これぞフレンチスポーツ アルピーヌA110「GT」と「S」 | 軽く、速く、すばしっこくて楽しい

アルピーヌA110GT(左)とA110S(右)
コンパクトで軽く、そしてドライブして楽しい。その名前のとおり、山道をドライビングする楽しさを体現しているのが、アルピーヌA110だ。軽量ボディのミッドにエンジンを搭載して後輪を駆動するスポーツカー、A110がマイナーチェンジを受けた。
TEXT & PHOTO:世良耕太(SERA Kota)

A110とA110GT、そしてA110S

2018~2022年でA110 1st Editionが50台、A110 PUREが264台、A110 LEGENDEが328台、A110Sが167台計809台が日本で売れている。グローバルでは合計9626台のA110が販売された。

軽量コンパクトなボディをまとったミッドシップスポーツのアルピーヌA110(エー・ワンテン)がマイナーチェンジし、グレード体系を改めた。ベーシックなA110ピュアはシンプルに「A110」となり、快適性に振ったA110リネージは「A110 GT」に、スポーツ性を強調したA110 Sはそのまま「A110 S」を名乗る。

新しいA110は、3つの個性を際立たせたA110、A110 GT、A110 Sの3グレード構成となる。シャシーには「アルピーヌシャシー」と「シャシースポール」の2種類があり、A110とA110 GTはアルピーヌシャシー、A110 Sはシャシースポールだ。アルピーヌシャシーとシャシースポールではタイヤサイズやコイルスプリングのレート、アンチロールバーのレートなどが異なる。名称から推察できるように、シャシースポールのほうが走りを意識した仕立てだ。

1.8L直列4気筒ターボエンジンを車両ミッドに搭載するのは全車に共通しているが、チューニングは2種類ある。A110の最高出力、最大トルクは185kW(252ps)/6000rpm、320Nm/2000rpmなのに対し、A110 GTとA110 Sは221kW(300ps)/6300rpm、340Nm/2400rpmを発生する。組み合わせるトランスミッションは全車、7速DCTだ。

A110シリーズはフラットなフロアと、空力的な効果をきちんと考えて設計したディフューザーがしっかりとしたダウンフォースを発生する。250km/h時にフロアで190kg、ディフューザー部で85kg発生するということだ。プレゼンテーションで表示されたグラフを見ると、50km/hでもダウンフォースを発生していることがわかる。

A110とA110 GTのカタログ上の最高速は250km/hで、A110 Sは260km/hだ。A110 Sにオプション設定されるエアロキットを装着すると、最高速度は275km/hになる。カーボン製のリヤスポイラーとフロントスプリッターを装着した効果で最高速が伸びるという説明だったが、エアロキットの装着で「ダウンフォースが増えるのに最高速が上がるとは?」と疑問に感じた。一般的にはダウンフォース増と引き換えにドラッグ(空気抵抗)が増えるはずで、旋回スピードの向上に貢献しこそすれ、最高速は落ちると考えるのが普通だ。

よくよく話を聞いてみると、A110とA110 GTは動力性能面の余力を残したうえで、走行安定性の観点から250km/hでリミットをかけているとのことだった。A110 S+エアロキットの場合は、発生するダウンフォースが増加したことによって超高速域のスタビリティが担保されるので、リミットを延長したとのこと。エアロキット、ダテではない。

ステーはアルミ削り出し
カーボン製のリヤスポイラー

A110GT 軽くて速い。でも普段使いもできそう

アルピーヌA110GT 全長×全幅×全高:4205mm×1800mm×1250mmホイールベース:2420mm

A110 GT、A110 Sの順に箱根ターンパイクで味見をしたが、コンパクトであることは大きな価値だなと、実物を目にして思った。凝縮感がいい。A110 GTのドアを開けて室内を覗き込んでみれば、仕立てのいいブラウンレザーの内装が目を射る。サベルト(Sabelt)製のレザーシートは前後スライド調節がついているのはもちろん、リクライニングは腰位置のダイヤルで調節できる。ドアパネルに配したボディ同色のアルミパネルがいいアクセントだ。A110 GTのメーカー希望小売価格(税込)は893万円だが、まったく価格負けはしていないと感じた。

サスペンションは前後ともダブルウィッシュボーン式である。地面に這いつくばって足まわりを覗き込んでみると、フロントはアルミ鋳物の上下アームがよく見える。タイロッドはL字型をしたロワーアームの前にあり、いわゆる「前引き」だ。リヤはロワーウィッシュボーンがかろうじて目に入る。床下が徹底してフラットなのがよくわかり、ディフューザー部には空気の流れを制御するストレーキが、リヤホイールハウスの前側からリヤバンパー下端まできれいに伸びている。

タイヤはミシュラン・PILOT SPORT サイズはリヤ235/40R18
フロント205/40R18
リヤサスペンションはダブルウィッシュボーン式。右に見えるのがデュフューザー。
フロントサスペンションもダブルウィッシュボーン式。ステアリング・タイロッドは前引きだ。

A110シリーズはサスペンションアームがアルミ合金なだけでなく、車体骨格全体がアルミ合金でできており、そのおかげもあって車両重量が1110〜1130kgでしかない。A110の全長は4205mm。全長が4075mmのルノー・ルーテシアの車両重量は1200kgである。絶対的な軽さはA110シリーズの大きな価値だし、最大の重量物がコックピットの背後にあってフロントが軽い(前後重量配分は44:56)のもこのクルマの特色で、低速であっても、ステアリングを切り込んだ瞬間にその価値が実感できる。

