電動化+SDV化に日立アステモの最新技術7アイテム

自動車用デバイスとシステムを幅広く手がける日立Astemo(アステモ)は研究開発中および先行開発の技術アイテムを十勝テストコース(北海道帯広市)で提案した。以下に示す7つの技術アイテムは電動化やSDV(Software Defined Vehicle)への対応、あるいは車両基本性能の向上を狙っている。【ASTEM TECH SHOW in JAPAN 2024】
TEXT:世良耕太(SERA Kota)PHOTO & FIGURE:Hitachi ASTEMO

1 マルチカメラ3Dセンシング LiDARなしでカメラだけで3Dデータを生成

3つのカメラをモジュール化したユニットの提案。斜め後ろ用は電子ミラーとしても使える。
視差算出AIの活用により、垂直方向の測距が可能になる。さらに物標認識の開発を進めている。

現行モデルの多くはADAS(先進運転支援システム)やバックモニターなどの用途で複数のカメラを搭載している。すでに備わっているカメラで画角がオーバーラップしていればステレオ視することができ、視差から距離情報を算出できる。この原理を利用し、すでに備わっているカメラにいくつかカメラを追加することで全周(360度)のステレオ視が可能になる。

画角196度の魚眼4台、120度が6台、70度1台の計11台のカメラで全周囲測距&検知を実現する。

技術デモンストレーションを行なった車両はホンダ・ステップワゴンだった。画角196度の魚眼カメラを4台、画角120度のカメラを6台、画角70度のカメラ1台の計11台のカメラを搭載していた。特徴的なのはドアミラー下に設置したカメラモジュールで、3つのカメラをひとつのケースに収めて搭載。斜め後ろは電子ミラーとして使える(ホンダeのように物理ミラーを廃止することが可能。デモカーは純正の物理ミラーが付いた状態)。

マルチカメラ3Dセンシングの特徴は、水平方向に360度の測距&検知ができるだけでなく、垂直方向にも測距&検知が可能なこと。AIの活用によりカメラ同士の画角がオーバーラップしていない領域も視差生成を拡張させることで、地面側や上方の測距と物標認識できるようになっている。この技術を使えば、高価なLiDAR(レーザー光を使って三次元測距するセンサー)を使わなくても全周囲で測距と物体の認識ができるというわけだ。

2 3Dセンシングによるクロスドメイン統合制御

障害物を認識しつつ、理想の軌道(乗り心地重視、速さ重視などの設定は可能)を生成。リファレンス軌道に誘導するようにステアリング、ブレーキ、パーワートレーンの操作をアシストあるいは抑制する。ドライバーの邪魔にならないような自然な制御とすることが課題。

クロスドメインとは、領域を超えて連携する技術のことで、例えば、パワートレーンとADASとシャシーの各制御技術は従来、それぞれ独立して制御を行なっていた。これらを連携させて制御する技術がクロスドメイン統合制御である。

もともとは日産リーフをベースにSBW(ステア・バイ・ワイヤー)に換装した自動運転研究開発車両。でも車両はLiDARを4基搭載。

デモカーは電気自動車(BEV)の日産リーフをベースにステアバイワイヤ(SBW)に換装されており、LiDARを4基搭載。3Dセンシングによって全周囲を測距&検知できる状態だ。そして、ADASとSBW、電動パワートレーンの各ドメインを連携し、統合制御する。

まず、3Dセンシングによって走行可能な範囲を検出。左右Gやジャーク(加速度の変化率)を抑えた乗り心地のいい軌道を生成することも可能だし、速さを重視した軌道を生成することも可能。生成したリファレンス軌道に誘導するよう、ステアリング、ブレーキ、パワートレーンの操作をアシストあるいは抑制する。快適な運転やぶつからない運転、あるいはエキスパートのような上手な運転に誘導することが可能だ。

3 インホイールモーターと新操作デバイスによる独立制御

車内のディスプレイ。各輪40kWのモーターを独立して制御する様子がモニターできる。6軸センサーと舵の動きなどから車両状態を推定してフィードバック制御をかける。
19インチホイールの隙間から覗く赤い部分がインナーロータータイプのIWM(インホイールモーター)。幅狭設計ながら大きなトルクを出すことにこだわった。

