイハツがその持てる力量を精一杯発揮して、個性的でユニークなクルマを提案してもそういったユーザーの心にはまるで刺さらず「派手」「目立つ」「へんなカタチ」と評してなかなか受け入れてはくれないのだ。

では、実用性や経済性以外のプラスαの魅力を備えたクルマを受け入れる素地がある大都市圏ではどうかと言えば、今度はブランドイメージとのミスマッチが原因となってこれまた捗々しくない。
公共交通が充実した都市部ではクルマは生活必需品どころか、むしろ趣味性の高い贅沢品と見なされがちだ。こうした地域では駐車場代が高いことから登録車が選ばれやすい上に、ファッション性や趣味性、ブランドなどの実用性や経済性以外のプライオリティがクルマに求められることが多く、デザイン性や個性、高級感を全面に打ち出した輸入車が選択肢に上がることも珍しくはない。
民具である軽自動車を主力とするダイハツにとっては大都市圏は商環境的に不利となり、そのブランドイメージも決して高いものとは言えない。

何度挫けてもめげない!諦めない! それがダイハツのクルマ作りの真骨頂

「評論家の褒めるクルマは売れない」との言葉があるが、振り返るとダイハツにはそうしたクルマが多かったように思う。軽自動車ならリーザ、ミゼット2、ネイキッド、ソニカ、エッセ。小型車ならアプローズ、ストーリア、YRVと専門家から高く評価されつつも一世代限りで消えたクルマが多いのもそのためだろう。

1987年に登場した三代目シャレードは、合理的なパッケージングと美しいスタイリングでダイハツのデザイン力を世に知らしめたモデルであった。

実際、ダイハツ車はユニークな個性や精錬されたスタイリングを備えたものよりも、没個性的で少し垢抜けないくらいのほうが市場のウケが良いようなのだ。それをダイハツも知っているのだろう。三代目シャレードはフランス車を思わせる合理性に裏付けられた精錬と洒落っ気のあるクルマ(のちにルノーが初代ルーテシアでデザインをパクったほど)だった。

三代目シャレードはダイハツが期待したほどの成功は収められなかったようで、1993年にデビューした四代目はよくあるコンパクトカーのデザインに落ち着いた。

しかし、商業的に十分な成功を得られないと見るや、四代目では至極普通のデザインになった。
さらに、とぼけた表情で愛らしかったストーリアはマイナーチェンジで見るも無残なフロントマスクにフェイスリフトされてしまった。

シャレード後継として1998年に誕生したストーリア は、個性的でユーモラスなフロントマスクに丸みを帯びなボディラインが特徴のコンパクトカー。(写真はトヨタ版の「デュエット」)

ビジネスを考えればこの判断に間違いはなかったのかもしれないが、美しく精錬されたものを改悪してしまうのは文明に対する反逆であり、クルマに対する高い見識を持つダイハツデザイナーや開発陣がやりたくてやった仕事とは思わないが、これは今でも本当に残念に思えてならないことであった。

カローラ店で販売するデュエットが本家よりも販売台数が多かったこともあり、トヨタの客層を踏まえてフェイスリフトが実施され、独特の個性が薄らいでしまった感は否めない。(写真はトヨタ版の「デュエット」)

商業的にはひと昔前のトヨタ製大衆車のようにユーザーの好みを考慮して少々保守的なスタイリング(現在のトヨタはこうした保守性を捨てて攻めに転じているが)とすれば、商売上は万事丸く収まるのかもしれない。しかし、それに甘んじるのはアーティスティックな感性を持ち、エンスージアスティックな気質のあるダイハツ開発陣の矜持が許さないのだろう。彼らは斬新かつユニークな提案をしては失敗し、その反省から次のモデルは大衆に受け入れられやすいクルマへと軌道修正するものの、それではやはり我慢できぬと再びプロダクトアウトな製品にチャレンジし、結局は鳴かず飛ばずに終わるということを幾度となく繰り返してきた印象がある。

