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キミは大ヒット上映中の『ガールズ&パンツァー 最終章』第4話を見たか?
現在、劇場上映中の『ガールズ&パンツァー 最終章』第4話をみなさんはもうご覧になっただろうか?
『ガールズ&パンツァー』(以下、ガルパン)と言えば、2012年10月からオンエアされた全12話からなるTVアニメで、深夜枠にも関わらずアニメファンの間で爆発的ヒットとなり、2014年7月にOVA『これが本当のアンツィオ戦です!』、2015年11月にはTVシリーズの続きとなる『ガールズ&パンツァー 劇場版』が制作された。
この作品はメディアミックスも盛んで、マンガや小説、ゲームなども展開されている。さらに、作品の舞台となった地域を盛り上げるアニメツーリズムの成功例としても有名だ。
そして、2017年12月から始まったのがシリーズ最新作となる『最終章』だ。全6話構成となる本シリーズは、第1話が2017年12月に上映され、第2話が2019年6月、第3話が2021年3月が上映された。そして2023年10月6日から、ファン待望の第4話が上映を開始。期待以上の面白さで、ファンとしては待たされた甲斐があったというもの。スポ根の王道を貫きながらも緻密かつリアリティ溢れるメカアクション、愛らしくも魅力的なキャラクター、そして、そんな彼女たちの成長譚など見どころが多い。
そもそも『ガルパン』とはどんな物語なのか?
そんな『ガルパン』だが、未見の読者のためにここで『最終章』に至るまでの簡単なあらすじを紹介しておこう。
・TVシリーズ
物語の舞台となるのは「学園艦」と呼ばれる巨大な船の上に学校があり、華道や茶道と並び戦車を駆使した武芸「戦車道」が乙女の嗜みとされ、学校対抗の全国大会が開催されている世界。
主人公の西住みほは、戦車道の有名な流派「西住流」家元の次女でありながら戦車道から逃げるため、強豪校の「黒森峰女学園」から戦車道が行われていない「大洗女子学園」へと転校して来たことから物語は始まる。彼女の思いとは裏腹に転校先でも過去に行われていた戦車道が復活することになる。ライバル校との試合で勝ち進むなか、文科省の計画する統廃合の煽りを受け、優勝して成果をあげなければ大洗女子学園が廃校になることを知る戦車道チーム。初心者ばかりのチームを率いて見事に全国大会優勝の栄冠を勝ち取り、その過程の中であらためて戦車道と向き合ったみほは仲間との友情を育み、自分の道を見つける。
・劇場版
全国大会優勝で廃校の危機を脱したかに見えた大洗女子学園であったが、文科省の役人からは「優勝すれば廃校を免れる」とはあくまでも口約束であると廃校を告げられ、学園艦からの退去を余儀なくされる。 生徒会長の角谷 杏は日本戦車道連盟や西住流家元の協力を仰ぎ、役人からは大学選抜チームに勝利すれば今度こそ廃校を撤回するという確約を得る。戦車を8輌しか保有しない大洗女子学園には圧倒的に不利な条件だった。この窮状を見かねた全国大会で戦ったライバルたちは、大洗女子学園への短期転校という形で救援に駆けつける。強力な援軍を得たみほたちは学園の存続をかけた試合に挑み、勝利を勝ち取る。
・最終章
学園存続が決定した大洗女子学園では3年生の卒業を間近に控えて生徒会役員が入れ変わり、新たにあんこうチームの五十鈴 華らが生徒会役員に就いた。しかし、そこで思いがけず降って湧いたのが前生徒会広報の河嶋 桃の学業不振による進学問題。みほら戦車道チームは、戦車道の実績によるAO入試での大学合格の可能性に賭け、河嶋を隊長として20年ぶりに開催される冬季無限軌道杯に参加することを決意する。
