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タッチパネルの多機能性より1スイッチ1機能の物理スイッチが至高!
ポジションを合わせてWRX S4のスイッチだらけのハンドルを握り、インパネを見ると、中央部にドーンとそびえているのが11.6インチもの巨大なセンターインフォメーションディスプレイである。デカい。デカいね。以上。……大変に申し訳ないことに、積極的に触ってみたいとは思えない。
何しろ、いまだに紙の雑誌を開き紙の新聞を眺め紙で尻を拭きながら「車はやっぱりMTだよ」などと宣う時代錯誤偏屈原始人の戯れ言だから一切気にしないでほしいのだが、やはりスイッチ類は物理的に実在するに限る。
「カチッ」とか「ポチッ」とか、バーチャルではない現実的かつ身体的な手応えがほしい。走ることに集中したい車にあって、ブラインドで探ることができない平面のタッチパネルは受け入れにくいものがある。
メーカーの言い分としては「運転中に触るものじゃありませんよ」ということだろう。事実、WRX S4の取扱説明書P113には、警告として「走行中に操作したり、画面を注視したりしない。─ハンドル操作を誤るなど思わぬ事故につながるおそれがあります。停車してから操作をしてください」と書かれている。
「そんなご無体な……」と思いつつ、実際問題として前を見て運転しながら指先でタップだのフリックだのドラッグだのピンチだのといった操作は、できるものじゃない。センターインフォメーションディスプレイの多彩な機能を本気で使いこなそうと思ったら、WRX S4は数ヶ月ほど実走行できないのではないかと思う。
ハザードスイッチやボリューム、エアコンの温度設定などは、物理的スイッチが設けられている。逆に言えば、取扱説明書に真摯に従うなら、それら以外の操作は停車してから行わなければならないことになる。
このあたりはもしかしたら「まぁ、ほら、ね? 察してくださいよダンナ」的な暗黙の了解というか、触れてはいけないグレーゾーンなのかもしれない。何か公に書いてはいけない抜け道があるのかもしれない。しかし、僕は運転以外にほとんど興味が持てない時代錯誤偏屈原始人なので、ドライビングフィールに影響しない装備はあってもなくてもどっちでもいい。
ただもし、この巨大なディスプレイの代わりに(ホンモノの)トグルスイッチがズラリと並んでいたら、狂喜乱舞しながらパチパチパチパチ操作しただろうな、とは思う。ランボルギーニ・ガヤルドやウラカンのトグルスイッチなどは最高だ。万一所有した日には、「なにこれ〜、バカみてぇ〜」とかゲラゲラ笑いながら、パチパチやりまくるはずだ。
実際、トグルスイッチはバカ向けだ。物理的スイッチは、基本的に1スイッチ1機能。タッチパネルのように同じ位置に別の機能が割り当てられることがないので、僕のような単細胞でもすぐに覚えられる。しかもトグルスイッチはスイッチレバーそのものの位置が設定に合わせて変化するので、今の状態がめちゃくちゃ分かりやすい。単純明快である。
そう、センターインフォーメーションディスプレイは見た目こそただの平板だが、機能はかなり複雑怪奇なのだ。あの真っ黒い平板に触りたいと思えなかったのは、使う側が知性を求められるからである。システム上、メニュー階層はどうしても多層的に深くなり、アッチを押したりコッチをさすったりソッチを撫でたりと、覚えなければならないことが多すぎる。
時代錯誤偏屈原始人は、極めて保守的でもある。触らぬ神に祟りなし、とばかりに、ほぼ丸1日のWRX S4試乗中、センターインフォメーションディスプレイにはほとんど触らなかった。映画「2001年宇宙の旅」では、黒い石板モノリスに触れた猿人がヒトへと進化したことを思い出す。センターインフォメーションディスプレイに触れない僕は、猿人級ということだ。
その他、WRX S4には優れた快適装備や便利機能が盛りだくさん……らしいのだが、いや本当に申し訳ない、ほとんど興味が持てなかったし、興味が持てないことを悪びれていない自分がいた。そりゃあ時代遅れの猿人にもなるわけである。
スバル車の見切りの良さはクルマが大きくなっても不変!
レカロシートに着座して気に入ったのは、センターインフォメーションディスプレイよりも、見切りのよさだった。これは非常にイイ。車を走らせるうえで車両感覚がスッと目から入ってくるのは、実感を重視する猿人にとっては非常に重要だ。
WRX S4は、かなりでかい。僕が普段愛用しているサンバーTV1に比べると、車幅は350mmすなわち35cmも広く、全長に至っては1275mmつまり1m27cm5mmも長いのだ。
車のサイズとしてはあり得ないほどの差だが、サンバーで通るような細道でもまったく不安にならなかった。見切りのよさはスバルが長年こだわり続けているポイントで、「さすがだ……」と保守的時代錯誤偏屈単細胞猿人も大満足である。
「自分の目で見えること」といった五感体感実感を大切にするのが、保守的時代錯誤偏屈単細胞猿人の特徴だ。バックモニターのような便利安全装備すら、もうひとつ体に馴染まない。もちろん参考にはするが、まだバックミラー、ドアミラーの方がいいし、最終的には首を巡らせて目視してしまう。逆に、見切りの悪い車に乗った時の閉塞感と言ったらない。
その点、WRX S4は座った時点で不安感がなく、正直なところ一刻も早く走り出したい気分だった。記事としての体裁を整えるために、やむを得ず車内装備についてあれこれと触れてみたが、ドスンと座ってハンドル握ってパッと前を見て「あ、走ってみたい」と思えた、ということの方が、よほど大事なことである。
車は、走るものだ。止まってピンチしたりフリックしたりするものじゃない。そういう意味では、なんだかんだ言いながらとりあえず「走ってみたい」と思わせてくれたWRX S4は、誠に僭越ながら僕的な当確ラインはクリアしていることになる。ホント、保守的時代錯誤偏屈単細胞猿人のくせに僭越でしかないが……。
ブレーキペダルを踏み、プッシュエンジンスイッチを押す。セレクトレバーをドライブに入れ、電動パーキングブレーキスイッチを押し、パーキングブレーキを解除する。スルスル〜ッと、滑らかにWRX S4が動き出す。ガタピシのサンバーTV1に慣れた身としては、在来線から新幹線に乗り換えたような感覚だった。
タカハシゴーのこれまでのスバル人生を振り返るコラム
そんなタカハシゴー、連載中のコラムでは自身のスバルとの出会いから、その傾倒への道程を語っています。現在は第3回まで公開中。合わせてお楽しみください(MotorFan.jp)