クルマがその場で回転する!? 新型メルセデス・ベンツGクラスのオフロード性能はEVとディーゼルのどちらが優れているのか?乗り比べ!

遂に全車電動化を果たしたメルセデスの本格オフローダー「Gクラス」。その旗頭となる「G580 with EQ Technology Edition1」でオフロードに乗り出し、ディーゼルエンジン搭載モデル「G450d LAUNCH Edition」と乗り比べた。果たしてGクラス初のピュアEVとなるG580は、Gクラスにふさわしいオフロード性能を備えているのだろうか?
REPORT:山田弘樹(YAMADA Kouki) PHOTO:MotorFan.jp

Gクラスの本領はオフロードにこそあり?

Gクラスを手に入れて、喜び勇んでこれをオフロードを走らせる猛者が、日本にどのくらいいるのかはわからない。そのほとんどが、Gクラスが持つ潜在能力の数分の1すら使わずに、オンロードSUVとしてこれを常用していることだろう。

585psのV8エンジンか? 587psの4モーターか?新型メルセデス・ベンツGクラス「AMG G63」と「G580 with EQ Technology」を乗り比べ!

遂に全車電動化を果たしたメルセデスの本格オフローダー「Gクラス」。その旗頭となる「G580 with EQ Technology Edition 1」を、オンロードでは「AMG G63 LAUNCH Edition」、オフロードでは「G450 d LAUNCH Edition」と乗り比べた。果たしてGクラス初のピュアEVとなるG580には、ユーザーが求めるプレステージ性が残されているのか? REPORT:山田弘樹(YAMADA Kouki) PHOTO:MotorFan.jp

とはいえGクラスがGクラスとしてのアイデンティティを保つのは、それが超が付くほどの本格的なオフローダーだからだ。個人的にはもしGクラスがその愛らしいルックスのままモノコック構造となり、よりカジュアル(つまり車重が軽く、もう少し買いやすくなるということだ)なオフローダーとなったら、果たしてその人気がどうなるのか? はとても興味深い。

ランドローバー・ディフェンダー

事実ランドローバー・ディフェンダーなどはこの路線で成功を収めただわけだが、いっぽうメルセデスは屈強なラダーフレーム構造を頑固に、そして生真面目に貫いている。

メルセデス・ベンツGクラスのラダーフレーム(AMG G63)。

ということでGクラスの試乗には、そのオフロード性能の確認はつきものとなっているわけだが、特に今回はピュアEVとなった「G580 with EQ Technology Edition1」が登場しただけに、その4モーター制御を本来の土壌で確かめることができたのは有意義だった。そしてこれを、「G450d LAUNCH Edition」と比較できる豪華な内容となった。

ディーゼルエンジン搭載モデル「G450d」のオフロード走破性は?

まず最初に試乗したのは、“Gクラスの真心”とも言える「G450d LAUNCH Edition」。その名称は「G400d」から50数字を増やし、3.0L直列6気筒ディーゼルターボ「OM656」ユニットの出力も、330PS/700Nmから367PS/750Nmへと大幅に引き上げられた。
さらには15kW/208NmのISGを搭載する、48Vマイルドハイブリッドも搭載されて、電動化の仲間入りを果たした。

G450d LAUNCH Edition

いっぽうで車重は2540kgと、主にISGの影響だろう数字と同じくらい車重を増したが、トータル1000Nm近いシステムトルクの前には、約50kgの増量は体感できなかったというのが本音だ。そして4.0L V8を搭載するAMG G63よりも、直6ディーゼルを磨き上げるG450dにGクラスの本質を感じ、ホッとしたのも事実である。

G450d LAUNCH Edition

肝心なオフロードコースはモーグルを主体としたセクションと、林道セクション、そしてアップダウンのあるヒルクライムセクションの3種類を走行した。
車両側ではまずオフロード用低速ギア「LOW RANGE」を選択することで、3種類のデフロック(トレイル/ロック/サンド)が選択可能に(ちなみに今回のステージである富士ヶ嶺オフロードコースでは、そのほとんどのシチュエーションで「サンドモード」が推奨された)。

センターコンソールに配置された「オフロード・コクピット」の操作パネル。

さらに「オフロード・コクピット」を起動させることで、そのストローク状況や車体角度などが中央モニターに表示された。

ロックされているデフ、ステアリング舵角、車体の傾き、各サスペンションのストローク状態が表示される。標高やクルマが向いている方角なども表示されるのがいかにもオフローダーらしい。「サンドモード」なので背景が砂漠。