あらたに船舶科のサメさんチームを仲間に加えた大洗女子学園は、第1回戦のBC自由学園、第2回戦の知波単学園を打ち破る。そして迎えた準決勝。対戦相手は継続高校だ。だが、試合開始直後に司令塔であるあんこうチームのIV号戦車が長距離からの砲撃で撃破されてしまう……。
余談ではあるが、何を隠そう筆者は『ガルパン』の副読本にも原稿を寄稿している。2017年11月に刊行された『不肖・秋山優花里の戦車映画講座』 (廣済堂ベストムック)は戦車が活躍する映画やドラマなど、総数100作品以上を「ガルパン」の登場人物で戦車好きのキャラクター・秋山優花里が一挙紹介するというもの。こちらもお近くの書店で手にとっていただけると幸いである。
継続高校のモチーフとなった北欧の小国・フィンランドの激闘の歴史
第4話で大洗女子学園と対決する継続高校は、本拠地は石川県、学園艦の母港は金沢港に置く高校との設定。学校としての規模は小さく、資金難に喘いでいるが戦車道は盛んに行われている。モチーフとなったのは北欧の小国・フィンランドだ。
近現代史に詳しい方なら継続高校という校名を聞いてピンと来るものがあるだろう。ドイツ軍によるポーランド進攻(1939年9月1日)で始まった第二次世界大戦の勃発から3ヶ月後の11月30日、ソ連はフィンランドに対して一方的に軍事侵略を仕掛けた。その軍勢は歩兵100万人、戦車6541台、航空機3800機にも及んだ。対するフィンランドの兵力はソ連の1/4以下。戦車に関しては旧式のルノーFT-17をわずか34輌保有するにとどまった。
圧倒的な戦力差からソ連の独裁者スターリンは早々にフィンランドが降伏するものと考えていた。だが、マンネルヘイム将軍率いるフィンランド軍は、地の利を生かした防御戦術もあって善戦し、ソ連軍に対して大打撃を与えることに成功する。このときフィンランド軍はソ連から多数の戦車を奪い、装甲戦力はむしろ開戦後に充実したほどであった。
だが、フィンランド軍の消耗も激しく、モスクワ講和条約によって1940年3月6日に両軍は停戦を結んだが、フィンランドは産業の中心地だったカレリアを含む国土の10%の割譲を余儀なくされた。この戦争は第一次ソ芬(ソビエト-フィンランド)戦争、もしくは「冬戦争」とのちに呼ばれることになる。
冬戦争後にソ連への対抗上、ドイツとの関係を強化したフィンランドは、独ソ戦開戦から3日後の1941年6月25日、奪われた領土回復を目指してソ連に宣戦布告する。第ニ次ソ芬戦争、あるいは「継続戦争」と呼ばれる戦いの始まりである。
同年7月に宿願だったカレリア奪還に成功。その後はドイツ軍が東進したためソ連との激しい戦いはしばらくなかったものの、スターリングラードやクルスクの戦いでドイツ軍が敗北し、1944年1月のレニングラードでソ連がドイツ軍の包囲を打ち破ると、ソ連軍は再びフィンランド国境へと迫ってきた。圧倒的な物量で迫るソ連軍に対し、ドイツ軍とともに防戦に努めるフィンランド軍。だが、ソ連軍はクーテルセルカにおけるフィンランド軍の反撃を一蹴して防衛ライン「VT線」を突破し、戦線の崩壊は時間の問題となった。
さらに1944年6月には連合軍のノルマンディー上陸作戦が成功し、ドイツの敗色は濃厚となった。それと時を同じくしてにソ連軍は東部戦線で大規模な反抗作戦「バグラチオン」を発動し、これを受けてフィンランド軍は後退戦を余儀なくされる。同年7月にソ連の機先を制して総攻撃を準備中だったソ連軍部隊を壊滅させたフィンランドは、この機を逃さずソ連に対して単独講和を申し入れる。ドイツ軍との最終決戦を前にしてソ連も態度を軟化し、国境線を冬戦争締結時で確定させ、ドイツ軍をフィンランド領から排除することを条件としてモスクワ休戦条約が結ばれた。
戦後は共産化は免れたフィンランドであったが、長きに渡ってソ連に対して融和的な中立を余儀なくされる。
画期的な戦車用懸架装置・クリスティー式サスペンションとは?
