趣味で使うN-VAN e:のベストグレードは一人乗り仕様かも? 車中泊ユーザー目線で考えてみた

2023年のジャパンモビリティショーに展示され、市販目前といった完成度で注目を集めた「N-VAN e:」。ホンダ初の軽EVは2024年10月10日、ついに発売された。プライベートで軽バンにベッドキットを積んで車中泊を楽しんでいる自動車コラムニストは、新しい軽商用EVをどう感じたのか。率直かつ個人的な見解をお送りしよう。

PHOTO&REPORT:山本晋也(YAMAMOTO Shinya)

初の軽EVとは思えないほどの完成度と凝ったメカニズム

ボディカラーはオータムイエロー・パール。N-BOXでも使われている色だ。

ホンダとしては初の軽自動車カテゴリーのEV(電気自動車)であり、商用車としても初のEVとなる「N-VAN e:」が発売されました。まず気になるのはEVとしての各種要素でしょう。つまり航続距離や静粛性、加速性能といった性能になります。

公道試乗における第一印象で受けた結論をお伝えしますと、航続距離については「何とも言えないながら期待大」、静粛性は「やっぱり軽バンのレベル」、加速については「軽EVとして期待する以上」といったものでした。


あらためて試乗したグレードは装備の充実した一般ユーザー向けの「N-VAN e: FUN」となります。LEDヘッドランプなど他グレードと差別化した外観となっていますが、総電力量29.6kWhの駆動用バッテリーやシートの仕様などは共通なので、走りについての評価はN-VAN e:全般に共通するものといえるでしょう。


一般論としてEVでは航続距離を伸ばすために回生ブレーキ(モーターによって発電することで減速を生み出す仕組み。減速エネルギーで充電できる)をどれだけうまく活用できるかがポイントとなりますが、N-VAN e:においては従来からのメカブレーキと回生ブレーキを巧みに協調制御するシステムを採用しています。

充電率100%で出発、高速道路を含めてしばらく走ったところ、協調しているとは思えないほど自然なブレーキフィールを確認することができました。また、回生ブレーキによって充電率が上がってくると回生失効といって回生ブレーキが効かない現象が出るのですが、そのときには上手にメカブレーキの比重を高めているようでフィーリングが変化することなかったように思えたのは、初めての軽EVアーキテクチャーとして感心できるレベルといえるのでは?


今回の試乗では最高気温25度程度とバッテリーにとって適温の範囲にあったこともあり、水冷式を採用したバッテリー温度管理のメリットについて確認することはできなかったのですが、このサイズかつ価格感で水冷式バッテリーを搭載するというのは妥協のないEV開発をしてきたのだなあと感じるもの。第一印象をまとめると「軽EVとして期待以上の完成度」を誇るというものでした。

一人乗り、二人乗り、四人乗りをラインナップする

4人乗りのベーシック仕様となるN-VAN e:L4。

さて、冒頭で記した航続距離・静粛性・加速性能について、もう少し深掘りしていましょう。


残念ながら、今回の試乗時間は1時間半ほど、追加充電することもなかったので航続距離については判断できないというわけです。とはいえ、とくに電費を気にせず、エアコンも入れた状態で走ったときの電費表示は7.4km/kWhとなっていました。この数字から単純計算すると、カタログ値ではなくリアルワールドの航続距離として200km程度は安心して走ることができそう。冷暖房で電力消費が増える季節でも100km以上の走行で不安を感じることはなさそうです。それが「何とも言えないながら期待大」という印象につながりました。


続いて静粛性についてすが、軽バン(商用車)としての特性から荷室付近からのノイズ侵入は大きく、タイヤもバン用ということで走行ノイズは大きめ。EVというと静かなイメージはありますが、とくに高速道路での走行騒音としては「やっぱり軽バンのレベル」と感じるものだったというわけです。もちろん、エンジン由来のノイズや振動は圧倒的に少ないため一般道での快適性が高まっていることは事実ですが、よくあるEVだと思っていると拍子抜けするほど”うるさい”クルマだとは認識しておいたほうがいいかもしれません。


ご存知のように、モーターは発進加速に優れていますから、加速性能の満足度が高いことは当たり前に感じるかもしれません。特筆すべきは中間加速で、具体的には30km/hから50km/hといった速度域での中間加速が非常に滑らかで、なおかつ力強さを兼ね備えたフィーリングだったことが、冒頭で記した「軽EVとして期待する以上」と感じた理由です。


ちなみに、N-VAN e:の駆動モーターのスペックは四人乗り仕様では47kW、162Nmとなりますが、主にサブスク扱いとなる一人乗り・二人乗り仕様については39kW・162Nmとなっています。この違いについては、後者の一人乗り・二人乗り仕様は宅配業務で使われることを想定、加速によって積荷が動いてしまったりするのを防ぎ、またドライバーの負担を軽減するためという狙いもあるということです。