切り込み一発目よりも、切り返したときの反応の鋭さとミズスマシのような水平方向の動きが新鮮だ。F1マシンはスタート前のフォーメーションラップで、タイヤを適正な温度域に暖めるために左右の切り返しを連続して行なう。そのときの、目視ではほとんどロールを確認できない水平方向の素早い身のこなしと、A110シリーズの動きがオーバーラップする。感激必至の身軽な動きだ。

エンジンはまず、刺激的なサウンドで乗り手を楽しませる。なかなかやんちゃで、乾いた4気筒サウンドだ。アクセルオフした際にバラバラと気分を盛り立てるような排気音の演出を利かせるのは、ルノー・メガーヌR.S.と同じだ。エンジン音が耳のすぐ後ろから響いてくる点が決定的に異なるし、同じ1.8Lのエンジンを積んでいても、メガーヌR.S.の車両重量が1480kgなのに対し、A110 GTは1130kgで、瞬発力が決定的に違う。

軽く、速く、すばしっこくて楽しい。それがアルピーヌA110 GTで、もうひとつ付け加えておくと、乗り味はとことんしなやかで、挙動は安定している。強めの旋回Gがかかっているときに路面のアンジュレーションを受けて車両が浮き上がり気味になっても、ヒヤッとするようなことはなく、磁石で吸い寄せられでもしているかのように路面と仲良くしている。「GT」を名乗るだけあって、充分に普段使いできそうな、軽くて、速くて、楽しいクルマだ。

エンジン 形式:1.8ℓ直列4気筒DOHCターボ 型式:M5P型 排気量:1798cc ボア×ストローク:95.5×88.4mm 最高出力:300ps(221kW)/6300pm 最大トルク:340Nm/2400rpm 燃料:プレミアム 燃料タンク: 45ℓ

レーシーなムード満点のA110S

アルピーヌA110S 車両本体価格:897万円

走りに振ったA110 Sの特徴的な装備は、Sabelt製軽量モノコックバケットシートだ。これを見ると、猫が威嚇する際に見せる“やんのかステップ”に対峙したときのような緊張が走る。出方を間違えると痛い目見るぞ、みたいな。シートだけでなく、ダッシュボード、ルーフライニング、ステアリングホイールもマイクロファイバーで統一されており、レーシーなムードは満点だ。オレンジのステッチがいいアクセントになっている。

前述したようにA110 Sはシャシースポールを採用しており、スプリングレートとアンチロールバーのレートは強化されている。覚悟して乗ったせいもあるかもしれないが、「意外に快適」というのが率直な印象。当然のことながら、A110 GTに比べてA110 Sの乗り味はハードだ。といって、公道で長時間を一緒に過ごすのはツライとまでは感じなかった。これなら、助手席に人を誘うこともできそう。もちろん、視覚的にも体感的にも快適なのはA110 GTのほうだが。

アルピーヌA110の「3つの個性」のうち、快適志向のGTと走りを志向したSを味見した。それぞれ、快適性のベクトルと走りのベクトルが突き抜けてはいるものの、刺激的なクルマである点は共通している。軽く、速く、すばしっこくて楽しいのがいい。

タイヤはミシュランPILOT SPORT CUP リヤは245/40R18
フロントは215/40R18
エキゾーストはセンター出し。リヤのデュフューザーが迫力満点だ。
リヤサスペンションはダブルウィッシュボーン式

MMC前のモデルの試乗記はこちら

アルピーヌA110GT
アルピーヌA110GT
 全長×全幅×全高:4205mm×1800mm×1250mm
 ホイールベース:2420mm
 車重:1120kg
 サスペンション:F&Rダブルウィッシュボーン式
 駆動方式:RWD
 エンジン
 形式:1.8ℓ直列4気筒DOHCターボ
 型式:M5P型
 排気量:1798cc
 ボア×ストローク:95.5×88.4mm
 圧縮比:
 最高出力:300ps(221kW)/6300pm
 最大トルク:340Nm/2400rpm
 燃料:プレミアム
 燃料タンク: 45ℓ
 燃費:WLTCモード 14.1km/ℓ
  市街地モード:9.6km/ℓ
  郊外モード:15.0km/ℓ
  高速道路モード:16.7km/ℓ
 トランスミッション:7速DCT
 車両本体価格:893万円
アルピーヌA110S
アルピーヌA110S
 全長×全幅×全高:4230mm×1800mm×1250mm
 ホイールベース:2420mm
 車重:1110kg
 サスペンション:F&Rダブルウィッシュボーン式
 駆動方式:RWD
 エンジン
 形式:1.8ℓ直列4気筒DOHCターボ
 型式:M5P型
 排気量:1798cc
 ボア×ストローク:95.5×88.4mm
 圧縮比:
 最高出力:300ps(221kW)/6300pm
 最大トルク:340Nm/2400rpm
 燃料:プレミアム
 燃料タンク: 45ℓ
 燃費:WLTCモード 14.1km/ℓ
  市街地モード:9.6km/ℓ
  郊外モード:15.0km/ℓ
  高速道路モード:16.7km/ℓ
 トランスミッション:7速DCT
 車両本体価格:897万円

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著者プロフィール

世良耕太 近影

世良耕太

1967年東京生まれ。早稲田大学卒業後、出版社に勤務。編集者・ライターとして自動車、技術、F1をはじめと…