コペンエクスプレイのDNAを引き継ぐ「オサンポ」。軽自動車規格のBEV。

もちろん、軽スーパーハイトワゴンのようにビジネスに徹した堅実なモデルで利益を出しているからできることなのだろうが、既存の軽自動車やコンパクトカーの枠にとらわれない大胆かつユニークなクルマを何度失敗してもめげることなく繰り返し提案し、小さなクルマからイノベーションを起こしてやろうという気構えを失わないことこそダイハツの真骨頂であり、この攻めの姿勢が同社の魅力の源泉となっているように筆者は思うのだ。

ライフステージに合わせてスタイルや楽しみ方を変えることができるサステナブルな軽乗用BEVの「ミーモ」。グリルやバンパー、ホイールカバーなどに樹脂製のブロックを嵌め、自分好みの外観にすることもできる。

そんなダイハツが諸々の制約から解き放たれてモーターショー向けにコンセプトカーを作れば、創造性に溢れた面白いものができるに決まっている。筆者は東京モーターショーに出品された同社のショーカーを長年ウォッチし続けてきたが、そのどれもが実現可能性という点では地に足をつけつつも、遊び心に溢れ、新しいライフスタイルやこれからの社会に必要とされる提案性に満ちた意欲作ばかりであった。

使いやすさなど働くクルマの原点を追求し、多様な働き方や用途に対応する未来の軽商用車のユニフォームトラック。同様のコンセプトで製作されたユニフォームバンも出品されていた。

そして、そのほとんどが小さなクルマにこだわりながらも美しいスタイリングや精錬されたセンス、ユニークな個性に溢れるものであり、とくに乗用モデルはいつ市販バージョンを出してもおかしくないほどの完成度。仕上げも素晴らしく、まさしく「小さな高級車」とでも言うべき佇まいのものが多かった。

スタイリングで来場者を魅了した「ビジョンコペン」

ジャパンモビリティショーと名称を変えた今回もダイハツブースには魅力に溢れ、提案性のある様々なコンセプトカーが並んでいた。そのなかでスポーツカーが好きな筆者のお目当てはビジョンコペンであった。

会場に展示されたショーモデルは、ひと目でコペンシリーズとわかるスタイリングにまとめられてはいるが、ボディサイズはNA型ロードスターくらいで、現行モデルよりもひとまわり以上大きい。駆動方式をFFからFRへと変更し、1.3Lエンジンを積む本格的なライトウェイトスポーツを想定したスタイリングで、エンジンをフロントミッドシップに搭載したロングノーズ&ショートデッキの古典的なFRスポーツカーのパッケージングで仕立てられていた。

ビジョンコペンのリアビュー。初代コペンのような前後対象のスタイリングを採用する。マフラーの排気口が備わらないことから実物大のモックアップであることがわかった。

開発担当者に話を聞いたところ、ビジョンコペンはあくまでもデザインスタディという位置付けに過ぎず、大枠としての方向性を指し示しているに過ぎないとのこと。小型車として開発するのか、それとも軽自動車枠を堅持するのか、搭載するメカニズムを含めて現時点では何も決まっていないという。

事実、その言葉を裏付けるようにショーモデルのリヤエンドにはマフラーの排気口がなかった。つまりはメカニズムを搭載しないドンガラ……実物大モックアップというわけだ。となれば、ビジョンコペンで語るべきはスタイリングしかない。そこでこのクルマを担当したデザイナーの森本凌平氏に話を聞くことにした。

ダイハツデザイナー・森本凌平氏が語るビジョンコペンのデザインとは?