結論から申し上げてしまえば、その走りは超が付くほどの盤石ぶりだった。その上で走りを精査すれば、ローレンジモードにおけるトルクさばきのみごとさに、大いに感心させられた。

林道セクションをゆくG450d。

車体が大きく揺さぶられるような路面でも繊細なアクセルワークでそのボディをコントロールできる柔軟性の高さは、ISGのなせるワザか。またその足つきも20~25°程度のバンクではまったく問題なく、対角輪が完全に浮き上がるモーグルも、鼻歌交じりにこなす。

ルーフやボンネットの上面が見えるほど車体が傾く林道セクションのオフロードバンク。
バンクで車体が一番くと角度は26°にもなる。サイドウインドウの外に地面が見えるレベル。
モーグルセクション。
モーグルセクションを前席から見たところ。
モーグルセクションでは簡単に車輪が浮く。
左前輪は完全に浮き上がり、右前輪や左後輪はサスペンションが完全に沈み込んだ状態に。

ヒルクライムの曲がりくねったセクションではデフロックを適宜オフにする必要もあったが、急斜面を苦も無く登り、パドルを1速に入れてアクセルを離すだけで、牛歩のごとき足取りで傾斜40°のダウンヒルを横滑りすることもなく下り切った。

ヒルクライムセクションを登っていくG450d。
急角度の下り傾斜に進入する際は、運転席から下方向の路面は見えなくなる。
しかし、ディスプレイに車両の下前方と車両とタイヤ位置を合成表示され確認が可能になっている。
急傾斜を難なく降るG450 d。
前席から見ると着座位置の関係でなおさら急角度に見える。
傾斜は最大40°(写真は38°)にも達した。

とはいえGクラスほどのオフローダーであればこの程度の走りができるのは当たり前なわけで、むしろ今後必要なのは「その限界がどこらへんにあるのか」をわからせる機能なのではないかとも思えた。

運転席からと外から見たのではクルマの状態は大違い。オフロードコクピットは状況を数字で把握することはできるが、クルマの状態は実際に見てみないとわからないことも多い。

オフロード・コクピットはサスペンションストロークの状況や傾斜角度を可視化してくれるが、現状はその状況を知らせるだけで、我々のようなオフロードビギナーにとっては、それがどのくらい余裕がある状況なのか、そうでないのかがわからないからだ。

G580の4輪独立制御モーターの実力やいかに?

ともあれ、G450dの走りは素晴らしかった。スキーや別荘地に行くのであれば、これだけ安心感の高い走りをしてくれるなら十二分。しかしさらに驚かされたのは、「G580 with EQ Technology Edition1」の走りが、それをさらりと上回ったことだった。

ヒルクライムセクションを登るG580。

その要となるのは、やはりといおうか4輪独立制御モーターのアドバンテージだ。もはやその制御にデフロックの概念はないわけで、片輪が浮こうがスプリットミュー路面になろうが、1輪あたり108kWを発揮するモーターが、淡々と仕事をこなす。グリップするタイヤに必要なトルクを掛けて、着実にトラクションを掛けて行く。

モーグルセクションでのG580。右前輪は完全に浮き上がり、逆に左前輪輪や右後輪はサスペンションが縮みきっている状態だ。
斜度40°の下り斜面。
急傾斜でも難なく、乗員に不安もなく下る。
林道セクションのオフロードバンク。
車内ではかなり傾いているように感じる。
「オフロード・コクピット」の表示では傾斜は25°。

だから自然とアクセルの踏み込み量が減り、オフロード走行には付きものだった駆動制限のギクシャク感なしに、スーッと荒れ地を進む。そのシステム出力だけを見れば423kW(587PS)/1164Nmというモンスターぶりだが、ふるまいはジェントルだ。

林道セクションを行くG580。

雪道などさらに速度が上がり、慣性が生まれる状況での4輪制御は未知数だが、少なくとも低速のオフロードでその走りは快適だった。

路面状況が悪くても快適な走りを見せた。

ちなみにそれぞれのモーターはインホイール式ではなくラダーフレーム側に組み込まれているから、荒れ地でタイヤが上下してもバネ下に重たさを感じるようなこともない。

オフロードでのG580の走り。
ラダーフレームの隙間には電池が配置されており、ラダーフレームらしさは見えない。
特に電池を守る分厚いアンダーガードがフロア下一面を覆っている。
右フロントの足まわり。ダブルウィッシュボーン式で、ドライブシャフトの奥にモーターがある。