二人乗り仕様はオンラインサービス「Honda ON」でのサブスク扱いで用意される。

一人乗り仕様のN-VAN e:G。無塗装バンパーが特徴だ。

運転席以外のシートを省いたことで荷室高を120mmも増やしている。

四人乗り仕様は7インチのフル液晶デジタルメーターを標準装備。

一人乗り・二人乗り仕様はメーターの仕様が異なる。

改造やり放題ならシングルシーターの車中泊仕様は面白そう

二人乗り仕様のシートレイアウトはタンデム配置。いわゆる助手席側の荷室はダッシュボードのデザインも専用で7段サイズの脚立も収まる。

というわけで、日常+アルファといった生活範囲であれば航続距離にも不満はなさそうですし、高速道路を走らない限りは騒音に関する不満も少なさそう。そうなると、N-VAN e:を一般ユーザーがホビー目的で使うシチュエーションとしては、トコトコと一般道を走る気ままな車中泊旅行といったものが似合いそう。

筆者も他メーカーの軽バンですが、ベッドキットや寝具を積んだ(いつでも)車中泊(できるぞ)ドライブを楽しんでいますが、目的を決めずに風景や地元グルメを楽しむのは、ひとつのカーライフであり、そうしたシーンにN-VAN e:はとても似合いそうだと思うのです。もともとガソリンエンジン車のN-VANであっても車中泊を楽しむユーザーは少なくなかったのですが、よりEV化によって車中泊仕様としての可能性を高めたと感じるのは助手席を配した、一人乗り・二人乗り仕様が誕生したから。

N-VANのパッケージで車中泊をする場合、助手席側の前後席を格納して、そこを寝床スペースとする一人寝バージョンであることが多いと思います。そうであれば、最初から運転席だけとなっているのは”ムダがない”と感じられるのです。

今回、一人乗りのGグレードに触れることができましたが、フロアはフラットで寝やすそうなのはもちろん、室内高が増えたことで車内での着替えといった動きのしやすさが増しているのは車中泊ユーザーにはメリットとなることうけあいでしょう。

惜しむらくは、このシングルシーター仕様がHonda ONというオンラインでのサブスク販売限定グレードだということ。サブスク販売の特性上、原状復帰できないような改造はご法度でしょうから、一人車中泊仕様に作り込みにも制限がありそうだからです。もっとも、充実した純正アクセサリーでカバーできそうなので、じっくりと検討してみる価値はありそうです。

助手席側をすべてベッドにできるので高身長でも余裕があるのはN-VAN特有のメリットだ。

純正アクセサリーを開発するホンダアクセスが展示していた車中泊仕様。

ベッドスペースと積算性を両立させるルーフキャリアも用意する。

オートキャンプ場などでの外部給電に対応したコンセント。自車のバッテリーから電力を引っ張ってくることもできる。

プライベートで乗るならFUNグレードのルックスも魅力大

最上級グレードのみ丸目を強調するシグネチャー付きLEDヘッドランプが備わっている。

最後に、最上級グレードN-VAN e:FUNの差別化ポイントを整理すると、フルLEDヘッドランプ、カラードドアミラー、リヤシートヘッドレスト、スマートキーの標準装備などがあります。まさに乗用仕立てといえるものでホビーユースをメインに考慮したグレードです。


その関係もあって、e:FUNグレードだけは50kW級まで対応する急速充電を標準装備しています(他グレードにメーカーオプション設定)。ただし、全グレードで普通充電が6kW級に対応しているので、普通充電でも余裕で運用できるでしょう。ランニングコストを考えると、日常的には普通充電だけを使って走ることをおススメします。


あらためてN-VAN e:全般のEVアーキテクチャーについて感じたのは「初物と思えないほどの完成度と妥協のないメカニズム」といったところ。これだけのアーキテクチャーを軽商用EVだけのために開発するはずはありません、これから登場するとウワサされているホンダの軽乗用EVに期待が高まるというものです。


フロントグリルに急速充電ポート(手前側)が標準装備されるのも最上級グレードのみ。

シルバーのセンターキャップが備わる足元も最上級グレードの差別化ポイント。

N-VAN e:FUN 主要スペック

N-VAN e:FUN
全長×全幅×全高:339mm×1475mm×1960mm
ホイールベース:2520mm
車両重量:1140kg
モーター種類:交流同期電動機
最高出力:64PS(47kW)
最大トルク:162Nm
駆動方式:FWD
WLTCモード交流電力量消費率:127Wh/km
駆動バッテリー種類:リチウムイオン
バッテリー総電力量:29.6kWh
一充電航続距離:245km
最小回転半径:4.6m
タイヤサイズ:145/80R13 82/80N LT
乗車定員:4名
最大積載量:300kg(2名乗車時)
メーカー希望小売価格:291万9400円

外観はエンジン車と同様に見えるが、内装のデザインや乗り味は別もの。

3気筒エンジンとトランスミッションが収まっていたスペースに、インバーターやモーターがぎっしりと詰まっている。

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著者プロフィール

山本 晋也 近影

山本 晋也

1969年生まれ。編集者を経て、過去と未来をつなぐ視点から自動車業界を俯瞰することをモットーに自動車コ…