360cc時代の軽自動車最強モデル。なのに悲しいほど残っていない希少車!
旧車イベントに展示される軽自動車といえばスバル360を筆頭にホンダN360やライフ系が主流派。スバルなら可愛らしいスタイル、ホンダなら4ストロークのスポーティなエンジンなど、どちらもわかりやすい魅力を備えているから残存数も多い。
けれど、現在は主流のスズキやダイハツは意外にも展示される機会が少ない。スズキならフロンテクーペかジムニーがチラホラ見受けられるが、ダイハツや三菱となると展示車両がゼロなんてことも。
ところが今回のイベントには真っ赤なダイハツ・フェローMAXが展示されていた。真っ先に取材をお願いしたのは言うまでもない!
なんといってもフェローMAXは、1971年に軽自動車として初めてハードトップスタイルを採用した記念すべきモデルだ。そのハードトップが並んでいるのだから、話を聞かないわけにはいかないというもの。
1970年前後は軽自動車の熾烈な販売合戦が繰り広げられ、各社リッター当たり100psを超える高性能エンジンをウリに既存モデルをモデルチェンジさせてきた。これはホンダが67年に発売したN360が常識破りな31psエンジンと低価格を武器に、それまで不動の王者だったスバル360から販売台数トップの座を奪還したことに始まる。
ホンダに対抗すべく動いたのは三菱。69年にミニカをモデルチェンジさせて38psエンジンを搭載する。スズキもフロンテを31psにパワーアップさせつつ70年のモデルチェンジで36psを達成。さらにダイハツが70年のモデルチェンジでフェローMAXを発売、驚異の40psを実現した。ところが70年にホンダはクーペスタイルのホンダZを新発売して一歩先を行く。すると翌年の71年にフェローMAXがハードトップスタイルを採用して世間をアッと言わせたのだ。また三菱もミニカスキッパーを、スズキもフロンテクーペを発売するなど、クーペモデルが続々と登場した。
この日会場に展示されていたフェローMAXは73年のマイナーチェンジで後期型になったハードトップ。あまりにアクの強かった初期モデルのフロントデザインを大幅に変更して、角形フォグランプを装備したことが特徴だった。
オーナーを探してお話を聞けば、筆者も何度か取材でお世話になった杉浦年春さんが所有者だった。杉浦さんは自力でレストアを繰り返してきた人で、これまで仕上げた台数は数え切れないほど。だからイベントに参加するたびに車種が変わっていることも多い、ある意味レストアマニアのような存在なのだ。
後期のシングルキャブレター仕様なので最高出力は31psと比較的大人しいモデルだが、入手時の調子はよろしくなかった。そこでディストリビューターやローター、イグニッションコイルなど点火系を全体的に見直したことで息を吹き返したそうだ。当然だが補修部品など普通に流通していないので、修理するにも部品の確保で苦労された。
外装にミラ用と思われるアルミホイールを履いていたが、基本的にはノーマルを程よく残した状態。内装についても大きく変更することはなく、ナルディタイプのステアリングホイールやアルミのシフトノブなどを装着して操作性を現代風に仕立てているくらいだ。
操作系だけでなくカーナビやETCユニットなど、現代的な装備も追加している。ETCユニットが収まるセンターコンソールには、70年代当時のカーステレオで主流だった8トラック式カセットステレオまで残っている。でもテープがないから聞かないそうだ。
また破れてしまったフロントシートにはカバーを被せて対処。張り替えるにも同じ柄の表皮が見つからないため苦労することだろう。ただ、こうして工夫をすれば部品の少ない希少車でも普通に乗れるよう甦らせることも可能だという、良い例と言えるだろう。