まずはビジョンコペンのスタイリングコンセプトから話を聞く。
「このクルマはこれまでダイハツが続けてきたコペンを未来に繋ぐべく製作したコンセプトカーです。デザインにあたっては初代のコペンのイメージに立ち返りつつ、初代モデルの特徴である塊感のあるスタイリングと小型FRスポーツカーのパッケージングをバランスさせることに注力しました」
と森本氏。

ビジョンコペンの担当デザイナー・森本凌平氏。

実車を目にすれば彼の言葉は誰にでも理解ができるだろう。二代目となる現行型コペンセロがライトから車体中央にかけてフロントフェンダーが膨らみ、ボディサイドに斜めに走るキャラクターラインを入れることでスポーティな躍動感を表現していたのに対し、ビジョンコペンは初代をイメージさせる塊感を意識したスポーツカーには珍しい静的デザインを採用している。ビジョンコペンが初代コペンのオマージュであることは明白だ。

ダイハツブースに展示されていた初代コペン。ビジョンコペンのモチーフとなったクルマだが、ディティールを検分するとデザイン手法はかなり異なるがわかった。

ただし、ディティールを検分していくと初代のデザイン手法とは明らかに違う箇所があることにも気づく。初代コペンはフロントグリルに合わせたボンネットの開口部でフロントフェンダーを区切り、そのまま車体側面の面へと流れるスタイリングが特徴であったのに対し、ビジョンコペンは初代をモチーフにしつつも、ボンネットとグリルのラインに連続性はなく、キャラクターラインを廃したことで一層の塊感を演出している。初代とショーモデルを比較すると受ける印象はたしかに似てはいるのだが、けっして単なる焼き直しではない。

2014年にフルモデルチェンジされて二代目に以降したコペン。外装交換によりスタイルチェンジが可能になっている。「ローブ」「Xプレイ」「セロ」のスタイルが用意され、セロが先代モデルに近いモチーフで、初代とは打って変わって躍動感のあるスタイリングとなった。写真は2022年に発売されたコペン20周年記念モデル。

それを指摘すると森本氏は「より塊感を強調したかったので、プレスラインなどの余計なものを極力省きました」と述べる。続けて彼は「現行型のコペンはセロ、ローブ、Xプレイ、GR SPORTSと着せ替えコンセプトの『DRESS-FORMATION』により、ひとつのボディで4つのバリエーションを用意しなければならず、それがスタイリング上の制約にもなっていましたが、今回はひとつのボディでの展開を想定して、テーマを忠実に再現しました」と語る。

コペン・ローブ
コペン・Xプレイ

初代コペンはスポーツカーとしては珍しく前後対象の静的なスタイリングとしことで、他にはない個性と愛嬌が表現されていた。ところが、現行型ではローブやGR SPORTSにアグレッシブなマスクを与えたことで、それに引きづられて初代の特徴をもっとも色濃く残したセロが割りを食ってしまった。そうした反省もあってビジョンコペンのスタイリングは生まれたのだろう。

コペン GR SPORT

悪魔のように繊細に、天使のように大胆に!
緻密な計算に基づくビジョンコペンのスタイリング

だが、キャラクターラインを廃し、塊感を追求したスタイリングは、可愛らしさや親しみやすさが強調される代わりに緊張感やスポーティさと言ったものが損なわれる。初代コペンはスポーツカーと言っても軽自動車なので動力性能や速度性能はたかが知れている。その意味ではかわいらしさと軽快さのみに焦点を絞った初代のカタチは正解だったのかもしれない。

シンプルで視認性の高いインテリア。ドアトリムは前方に向かうにつれて色が濃くなるユニークな衣装を採用する。ショーモデルはAT仕様となっていたが、市販化に当たってはMTも当然用意されるだろう。低重心のFRレイアウトを採る割にはセンターコンソールがやや細いのが気になるところ。

しかし、ビジョンコペンは軽自動車のくびきから解き放たれた本格的なライトウェイトスポーツへと歩みを進めたことで、塊感というテーマを犠牲にせず、スポーツカーらしさを盛り込むべく、バンパー下端とロッカーパネルにプレスラインを与え、現行型の幅広なフェンダーの立ち面を薄くし、リアフェンダーは2005年に制作されたショーカーのコペンZZのように大きく貼り出したブリスターフェンダーを採用。こうしたディティールの処理によりビジョンコペンはボディラインを引き締め、単純なかわい子ちゃんルックにはしていない。

