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『NISMO 270R』とは?
1994年、NISMO(ニスモ)創立10周年記念車として、日産シルビア(S14)をベースにニスモ初のコンプリートカーとして30台限定で販売したモデルでこの車両の最高出力270PSであることから、『NISMO 270R』と名付けられた。
当時は改造に対する規制が厳しく、エンジンやサスペンションに手を加えて改造し、新車でナンバー登録するのは容易なことではなかった。多数の改造申請書類と検査を通過して販売されたこの車両は、軽量なFRシャシーに当時は自主規制とされた280PSに迫る270PSのハイパワーで加速時にはタイヤの限界を超え、後輪が路面を掻きむしる様な荒々しさからまるで野獣を手なずけるようにドライバーがマシンをコントロールする楽しみがあった。
『NISMO 270R』は専用ニスモパーツを各部に採用。フロントバンパースポイラー、大型サイドステップ、大型ウイングタイプのリヤスポイラー 、リヤアンダースポイラー、大径マフラー、『270R』の大きなロゴが目を引くシルバーストライブが鮮烈だ。
エンジンはタービンこそノーマルのままだが、NISMO専用カムシャフトや270R専用コンピューターチューニングなどが施されている。大型ボンネットアウトレット、ラジエター前面にはカルソニック製大型インタークーラーを装着する。
サスペンションはフロント5段、リヤ4段の減衰力調整式ダンパーを採用し、車高は約10mmローダウン。走りのステージに合わせて調整可能だった。
加えて機械式LSD、強化ドライブシャフト、専用アルミホイールを装着。ニスモパーツの他、スカイラインGT-R(R32)のフロント4pot/リヤ2potのアルミ製対向ブレーキキャリパーキットが流用装着されるなど、ニスモのレーシングテクノロジーが惜しみなく投入され、エンジン内部や冷却系、駆動系まで手が入れられていた。
購入から新車ワンオーナー! その魅力は30年を経ても色褪せることなし
この美しい『NISMO 270R』はオーナーの金澤さんが1994年に購入して以来、ワンオーナーで3万km走行、屋内保管されてきた大変貴重な車両だ。「格好いいデザインと徹底されたチューニングスペック、ニスモ初の記念すべきコンプリートモデルであるということで、これは買うしかない!と思いました。しかしあの当時で車両価格450万円、乗り出し500万円くらいでしたので、購入を決断するには度胸がいりましたね。でも本当に買ってよかったです。乗るたびに楽しく、幸せになれるクルマです。今回、このミーティングがイベント初参加ですが、これからも機会があれば参加してみたい。」と語ってくれた。もしかすると、どこかでこの『NISMO 270R』を見ることができるかもしれない。
最後に車検証を見せていただいたが型式は『E-S14改』、車両重量1240kg=フロント690kg/リヤ550kgだった。軽量で重量配分に優れた素晴らしいスペックだ。これに270PSなら、加速時はノーマルのR32 GT-Rを上回る迫力だろう。
1994年から、30年近く経った今、手作り工程を含む『NISMO 270R』から、『作り手の情熱』がひしひしと伝わってくる。自動化、デジタル化、EV化、そして大量生産による効率化、どれも便利で効率良いものばかりだが、アナログな内燃機関のマニュアル車には自分でクルマを操る楽しみがある。この魅力はいつの時代も普遍的だ。ユーザーが少数であっても必ずファンがいる魅力的な車をニスモとオーテックジャパンのように少量生産の高い技術力によってこれからの時代にもこういったクルマが生まれて来て欲しい。
『NISMO 270R』はニスモスタッフの愛に溢れた素敵なクルマだった。筆者はこのクルマを間近で見て、オーナーのお話を聞いて、本当に幸せな気持ちになった。