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何万回とスライドし続けるレリーズベアリング
クラッチを切ったりつなげたりするとき、ペダルから油圧が伝わってクラッチとフライホイールが密着したり、離れたりする。このときにクラッチを中心で支えているのが「レリーズベアリング」。
レリーズベアリングの中心は通称「天狗の鼻」とも言われるもので、このシャフトの上をクラッチを保持したレリーズベアリングがスライドする。スライドするということは、要するに摩擦するということで、その潤滑としてグリスが塗られている。
ここはエンジンのすぐ近くで、真横ではクラッチ板も摩擦しているのでそれなりの熱を受けている部分。それでいてエンジンオイルのようにオイルが循環するわけではなく、グリスのみの潤滑なのでそれなりに厳しい部分だ。とはいえ、多くのクルマでは10万kmくらいはノートラブルで使える部分でもある。
さて、このレリーズベアリングが傷みやすくトラブルが多い部分だったというのが初代86/BRZの特徴。
具体的にはレリーズベアリング側もシャフト側も減ってしまって、クラッチにガタが出てしまう(そうなると最終的にはクラッチがきちんと機能してしまわなくなってしまうことがある)。
もちろん頻繁に重大なトラブル起きるわけではなく、メーカーが回収して改善するほどでもない。しかし、10万kmも走るとほぼ間違いなく摩耗は起きていて、クラッチ交換時にレリーズベアリングはもちろん、天狗の鼻も交換が必要となる。
それくらいならまだいいのだが、サーキット走行などで負荷をいろいろと与えていると、大きなガタが生まれてクラッチ切れ不良なども起きる。というわけで、早めに対策を施すのがオススメなのだ。
以前、初代86後期に乗っていた筆者・加茂だが、1万kmほどでミッションを下ろして確認したことろ、すでにベアリングとシャフトの摩耗は始まっていた。
対策はベアリングの容量アップとグリスの変更
そこでこの件に目をつけたのが、スーパーオートバックスナゴヤベイの加藤修一さん。
量販店でありながらWRX STIや86/BRZのプロショップとして知られるお店。WRX STIでは筑波サーキットでのタイムアタックでトップタイムをマークするほどの腕前なのだ。
もちろん顧客には86/BRZがとても多く、これまでも多くのクラッチトラブルに接してきた。
「距離がかさんでいる車両はほぼ間違いなく摩耗しています。加茂さんの初代86でもわかるように、距離が浅いうちから摩耗がはじまっています」と加藤さん。
そこで加藤さんが施した対策はふたつ。
まずひとつはオリジナルでレリーズベアリングを製作したこと。他車種の純正品にも使われているサイズの大きなベアリングをチョイス。それに専用でアタッチメントを製作して、86/BRZで使えるようにした。
ベアリングが大きくなったこととアタッチメントの形状によって、レリーズベアリングがスライドして摩耗する範囲が倍以上になり、多くの面積で受け止めることでノーマルよりも遥かに摩耗しにくくなった。
そして次にグリスをスバルの純正から変更。実績あるこれも他車種の純正品にした。
「オリジナルのベアリングと他車種のグリスにすることで対策した車両は、その後10万km以上走って、再び摩耗を確認しましたがまったくダメージがなく良い状態でした」とのことである。
GR86では……とくに変更ナシ!
新型ではこの部分は変わっているのか、加茂のGR86で早速ミッションを下ろして確認してみたが、とくに部品は変更はされていなかった。
トヨタやスバルとしてもそれほど大きな問題とは認識していないということだろう。普通に乗って、普通に3年とか5年で乗り換えるならほぼ問題は起きないということでもある。
だが、かなりの距離を走ったり、サーキットを走る使い方をする場合、初代86と同じようにベアリングとシャフトの摩耗が起きやすいということでもある。
そこで加茂のGR86は、早速ベアリングとグリスを変更することにした。トラブルを防ぐ予防整備というか、予防チューニングである。
ベアリングの容量が増えたことでペダルのタッチもややしっかり感が出た印象だ。ここについては、また数万km走行後に摩耗具合を確認してみたい。