COPENの頭文字から取ったデイライト。その内側上面には角丸の意匠による長方形の小型LEDヘッドランプが備わる。フォグランプ も同様の意匠となる。

一方で軽自動車規格から外れてもコペンらしいアイデンティティを失わないような工夫も随所に見られる。例えばヘッドランプだ。近年は灯火パーツの進化により、ヘッドランプなどは薄く小さくするのが世界的なトレンドとなっている。だが、丸目ランプのおだやかなフェイスはコペンの特徴のひとつ。そこでC型のデイランプ(言わずもがなだがCOPENの頭文字から取っている)を配置した上で、上部にふたつのLEDランプを仕込んだ。そして、そのランプも”角丸”の長方形とすることで柔和さと親しみやすさ、レトロ感を表現した。

リヤのコンビランプも同様のデザイン処理としたことで、前後対象のコペンらしさを強調している。この”角丸”の意匠をフォグランプやボンネットから一段引っ込めたグリルのインテークにも繰り返し採用することで、ビジョンコペンのディティールは視覚的な統一感を与えることに成功している。

古典的FRスポーツカーらしいパッケージングはビジョンコペンに相応しいか?

ビジョンコペンのスタイリングは見れば見るほど本当に素晴らしい。クルマ好きなら誰でも思わず欲しくなってしまうだろう。

ビジョンコペンはロングノーズ&ショートデッキの古典的なFRスポーツカーのパッケージングを取る。

ただ一点気になったのは着座位置だ。これまでのコペンの駆動方式はFFであり、低重心のフォワードデザインとしたことでホイールベースの中心にドライバー&パッセンジャーを乗せていた。それに比べると、ビジョンコペンは古典的パッケージングのFR車を想定したこともあって着座位置が後輪に近くなった。これは筆者が日常的に運転しているNB型ロードスターと、現行モデルのND型を乗り比べたときにも感じたことだが、ホイールベースの中心にドライバーを座らせるパッケージングのほうが「腰のセンサー」がよく効き、ドライバーは三次元的なクルマの動きを感知して、運転操作へと素早くフィードバックさせやすい。着座位置が後輪に近いと運転感覚はGT寄りとなり、軽快な走りが魅力のライトウェイトスポーツカーとして考えると、必ずしも理想的なパッケージングとは言い難い。

新旧対決!? 最新のND「990S」 vs 2001年式NB6C! マツダ・ロードスターを乗り比べ!! 似て非なる”ライトウェイトスポーツ”のオススメはどっち?

日常的にマツダ・ロードスター1600スペシャルパッケージ(NB6C)に触れる機会が多い筆者が、ND型990Sに試乗する機会があったので比較リポートをお送りする。990SとNB6Cはどちらも素晴らしいライトウェイトスポーツカーだが、その個性は似て非なるもの。乗り比べた結論やいかに?

そのことを森本氏に指摘すると「ビジョンコペンはスタディモデルですので、パッケージングを含めて開発作業はこれからです。市販化に当たっては着座位置などの運転環境は変更される可能性があります」とのこと。
フロンドミッドシップと着座位置の前進は二律背反となるが、双方を最適化させたスポーツカーとしては、NA~NC型のロードスターという良い手本もあるので、この辺りは一考の価値ありと筆者は思うのだ。

ビジョンコペンから始めてはいかが? ダイハツのハイブランド戦略

ビジョンコペンはデザインスタディでありながらもライトウェイトスポーツカーとしての魅力に溢れ、「小さな高級車」としての風格さえも漂う。今から次期コペンの市販化が本当に待ち遠しい。しかしながら、冒頭でも述べた理由から次のコペンをダイハツブランドでリリースすることが、同社にとって本当に良いことなのか少々疑問に感じる。

