“精度”を突き詰めた先に細胞研究の世界があった。ヤマハのロボット技術の粋を集めた装置が医療・創薬に貢献する

一般的にはバイクのイメージが強いヤマハ発動機だが、産業用ロボット領域においては40年以上の歴史と高い技術力を持っている。そんなヤマハは今月、細胞研究や創薬に用いられる新たな装置を発表。医療・健康というとヤマハのイメージとマッチしない気もするが、ロボット技術が両者をつないでいる。

Photo:ヤマハ発動機/Motor-Fan.jp編集部

AIを活用して高精度で細胞を検出する。

ヤマハ発動機は11月14日、新型の細胞ピッキング&イメージングシステム「CELL HANDLER 2(セルハンドラー ツー)」を発表。2025年3月に発売する。

セルハンドラーは細胞のピック&プレースとデータ解析などを行う装置だ。人間の手では難しい速度と精度で特定の細胞を選択し、高密度培養プレートへひとつずつ移動するとともに撮像して、画像として情報を取得。細胞実験の効率化、精緻化に貢献する。細胞研究や新薬開発の現場で用いられ、2017年にリリースされた初代セルハンドラーは日本だけでなく欧米の製薬企業や研究機関などで利用されてきた。

このたび発表された後継機のセルハンドラー2のコンセプトは「細胞研究のベストパートナー」とされ、新薬開発における最新技術のほか、現場で働く研究者からのフィードバックを反映。近年利用されることが増加しつつある3次元細胞モデルへの対応も視野に入れ、パフォーマンスアップとともにユーザビリティも高められた。

目玉となるのはAI機能の搭載だ。AIを用いることで、従来機では識別が難しかった条件でも対象となる細胞を高い精度で検出が可能となり、ユーザーの手間を大幅に削減すると同時に研究の高速化に寄与する。

ローンチ状態では細胞の輪郭から対象を検出するプログラムがインストールされているが、セルハンドラー2ユーザーから提供されたデータをヤマハがAIを学習させ、各研究現場向けに専用チューニングを施したプログラムを提供する。

画像解析においては、4倍と10倍の対物レンズでは位相差観察ができるほか、20倍の対物レンズを追加。また、対象となる細胞のZ軸方向(高さ)を自動で認識し、撮影準備にかかる手間と時間の削減を実現させるオートフォーカス機能や、細胞の動きや変化を記録できるよう動画撮影機能も加えられている。

加えて、先代モデルユーザーから寄せられたフィードバックに基づいてユーザビリティも向上。吸引前後の細胞の位置や状態を記録したり個々の細胞の詳細情報を取得し、トレーサビリティを向上させることでデータの信頼性が向上。また、高精度な8連ヘッドも20%の高速化を実現した。

ロボティクスの先にある医療・創薬研究

医療の分野というと一般的にヤマハから連想されるものとは違うかもしれないが、実際は同社が持つ技術の延長線上に存在するものだ。

ヤマハは中長期経営計画において、モーターサイクル事業などをコア事業とした一方で、今後成長が見込まれ規模を拡大すべき事業としてロボティクス事業を挙げている。

ヤマハのロボティクス事業の歴史は長く、1981年に二輪車用エンジンの組立ラインに導入した自社製直交ロボットでスタートした。1984年には現ロボティクス事業部の前身となるIM事業部が設立され、プリント基板に小さな電子部品を装着する葉面実装機の生産を開始。

1995年には年間売上高100億円を達成すると、2000年には高速機市場へ参入。搭載速度や面積生産性について世界トップクラスの性能を持つマシンも世に送り出すに至り、2017年には年間売上高500億円を達成している。

そんなヤマハは自社のロボット技術を存分に活かせる領域として、メディカル分野への進出を2010年に検討開始。ロボットの“精度”という点を徹底的につきつめた装置の開発に着手し、2017年に初代セルハンドラーをリリース。日本内外の細胞研究現場の精度向上や効率化に貢献している。

医療・創薬の研究はヤマハと聞いてとっさにイメージするフィールドではないが、数十年にわたるロボティクス技術の粋を存分に活かせる領域なのだ。

ヤマハの細胞ピッキング&イメージングシステム「セルハンドラー2」が新発売。直感的な操作性、AI搭載による自動化機能で細胞研究を効率化

ヤマハ発動機はこのほど、新薬開発を目的とした研究・実験の効率化・精緻化に貢献する新型の細胞ピッキング&イメージングシステム「CELL HANDLER 2(セルハンドラー ツー)」を、2025年3月に発売すると発表した。

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