こうした歴史的経緯をも彷彿とさせる継続高校は、T-26やT-34などの旧ソ連製戦車のほか、ドイツやフランスの戦車、フィンランドが独自開発(正確に言えば旧ソ連製戦車を改造)したBT-42を保有している。第4話に登場するKV-1は、ロシアをモデルとするプラウダ高校との親善試合に勝利した際に譲渡されたという設定が盛り込まれているのも、ミリタリーファンなら思わずニヤリとするところだ。
そんな継続高校の隊長車・BT-42と言えば、『劇場版』では乗員のミカ、アキ、ミッコの息の合った連携もあって、その快速を生かし、カール自走臼砲を守備する大学選抜チームのM26パーシング重戦車3輌を相手取り、最終的には相打ちに終わるものの全車撃破に成功している。
BT-42はフィンランドがソ連軍より鹵獲したBT-7快速戦車をベースに、独自開発の大型砲塔にイギリス製のQF4.5インチ榴弾砲を載せた改造戦車、もとい自走砲だ。旧式戦車と砲を組み合わせた再利用的な意味合いの強い同車であるが、砲の発射速度にこそ問題はあれど、その走行性能はオリジナルのBT-7譲りで、大戦中の装軌車両の中でも快速を誇った。
ミッコの「天下のクリスティー式、舐めんなよーっ!」とのセリフの通り、この自走砲には大型の転輪のひとつひとつに車体側面に二重構造で収納したコイルスプリングを用いて独立懸架させたクリスティー式サスペンションを採用している。
それまで主流だったボギー式サスペンションに比べて、クリスティー式サスペンションはストロークが大きく取れることから悪路機動性が高く、懸架装置を車体に内蔵していることから被弾による損傷に強いことがメリットであった。
しかも、BT-2やBT-5、BT-7(同車をベースとしたBT-42も)は、同じクリスティー式サスペンションを採用するT-34とは異なり、最後部の接地転輪と起動輪がチェーンで接続されて駆動することから、履帯(キャタピラ)を外して車輪での走行も可能としている点が他の戦車と大きく異なっている。その結果、履帯走行での最高速度は53km/hであるのに対し、車輪走行の路上最高速度は73km/hにも達したのだ。
『劇場版』では履帯が破壊されると、ドライバーのミッコは操縦レバーからハンドルへと操舵を付け替え、転輪での高速走行により大学選抜チームを驚愕させた。もちろん、BT-42の活躍はミッコの卓越したドライビングテクニックによるものだが、それもBT-42のユニークな設計とクリスティー式サスペンションがあってのことだろう。
さらに、上映中の『最終章』第4話でもBT-42はその特異な設計を生かして、履帯を半分外した状態で活躍を見せている。
クリスティー式サスペンションの発明者は稀代のエンジニア
そんな画期的な戦車用懸架装置・クリスティー式サスペンションを発明したのが、アメリカの自動車技術者ジョン・W・クリスティーである。だが、彼のことは『ガルパン』ファンやミリタリーファンの間ではつとに有名ではあるものの、カーマニアからはその名をほとんど知られていない。
1865年生まれの彼は鉄工所勤務を経て蒸気船エンジンニアを経て潜水艦の研究に携わった後、1900年代初頭に前輪駆動車に可能性を感じてフロント・ドライブ・モーター社を設立。世界初のFWDレーシングカーを開発して、アメリカのモータースポーツに参戦している。次回はそんなクリスティー技師の知られざる人生とその功績ついて解説して行くことにしよう。