クラシックなデザインの大径ホイールにタイヤはブリヂストン・ポテンザを履く。

ダイハツは庶民的で親しみやすい得難いブランドではあるが、せっかくなら次期コペンの発売を契機として、同社のデザイナーや開発陣が実力を思う存分発揮できるようなハイブランドを立ち上げても良いのではないかと考えた。さしずめトヨタに対するレクサスのように、だ。
たしかにダイハツが得意とするジャンルでの高級車……いわゆる「小さな高級車」は歴史を振り返ってみても極めて成功例が少ない。数少ない成功作と言えば、1960年代に登場したADO16ヴァンデン・プラ・プリンセスくらいなものだろう。

歴史を見ても「小さな高級車」の成功例は少ない。1960年代に登場したADO16ヴァンデン・プラ・プリンセスは数少ないこのジャンルのヒット作で、ハイドラステックサスペンションを使ったコンフォータブルな乗り心地と、ウッドとレザーを多用した高級感あふれる内装により「ベビーロールス」の愛称を持つ。

だが、省エネや環境規制がますます厳しくなるなかで、動力に何を用いるかはともかく、大きく膨らみ続けたクルマのサイズは、近い将来、社会的な要請によりシュリンクが求められる日が必ず来るだろう。また、これから本格的な高齢化社会が到来することを考えれば、レクサスやクラウンなどに乗っていた人の受け皿となる運転しやすく、安全性に優れ、所有してステータスや満足感を得られる上質なコンパクトカーがそろそろ国内メーカーから登場しても良い頃合いだと思う。

ダイハツがハイブランドを立ち上げ、機能的に何ら我慢を強いられることがなく、コンフォータブルで、誇りを持って乗れるコンパクトカーをリリースすれば、商圏を上の方に広げることができるし、これまで同社が潜在的に抱えていたデザイン&開発能力と過小評価されるブランドイメージというミスマッチを解消できるのではないだろうか?

一社内デザイナーとしては答えにくい質問であることは承知の上で、冒頭で述べたことを踏まえてハイブランド展開の可能性を森本氏に問うてみた。「燃費と実用性、販売価格くらいしか興味を持たないユーザーを相手にするビジネスを続けることはダイハツにとって果たして正義だろうか。御社はせっかく優れたデザインとユニークな個性、開発能力を持ち合わせているのだから、コペンのような指名買いされるラインアップをもっと増やしても良いと思う。そのためには従来までのダイハツイメージを一新するハイブランドを立ち上げ、商圏を上に広げてはいかがだろうか?」と。すると彼は組織人らしく言葉を慎重に選びながら「お話に共感できる部分があります」と返してくれた。

トヨタとレクサス、日産とインフィニティ、ホンダとアキュラ、ヒョンデとジェネシス……大衆車として出発したメーカーも今や各社がハイブランドを持つ時代。しかし、ブランド構築は1日で成らず。レクサスも当初はトヨタのバッジエンジニアリング的な見方もされて苦労してきたが、着実にイメージを高め高級車ブランドとして定着した。

もちろん、言うは易しでハイブランドの立ち上げには、販売網の整備やブランディング戦略、グループ内での立ち位置などの難問がいくつもあるし、成功するためには経営上の緻密な計算が必要になるだろう。仮にダイハツがハイブランドを立ち上げたとしても、ユーザーがそれを認知し、定評が得られるようになるにはかなりの時間が必要となる。トヨタの高級ブランド・レクサスだって日本やアメリカではそれなりの地位を確立しているが、歴史と伝統のあるメーカーが林立しているヨーロッパではまだまだといった評価もある。

国内市場だけを考えるのなら、いちばん手っ取り早くダイハツにとってリスクが少ない方法は、開発した「小さな高級車」をヨーロッパを除く地域で評価が定まっているレクサスブランドにOEM供給することなのだろう。だが、かつては「三河モンロー主義」と揶揄されたほどの誇り高い自尊心を持つトヨタが、自社生産したクルマ以外に手塩にかけたレクサスブランドのエンブレムを付けることを許すとは思えない。

