BEV普及を後押しするヒットモデル「日産サクラ」【最新軽自動車 車種別解説 NISSANN SAKURA】

世界的にもいち早くBEV車をリリースした日産が22年に日本らしいシティコミューターとして送り出した「サクラ」。BEV車の燃料コストの割安感と補助金等のサポートなどもありその存在は魅力的だ。力強い加速がありつつ扱いやすくコントロールされた走行性能は抜群で、静粛性と居住性も含めてコンセプト通りのポジションに立っている。
REPORT:石井昌道(本文)/工藤貴宏(写真解説) PHOTO:中野幸次 MODEL:佐々木萌香

力強い走りと圧倒席な加速力 静粛性や振動の少なさも傑出

2010年に世界初の量産BEV(電気自動車)のリーフを発売した日産は、時代を先取りし過ぎたこともあってしばらくは苦戦が続いていたが、ようやくBEVのヒットモデルを生み出すことに成功した。それがサクラ。23年に日本国内で販売されたBEVの総台数(登録車+軽自動車)が8万8152台のうち、サクラが3万7140台と42%を占める。ちなみに輸入車は2万2848台と比較的好調で、現時点でのBEVはちょっと高級な部類と軽自動車で人気を二分しているといえる。

エクステリア

車体骨格は「デイズ」と共通だが、前後の意匠だけでなくドアやルーフまで含めて外板パネルはすべて専用。先進性が上手に表現され、リヤは左右を水平につなぐアクセサリーライトが点くなど上質感もある。最小回転半径は4.8m。

人気の理由はいくつかあるが、軽自動車が多く使われる地方では、自宅での充電が容易なこと、ガソリンスタンドが減ってきていることなども挙げられる。車両価格はそれなりに高いが、東京都など補助金が充実している地域では同等のガソリン車とさほど変わらない程度にまで下がり、燃料コストが安いというのも購入を推すことになる。そういった切実な条件ばかりが人気の理由ではない。乗ってみればBEV化の恩恵が大きいことがよくわかる。まずはトルクの大きさ。最大トルクは195Nmで660㏄エンジンの自然吸気の3倍以上、ターボの約2倍にもおよぶ。車両重量は150㎏程度重くなるものの、それを補ってあまりある力感だ。実際に走らせると発進時から力強く、急な登り坂でもグイグイと加速していく。非力なエンジンをCVTで効率良く走らせる通常の軽自動車とは大違いだ。

乗降性

アクセル操作と加減速の関係を注意深く観察すると、ただ単にBEV化しただけではなく、扱いやすさと頼もしさを慎重にバランスさせていることがわかる。電気モーターはゼロ回転から最大トルクを発揮できるが、そのまま出してしまうと、グイッと加速し過ぎたりショックが出たりすることがある。それを程よく抑えつつ、レスポンス遅れなどを感じさせない制御には感心させられる。

インストルメントパネル

インパネもガソリン車「デイズ」とはまったく異なる設計。全面的に布張りとした上でカッパーの加飾をコーディネートすることで上質さを醸している。メーターは全面液晶だ。

さらにBEVの最大の魅力である静粛性の高さが効いている。もともと軽自動車はさほど静かではないので恩恵がより強く感じられる。パワートレインの音が聞こえなくなるとロードノイズや風切り音などが目立つようになるのが常で、サクラでもそれを感じるものの、圧倒的な音量の小ささ、振動の少なさで高級車的な雰囲気まで獲得することになった。

居住性

シャシー性能でも、バッテリーを床下に配置するBEVならではの低重心および重量配分の良さが効いている。背の高さによるデメリットを感じさせず、高速域でも安定感は抜群。コーナーを曲がる性能も高く、街なかの交差点でもワインディングロードでもスイスイと軽快に走る。唯一の懸念は一充電走行距離で、WLTCモードで180㎞にとどまる。これを伸長するにはバッテリー搭載量を増やすことになるが、それでは高価で重量増、さらに室内空間にも影響がおよぶことになる。

うれしい装備

ダッシュボードは布張りで上質。この感覚はサクラ以外では味わえない、クラスレス印象の仕立てだ。助手席前は大型トレー形状になっている。
月間販売台数             2925台(23年7月~12月平均値)
現行型発表              22年5月
一充電走行距離※WLTCモード電費    180km

ラゲッジルーム

高速道路のロングドライブには向いていないと割り切るべきだろう。街なか専用車として考えれば、1日に20㎞程度しか走らない人なら少なくとも1週間は充電しなくていい。現在のバッテリーの技術では、ちょうどいい落とし所にあるとも言えるのだ。

※本稿は、モーターファン別冊 ニューモデル速報 統括シリーズ Vol.157「2024 軽自動車のすべて」の再構成です。

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