目次
トライトンの四駆システムはパジェロ譲りの「スーパーセレクト4WD-II」
2023年7月に生産国となるタイでワールドプレミア、2024年3月からは久しぶりに日本での正規販売がはじまった三菱トライトンを、オフロードコースとワインディングという2つのステージで試乗する機会を得た。
あらためて整理すれば三菱トライトンというのは1ナンバーのピックアップトラック、つまり商用車だ。日本向けの仕様は、2.5Lディーゼルターボと「スーパーセレクト4WD-II」のパワートレインで、ボディは5人乗りのダブルキャブとなる。トラックとしての最大積載量は500㎏、車両総重量は2855~2915㎏となるので、1ナンバーといっても現行の普通免許で運転できるのもポイントだ。
初試乗で驚いたのは新型トライトンの走りっぷりにピックアップトラックを意識する瞬間が皆無だったこと。キャビンは非常に静かだし、4気筒ディーゼルの振動は気にならない。大小のターボチャージャーを組み合わせた2ステージ過給のおかげでアクセルの踏み始めからトルクを感じることができるのは、三菱の電動クロスオーバーSUVにも通じるテイストといえるほど。
そもそも世界的にはピックアップトラックをパーソナルユースのSUV的モデルとして捉えている市場は少なくない。1978年に誕生した初代トライトン以来、そうしたユーザーに支えられ、累計560万台以上も売れているというのだから、乗用車的な世界観を感じるのは至極当たり前ともいえる。
前述したように新型トライトンは全車が4WDとなっている。FRと4WDを切り替えるパートタイム4WDであり、副変速機を持つことで4WDのローギヤードモードも選ぶことができるといったメカニズムを採用する。こう書くと、ハードコアな雰囲気もあるが、実際の操作性は非常に洗練されたものだ。なにしろ2WDから4WDへ駆動を切り替えるにはダイヤルをひねるだけでOKなのだ。
さらにダイヤルを押し込みながらひねることで、センターデフをロックして直結状態にした4WDモードに切り替えることができる。このシステムには「スーパーセレクト4WD-II」という名前が与えられている。「スーパーセレクト4WD」といえば、かつてクロカン4WDの代名詞とされたパジェロが搭載していたシステムとして馴染み深いが、たしかにパジェロのそれを進化させた良好な操作性を実現している。
駆動方式を切り替えるダイヤルの前にある「DRIVE MODE」ボタンを押すと、ノーマル/エコ/グラベル/スノー/マッド/サンド/ロックといったドライブモードを選択できる。ただし2WD・4WD・4WDセンターデフロック・4WDセンターデフロック&ローギヤと4つの駆動モードすべてで選ぶことができるのはノーマルだけ。それ以外は以下のようなコンビネーションに限定されている。
エコ:2WD
グラベル:4WD
スノー:4WD
マッド:4WDセンターデフロック
サンド:4WDセンターデフロック
ロック:4WDセンターデフロック&ローギヤ
加えて、ブレーキLSD機能やリヤデフロック機構を備えるなど、クロカン性能を期待するユーザーを満足させる内容となっている。
ランエボにルーツを持つ「S-AWC」と呼ばれないわけは?
乗用テイストといっても、メカニズムとしてはラダーフレームで、リヤサスペンションはリーフスプリングというピックアップトラックのそれ。しかしながら、舗装路試乗で驚いたのは、コーナリングまでも乗用テイストだったことだ。電動パワーステアリングのフィーリングが滑らかなのもあるが、とにかくニュートラルな感覚で向きが変わっていく。それはリヤ駆動のみとなる2WDモードを選んだときだけでなく、4WDのグラベルモードを選んだ場合でも乗用テイスト満載なのだ。
ここでのポイントは2つある。
ひとつは4WDメカニズムにおいてトルクセンシング型センターデフを用いていること。いわゆるトルセンLSDを採用しているのだ。そのセッティングの成果によりフルタイム4WDであってもセンターデフのロック率を高めたような印象がある。駆動力を利用しつつ、4輪で曲がっていく感覚が味わえるのだ。
もうひとつのポイントが「AYC(アクティブヨーコントロール)」を採用していることだ。かつてランサーエボリューションにおいて”駆動力で曲がる”を具現化する技術として話題を集めたAYCは、新型トライトンに初搭載されている。トライトンの場合は、フロントのブレーキを利用したヨーコントロールとなっているが、その介入は自然かつ的確。グラベルモードではAYCの効きが鋭くなっていることもあり、よりハンドリング重視な走りが楽しめるのはうれしい。
ランサーエボリューションから始まり、アウトランダーPHEVなどにも搭載されている、三菱ご自慢の四輪制御技術「S-AWC」と呼んでも違和感がないくらい三菱らしい「曲がる4WD」に仕上がっている。もっとも、三菱によると『S-AWCは、4WDであること、ヨーコントロールをしていること、前後の駆動力制御をしていること』と定義されている。トライトンは4WDであり、AYCも搭載しているが、前後の駆動力配分については行っていない。そのため”惜しくも”S-AWCと分類することはできないのだという。
舗装路はもちろん、オフロードでの走りも気持ちいい!次期パジェロへの期待が高まる!
オフロードコースでは、センターデフロックの4WDで楽しむことにした。
インカーの写真でもわかるだろうが、雨でヌタヌタになったオフロードに標準装着されているオールテレーンタイヤで立ち向かおうというのだから、ひと昔前のクロカン性能ではスタックやむなしと予想できるコンディションだったが、スーパーセレクト4WD-IIのおかげで、林道レベルであればノーマルモードでもらくらくと走り抜けることができる。
タイヤが浮いてしまうようなモーグルセクションで心もとなさを感じたときはノーマルからマッドモードへ切り替えれば、これまた難なくクリアしてしまう。意地悪な気持ちになった対角線でタイヤが浮くようなシチュエーションにするとさすがに動けなくなったが、そのときはリヤデフロックのスイッチを押すことで確実に前に進むのを確認。
さらに雨に濡れて滑りやすくなったロックセクション(岩場)にもチャレンジすることに。さすがに、このシチュエーションでは4WDセンターデフロック&マッドモードでも前に進むことができない。そこで4WDセンターデフロックのままローギアードへ切り替え、ドライブモードはロックをチョイス。そうすると、クルマ任せでアクセルを踏み込んでいくだけで、軽々と難所を通り抜けることができた。
「スーパーセレクト4WD」という響きから、かつてのパジェロと同等のシステムや走破性を想像してしまうかもしれないが、トライトンの「スーパーセレクト4WD-II」は確実に時代進化を遂げている。まさに三菱らしい電子制御の凄みを感じさせられた。
まとめると、新型トライトンの走りは、市街地での静粛性、舗装のワインディングにおけるスポーティさ、そしてオフロードでの本領発揮ぶりといい、数多の乗用クロスカントリービークルに期待する以上の実力があった。トライトンのアーキテクチャーを利用したパジェロが出てきたとしても、なんら不満を感じることはないだろう。
三菱トライトン 画像ギャラリー&主要諸元
トライトンGSR 全長×全幅×全高:5360mm×1930mm×1815mm ホイールベース:3130mm 車両重量:2140kg 排気量:2439cc エンジン:直列4気筒DOHCディーゼルターボ 最高出力:204PS(150kW)/3500rpm 最大トルク:470Nm/1500-2750rpm 駆動方式:4WD トランスミッション:6速AT WLTCモード燃費:11.3km/L 最小回転半径:6.2m タイヤサイズ:265/60R18 乗車定員:5名 メーカー希望小売価格:540万1000円