BMWは経営破綻したローバーからブランドを買収し、参入を狙っていた小型車市場に「ミニ」ブランドで進出。果たせるかな世界的な成功を収め、結果的にBMWの戦略が正しいことを証明した。

しかし、新たに立ち上げるハイブランドの名称は何もオリジナリティにこだわる必要はない。時間と労力、掛かるコストを軽減させるのには、20年ほど前に欧州各社がやった他ブランドの買収という手法が有効だと筆者は考える。クルマの歴史が浅い日本はともかくとして、世界を見渡せば歴史と伝統を持つ休眠ブランドがいくらでもある。

20世紀初頭から1980年代前半にかけて存在したトライアンフは、世界的に人気のスポーツカー&スポーツセダンブランドであった。現在ブランドはBMWが所有する。写真は同社のスピットファイア。

そのメリットは短期間で世に広く認知されたブランド力を入手できること。しかも、買収先のブランド名を利用することはそのブランドの歴史や資産を活用でき、過去の名車のリバイバルというカタチでニューモデルをリリースすれば、モチーフとなったクルマのキャラクターやブランドの持つヒストリーに裏付けられた説得力を製品に与えることができる。

1938年までは独立ブランド、その後ナッフィールドによる買収を経て、1969年まではブリティッシュ・レイランド傘下にあったライレー。高性能な小型・中型車を得意としたメーカーだった。現在ブランドはBMWが所有する。写真は同社のRMA。

軽やコンパクトカーを得意とするダイハツならば、スポーティで上質な小型車を数多く生産していたイギリスの休眠ブランドを買収するのがちょうど良いかもしれない。例えば、トライアンフやライレー(ともに現在BMWがブランド保有)、ウーズレーやオースチン・ヒーレー(ともに現在は上海汽車が保有)などが適当だろう。

1887年の創業以来、さまざまな企業からの買収劇を経て最終的にブリティッシュ・レイランド傘下に収まったウーズレーは、かつてはイギリス最大の自動車メーカーであったと言う歴史を持つ高級車メーカー。最終的には1974年にブランドは消滅。現在は上海汽車がブランドを保有する。写真は同社のウーズレー・ホーネット。
オースチン・ヒーレーは1952年にBMCオースチン部門のレオナード・ロードと、カーデザイナーのドナルド・ヒーリーによって誕生したスポーツカーブランドだが、1972年にブランドは消滅。現在は上海汽車がブランドを保有する。写真は同社の100M BN2。

創業者の氏素性が胡散臭く怪しいきらいがあるし、ラインアップがスポーツカーと超高級車に偏りはあるが、かつてダイハツがコラボモデルをリリースしたイタリアのデ・トマソなども面白いかもしれない。
他社が権利を保有するブランドをすんなり購入できるとは限らないが、自社で活用しないまま半ば放置したままであることを考えると交渉の余地はあるのではないか。

デ・トマソとコラボしたシャレード・デ・トマソ・ターボが登場したのが1983年。
1993年には再びシャレードにデ・トマソとのコラボモデルが追加された。

デザインスタディであるビジョンコペンがこれほどまでに魅力的ならば、きっと次期型コペンも相当に魅力的なクルマとなることだろう。だが、三世代をかけてコペンが築いてきた「上質なダイハツ車」というジャンルをこれ1車種で終わらせてしまうのは何とももったいない。

PHOTO:井上 誠

叶うならば、次期型コペンのデビューをきっかけにダイハツ はハイブランドを立ち上げ、それに続く「小さな高級車」をラインアップして欲しい。既存のダイハツ車とは異なるラインで、中・大型車から乗り換えても満足できるクーペやサルーン、SUVなどもぜひ見てみたい。そのためにはやはりダイハツこそハイブランド戦略が必要なのだ。その第一弾とするのに次期型コペンこそふさわしいと考えるのだが如何だろうか?

PHOTO:井上 誠

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著者プロフィール

山崎 龍 近影

山崎 龍

フリーライター。1973年東京生まれ。自動車雑誌編集者を経てフリーに。クルマやバイクが一応の専門だが、…