ユニークな格好をしたデモカーは日立Astemoのオリジナル車両。各輪に最高出力40kWのインホイールモーター(IWM)を搭載している。IWMなのでドライブシャフトは不要で(減速機構も持たず、ダイレクトドライブだ)、それもあって広々とした車室内空間を実現している。

デモンストレーションのテーマのひとつは、各輪制御による乗り心地の向上と自由度の高い運動制御だった。サスペンションのアンチダイブ、アンチスクワットのジオメトリーを活用することで、路面状況に合わせて車体を上下に動かし、フラットライドを実現することができる(テストコースで体感した)。前輪にブレーキ、後輪に駆動力をかけると押し合って車体が持ち上がり、前輪に駆動力をかけ、後輪に制動力をかけると引っ張り合って車体が下がる。この特性を利用し、路面の凹凸に合わせて制御するわけだ。

新操作デバイスはロックtoロックを±60度に設定。ステアリングに代わる操作デバイスとして開発を進めている。
通信レートを100Hzから500Hzに向上させ、低遅延制御系を後世。現状では目出すモーター音の低減についても「策」はあるという。

また、加減速と操舵量に応じて各輪のトルクを制御することで、ロールやヨーを低減することが可能。結果、レーンチェンジ時の安定感と安心感が増す。

新操作デバイスはステアリングホイールからの置き換えを狙う(真剣に狙っている)技術で、ロックトゥロックはプラスマイナス60度に設定されていた。指と手首の動きで直感的に操作することが可能だ。

4 次世代セミアクティブサスペンション

独自のプレビューAIサス制御により、路面プロファイルに適したフィードフォワード+フィードバック制御を実施。乗り心地・安全性の向上につながる効果が期待できる。
デモ車両はレクサスRX450h。カメラは量産そのまま、制御を換装。右輪、左輪側の波形の違いも見て制御。
加速度や車高などのセンサーを追加することなく、既存のセンサーを流用することで機能を付加できるのも特徴。

ADASで使っているフロントカメラと減衰力可変ダンパーを連携させた技術の提案。フロントカメラで路面の波形を捉え、凹凸やうねりに応じて瞬時にダンパーの減衰力を調節すれば、より精度高く乗り心地を向上させることができる。うねり路通過時にフラットライドに近づけば、視線が安定し、安全性向上にもつながる。

レクサスRX450hをベースにしたデモカーで制御のオン/オフを体感したが、効果はてきめんだった。

5 車両統合制御プラットフォーム技術

テックショーでは自動配分技術について試乗機会が与えられた。内向き感、軽快感、一体感の強弱を任意に設定すると、デバイスの制御量を自動配分してくれ、感覚に合った挙動に変化。車両セッティングを直感的に行なうことができる。

この技術によってエンドユーザーが受ける恩恵は、完成度の高いクルマが早く、リーズナブルな価格で手に入ること。本質的には開発者向けの技術で、車両開発の高効率化(工数低減、コスト低減)につながる技術である。

自動適合技術、自動調停技術、自動配分技術の3つの技術で成り立っており、「もっと軽快に」など、官能評価を入力すると定量的な車両目標特性を設定してくれるのが自動適合技術。目標車両特性を、SDVを想定した際に複数のソフトウェアがバッティングしないように車両特性ベースで調停するのが自動調停技術。目標特性を達成するために各デバイスはどれだけの制御出力にすればいいのか、これを自動的に配分するのが自動配分技術である。

デモ車は後輪駆動のホンダe(BEV)をベースにSBWに換装。SBWの後輪操舵システムを搭載。頸管間の強弱を変えるとハンドル操作に対するクイック感が変化する。
内向き感を強くするとオーバーステア傾向が強くなり、一体感を強くしていくと安定感が増す。直感的な車両セッティングを簡易的に行なうことで工数減を狙う。

BEVのホンダeをベースとしたデモカーの試乗では、自動配分技術を体感した。内向き感、軽快感、一体感といった感覚的な表現の強弱を任意に設定すると、デバイスが制御量を自動配分してくれ、感覚に合った挙動に変化する。軽快感を強めるにはステアリング操作に対してクイックに動くようにすればいいんだから、そのときのパワートレーンの制御出力は……と、いちいち考えなくて済むことになる。車両開発の際に直感的な車両セッティングを可能にする技術だ。

