雪も氷も!? 走って確認。ダンロップの『シンクロウェザー』は革新的なオールシーズンタイヤ

住友ゴム工業が発表した次世代オールシーズンタイヤ「ダンロップ・シンクロウェザー」は、タイヤエンジニアの夢である「アイス性能がスタッドレスレベルのドライ・オールシーズンタイヤ」だという。本当に雪道を走れるのか、冬の旭川で体験した。果たして?
TEXT:瀨在仁志(SEZAI Hitoshi)PHOTO:住友ゴム

タイヤエンジニアの夢

冬の北海道・旭川のテストコースでいち早くシンクロウェザーを試した。

本当にこんな日が来るとは思わなかった。15年以上前になるからもう時効だろう。ダンロップのスタッドレスタイヤ試乗イベントで、スタッドレスタイヤの行く末を関係者に訪ねたところ『アイス性能がスタッドレスレベルのドライ・オールシーズンタイヤ』が夢だと、聞いた。

タイヤのことを良く知り、特に寒冷地で過ごしている人であれば、そんなのはあり得ないとわかる。交差点直前の磨き込まれたアイスバーン路面、跨線橋を越えた先の黒く光る路面や、日陰に入ったときに突然訪れる残氷パッチ路面。ひと冬を過ごしていればそんなドキッとするシーンに遭遇して、スタッドレスタイヤの有り難みが身に沁みる。サマータイヤのままで、この環境は走れない。オールシーズンタイヤも氷は完璧ではない。誰だって夢で終わるに違いないと思うはずだ。

氷の性能を高めようとすればゴムは低温でも柔らかくてしなやかさを持つ一方、温度が高いドライ路面になると腰が弱く感じられ高速ドライブには適さない。ドライ性能を高めようとすれば、ゴムはしっかりとしたものとなり、しなやかさは失われ、氷や雪には適さない。タイヤはいつも背反性能をもっているから、夏タイヤと冬タイヤの2種類のタイヤが必要とされるのが一般的だった。この相反する性能を満たせば『夢』は叶う。

それが実現した。

サマータイヤとスタッドレスの特性を併せ持つ夢のタイヤだという。そうそう簡単に信じるわけにはいかないが……。
「温度スイッチ」を組み込むことで、低温でも柔軟なゴムを使えるようになった。

ダンロップではゴム分子レベルの特性を『水』と『温度』を元にする化学変化に着目して、グリップ性能を自ら瞬時に可変させる『アクティブトレッド』技術を生み出したのである。氷や水による温度低下や水環境の変化があったら、ゴムはしなやかになって、スタッドレスタイヤのように路面への密着度を上げ、グリップを確保。水成分がなくなったり、温度が上昇していけばゴムは分子レベルで結合力を高めて剛性を確保し、ドライ路面でのしっかりとした走りを生み出す。

このアクティブトレッド技術を採用したのが、7月22日にダンロップから正式発表された『シンクロウェザー』モデルで、V字型トレッドパターンと細かく刻み込まれたサイプにより、見た目の上では従来のオールシーズンタイヤの顔だ。そこに、分子レベルで性質を変化させるゴムが加わったことで、夢のタイヤは仕上がった。

『水スイッチ」を組み込むことで、ウェット路面でもグリップするゴムとした。

氷はどうだ?

試乗車はトヨタ・カローラツーリング。

ホントかよ、とまずは思う。実際に冬と夏の2回、疑心暗鬼のままこのタイヤに乗った。

まずは、氷だ。いきなりスタッドレスとの比較である。加速と減速、そして、街中にありそうな小さなコーナー。もちろんテストコースであるから、多少アクセルを開け気味にしたり、ガツンとブレーキを踏んでみたりもした。

クルマはカローラツーリングでトラクションコントロールをオフにして走り出すと、スタッドレスタイヤでも一瞬フロントタイヤがズルッと滑り、FFベースであることがわかる。アクセルをキープしていればその滑りが大きくなることはなく、ジワジワと滑りが収まるとともに速度が上昇し始める。最新のスタッドレスタイヤだけに、滑りが大きくジャンプすることなく、ドライバーも普通に踏んでいれば良い。日常使いでのスタッドレスタイヤのありがたみがよくわかる。

同じカローラツーリングで『アクティブトレッド』採用のシンクロウェザーに乗ると、意外にも走り出しにしっかり感がある。ひと言で言うなら路面を蹴る感じが力強く、上下に無駄な動きがない。スタッドレスのしなやかな粘り感がトレッド全体で生み出されているものなら、シンクロウェザーはトレッド面は強く全面で路面をキャッチし、正にゴムだけのしなやかさで密着度を上げている感じ。

だから、常にゴムには冷えていていることや、水成分の情報も入ってきて、分子レベルで変化しグリップを確保しているのかもしれない。しっかりとした接地感と加速感は今までに経験がない。グニャッとしてヌルヌルと走り出したり、堅いとズルッと大きく滑ってアクセルを戻すような作業が必要だった。シンクロウェザーは遠慮なくアクセルを踏めて、なおかつ加速感は急変しない。踏み応えとレスポンスの良さがあって、個人的には好きである。きっと、データ評価すれば根本的に粘り感を持つスタッドレスの方が少し上回るかもしれないが、シンクロウェザーはコントロール性が良くてメリハリのある動きを示してくれるのが良い。

それは減速方向で効果を示し、ABS介入はやや早く感じられるものの、復帰が早くてG自体は大きな差は感じられなかった。前後方向の強さが路面へのインパクトを高めると同時にゴムは密着し続けてGの抜けを防いでいる。

コーナーでは横方向に大きく力が加わってしまうことから、Gが高まっていくにつれ徐々にラインにずれが出てくるものの、加減速時同様に、滑り領域での動きが落ち着いていて修整操作は行ないやすい。氷上での走りは限界速度だけで見れば最新スタッドレスタイヤがわずかに上回っている印象だったが、シンクロウェザーは限界を少し抑えながらもグリップの落ち幅が少なくコントロール幅が広いのが好印象だった。日常の急な環境変化にも幅広く対応出来ることは確かで、もっとも気になるアイス性能の高さは『ホントだった』

スタッドレスタイヤと比べて雪はどうだ?

雪上はシンクロウェザーが良かった。ステアリングの切り始めはやや雪に乗っている印象を受けて、応答が鈍かったものの、荷重がかかってくると踏ん張り感が出て、遠慮なく踏んでいけて、旋回トラクション性能が高い。旋回中の雪をガンガン排出しながら路面を蹴り上げていく印象で、Gが収まってからも接地面が頼りなく感じることはなく、ロールもピタリと収まり、スタッドレスのような揺れは感じられない。このあたり、ドライタイヤに似たフィーリングで、速度を増すほどに基本設計のしっかり感が出てくるようだ。

これなら、高Gとなるドライ路面の走りは大いに期待できる。(次回続く)

シンクロウェザーの発売は10月1日を予定している。

 

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著者プロフィール

瀨在 仁志 近影

瀨在 仁志

子どものころからモータースポーツをこよなく愛し、学生時代にはカート、その後国内外のラリーやレースに…