G580におけるハイライトは、最大で720度の回転を可能とする「Gターン」だろう。その手順はローレンジモードとロックモードを選んで、さらにGターンボタンを押す。最後は回りたい方向のパドルを引きながらスロットルを踏み込めば、ターンモードに入る。

「Gターン」モードにした「オフロード・コクピット」の操作パネル。「LOW RANGE」の右側が「Gターン」、左側が「Gステアリング」のスイッチだ。

その際注意するのは、滑り出しても反射的にカウンターを当てず、ステアリングを真っ直ぐ保持すること。それはこの制御が左右のタイヤを逆回転(対角線のタイヤは同じ方向)させることで回転力を得ているためだが、初期操舵の“きっかけ”すら与えることなく、全くのゼロ発進からこの巨体をターンさせる回転力が得られることには改めて、高性能なモーターのすごさと可能性を感じた。

「Gターン」の様子を動画でご覧ください。

ちなみにGターンの目的および大義は、狭いオフロードでの緊急回避用方向転換にある(一般公道での使用はNG)。であればなぜ2回転もする必要があるのかはちょっと不思議だったが、もちろんアクセルを離せば回転は止まるし、そこには4モーター制御のすごさを見せつける意味もあったのだろう。

「Gターン」後の地面の様子。回転した場所には円形の轍ができており、まさにその場で回転したことがわかる。

またその旋回速度もアクセル全開だとなかなかの速さだったから(もしかしたらもっとアクセルを踏まずともターンできたのかもしれない)、いざ本当に使うとなったら勇気がいるなと思えた。面白かったのはターン中、速度計だけでなくパワーゲージも動いていなかったことだ。 

「Gターン」の様子を車内から見ると……。

そういう意味でいうとより現実的なのは、「Gステアリング」の方かもしれない。ちなみにGクラスの最小回転半径は全て6.3mだが、これを使うことでG580は、Gターンほどではないがタイヤを滑らせることで小刻みにリヤをスライドさせながら、さらに小回りを効かせる。オフロードで鋭角な曲がり角に遭遇したときに使う小技である。

即ちそれは強度を優先したリジッドアクスルにおける、後輪操舵が使えない状況への打開策だと思うが、電動化によってやや荒っぽく、いや無理矢理に問題解決するあたりは、ちょっとドイツらしいくて微笑ましいなと感じた。

ディーゼルのG450dとモーターのG580どっちがスゴい?

翻ってG450dとの比較だが、制御の緻密さやダイナミックさにおいても、EVは内燃機関に多くの部分で勝っていると感じた。たとえば渡河水深などはG450dが700mmであるのに対し、そもそも水の中に入って行くということ自体に勇気が要るとはいえ、エンジンを持たないG580では850mmと150mmも余裕がある。

ウォーターセクションに進入するG450d。
こちらはG580。

ただ今回は感じなかったが、よりぬかるんだ路面で580kgの重量差、遂に3tを越えたG580の車重がどう影響していくのかはわからない。ちなみに装着タイヤは今回どちらもファルケン「FK520」で、それはガチガチのオフロード用タイヤではなくむしろオンロード志向のプレミアムタイヤだったが、今回のようにライトなシチュエーションであれば、G580であってもその自重を支えることに不満は感じなかった。

G580の取材車両には275/50R20サイズのファルケン・アゼニスFK520を装着。G450dの取材車両も同じタイヤを装着していた。

そういう意味でいうとG580にとって真に必要なのは、その卓越したオフロード性能を遺憾なく発揮するための電力確保だろう。遠く離れた別荘地なりオフロードコースに、116kWの大容量バッテリーを即座に充電できる設備が、一番求められる要素だと思う。

「SCHÖCKL PROVED」のエンブレム。「SCHÖCKL(シェークル)」はGクラスを生産するグラーツ工場近くの山。その山岳地帯での走行テストをクリアした証がこのエンブレムだ。

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著者プロフィール

山田弘樹 近影

山田弘樹

自動車雑誌の編集部員を経てフリーランスに。編集部在籍時代に「VW GTi CUP」でレースを経験し、その後は…