6 シャシーデバイス連携による操安性向上

新開発ダンパーの構造図。上側は標準のバルブで、その下に極微低速の減衰力を司るバルブを追加。伸び側/縮み側の特性を独立して設定できるのが特徴。従来はフリクション要素で行なっていたことをバルブに置き換えて実現している。
緊急回避時はモデルフォーローイング制御によって回頭性が向上。新開発ダンパーで動き始めから減衰力を出すことでその際のロール制御が滑らかになる。

SBWとコンベンショナルなダンパーとの連携技術である。制御性の高いSBWと組み合わせることで、可変制御機能を持たないコンベンショナルなダンパーでも付加価値が与えられる、という提案だ。

SBWは独自のモデルフォローイング制御(ヨーレートに対し高応答に制御する技術)を適用することで操舵に対する急激な動きを緩和。これに、動き出しから高応答に減衰力を発生させる新構造のダンパーを組み合わせることで、高い応答性と穏やかなロール挙動を両立した。ロールやピッチは確実に抑えられる(挙動が穏やかになる)にもかかわらず、背反として出がちな硬さは感じず、引き締まった乗り味が印象的だった。

統合制御では応答遅れが発生する。シャシーデバイス連携は応答遅れを見越したシステム制御。アステモはOEMが「やりたいこと」をシステムで提供できる。

新開発のダンパーは、従来のバルブ部の下に極微定速域の減衰力を受け持つバルブを追加したのが特徴。伸び側/縮み側の特性を独立して設定できる。従来はフリクション要素で行なっていたことをバルブに置き換えて実現する格好だ。

7 電動液圧式ブレーキ・バイ・ワイヤ・システム

電動パーキングブレーキ(EPB)は、一般的にスイッチをはが引きすると最大0.6Gのブレーキが一気に発生する仕組みだ。

技術の提案が2つあった。ひとつは高機能化したESC(Electric Stability Control)ユニットで、ABS/ESC作動時の音や振動が皆無なのが特徴(信じられない話だが、本当に皆無だった)。市場では、ガガガガという作動音や振動があるとびっくりしてブレーキペダルの踏み込みを緩めてしまうケースがあるという。無音・無振動ならその心配はない。

フィードバックがないと路面のインフォメーションが伝わりづらいのでは、という危惧があるが、体感上なんの問題もなく、「素晴らしい」としか言いようがない。デモカーの日産リーフは2ユニット搭載することで4輪独立制御を実現していた。無音・無振動なので緊急時だけでなく常用域でも遠慮なく作動させることができ、アンダーステア/オーバーステア傾向に陥りそうになったときの制御を早めに介入させることも可能。

EPBスイッチを操作せずとも、ブレーキペダル入力に合わせ、リヤ2輪の制動力をコントロールできる技術を提案。
デモ車は電動液圧式アクチュエーターを2ユニット使うことで4輪独立ブレーキ制御を実現。作動時はバルブの音もモーター音もしない。

無音・無振動のカラクリは非公開だったが、従来の5倍の分解能で滑らかに、かつ瞬時に油圧が立ち上がる仕組みとなっているという。実用化が楽しみな技術である。

もうひとつは、ブレーキ失陥時にEPB(電動パーキングブレーキ)を使って制動をかける機能。EPB適用車はEPBのスイッチを長引きすると最大0.6Gの減速度が一気に発生する仕組み。ブレーキが完全に失陥したときの緊急時に役立つ機能だ。0.6Gの制動力が一気に発生した場合は後続車に追突される恐れもあり、緊急の度合いによっては調節できたほうがありがたい。

そんな要望を叶えるのが、日立Astemoが提案するバックアップ機能だ。ブレーキが完全失陥した場合は、そのままブレーキペダルのストロークでEPBの制動力をコントロールできる。テストコースで実際に試してみると、「リヤ2輪のEPBでも充分な制動力を発揮するんだな」という印象。後輪にのみ制動力がかかるので、通常時とは車両挙動は異なるが(リヤが沈み込む感じ)、制動力は充分だし、コントロール性に難はない。機能性の高さだけでなく、ソフトウェアの変更だけでシステムに機能を付加できるのもウリである。

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著者プロフィール

世良耕太 近影

世良耕太

1967年東京生まれ。早稲田大学卒業後、出版社に勤務。編集者・ライターとして自動車、技術、F1をはじめと…