やはりブルーには晴天が似合う!「いちご一会とちぎ国体」開会式でブルーインパルスが飛んだ【自衛隊新戦力図鑑|航空自衛隊】

9月30日、栃木国体の開会式を明日に控えた予行日、スモークを曳いた航過飛行を行なうブルーインパルス。
航空自衛隊のアクロバット飛行チーム「ブルーインパルス」は栃木国体の開会式で記念飛行を行なった。これは第77回国民体育大会「いちご一会とちぎ国体」総合開会式の式典が栃木県宇都宮市のカンセキスタジアムとちぎで行なわれ、その祝賀飛行となるもの。秋晴れの空に白い機体とスモークが映えた。

TEXT&PHOTO:貝方士英樹(KAIHOSHI Hideki)

栃木県ではなんと42年ぶり

2022年10月1日、栃木県宇都宮市で第77回国民体育大会「いちご一会とちぎ国体」総合開会式の式典が、メイン会場となる「カンセキスタジアムとちぎ」で開かれ、ブルーインパルスが展示飛行を行なった。

ご存知のようにインパルスは全国各地の航空自衛隊基地で行なわれる、いわゆる「航空祭」以外でもフライトしている。先の9月23日には西九州新幹線開業イベントとして長崎上空を飛んだ。
これらは行事や催事を記念する祝賀飛行などと呼ばれるもので、今回の栃木国体もそれに当たる。

ちなみにこの栃木国体、地元・下野新聞の記事によると新型コロナウイルスの影響で国体としては3年ぶりの開催。栃木県では1980年の栃の葉国体以来、42年ぶりとなるものだそうだ。
筆者は前日の9月30日早朝に現地へ入り、開会式会場となる「カンセキスタジアムとちぎ」のある栃木県総合運動公園に立った。

台風14号接近中の小松上空をブルーが飛んだ!【自衛隊新戦力図鑑|航空自衛隊】

前回に続き、航空自衛隊・小松基地で行われた航空祭レポートの続編です。約3年ぶりに本格開催された小松航空祭では所属戦闘機の展示やデモ飛行に加え、空自アクロチーム・ブルーインパルスの展示飛行も行なわれた。だが、開催予定日は台風14号が接近中。小松基地のある石川県・北陸地方を直撃するコースが予想されていた。状況は松島基地航空祭に続き、空模様に気を揉むことになった。 TEXT&PHOTO:貝方士英樹(KAIHOSHI Hideki)

ここは敷地面積約50万km²の運動公園と栃の木ファミリーランドからなる広大なエリアで、水・陸の体育施設を備えた「県民総スポーツの推進拠点」だという。
開会式会場の「カンセキスタジアムとちぎ」は2020年7月に開場した収容人数約2万5000人という大きな施設だ。陸上競技やサッカーなどを行なう球技場としても使用され、総合運動公園の北西部に位置している。

スタジアムの形状は長円形で、白い膜屋根が全体を覆いながら中央部分は開口している。開会式で入場した方々はこの開口部分からインパルスの飛行を見ることになる。そして9月30日はインパルスの予行飛行(予行は、10月1日の開会式本番に飛行を開始する時刻と同様の14時すぎに始まった)が行なわれた。

9月30日の栃木国体予行日、松島から宇都宮へ飛来した直後、まずはスモークを焚かない航過で「カンセキスタジアムとちぎ」の上空付近を通過し、旋回中のインパルス。

30日の14時6分ごろ、南西の方角に三角形の隊形を組んだ6機のインパルスが現れた。
そのまま直進しスモークは曳かず、スタジアムから少し距離を取ったコースで航過飛行、北東の方角へ進む。隊形を保ったままの直線的な飛行だ。
スタジアムの位置や高度などを確認しながら飛んでいるように見える。速度もゆっくりだ。その後、旋回し西の方角へ離れてゆく。

それから約3分後、同じように南西から飛来し、今度はスタジアムへ近づいて北東へ航過飛行し、前回同様に西へ旋回し離脱してゆく。

そして14時26分ごろ、同じく南西から進入し運動公園の上空で発煙開始、スモークを曳いたままスタジアム近くの上空を通過して、5機が東へ1機が西へと別れて旋回、離脱してゆく。それから数分後、5機が東から飛来し会場上空で上昇、5方向に散開する課目「サンライズ」を見せた。地上から見ていると、栃の木ファミリーランドのコースターや観覧車の上で開花しているように見えて面白い。

同じく30日の予行日。デルタ隊形での航過飛行は複数回、行なわれた。栃の木ファミリーランドの観覧車越しに捉える。

さらにその後に2回、航過飛行から「サンライズ」へ移る飛行を連続して行なった。これは10月1日の本番日、栃木国体開会式の祝賀飛行では、6機が隊形を組んだ航過飛行と5機による「サンライズ」を展示するということだろう。

予行のあと、現地で撮影・見学していた一部のインパルスファンの間で話題となったのは発煙開始から停止までの距離の短さだった。ある人は、これは開会式でスタジアム内にいる人々が開口部越しに見える範囲を考慮してのものだろうという。スタジアムの外で見ている我々には短いスモークでも、開会式場内からは充分なものに見えるはずという意味だ。さらに、スタジアム直上を飛ばないのは天皇皇后両陛下が開会式会場へご臨席されることへの配慮、両陛下の頭上を飛行するのは不敬、そういう状況を避ける意味もあるのではないかと推測する声も聞こえた。

たしかに、予行後にスタジアムから退出してくる車両群にインパルスの制服を着た集団が乗った1台があり(彼らはおそらくスタジアム内から飛行コースなどの観測と調整指示などを交信・連絡する地上班だろうと思われる)、彼らが、両陛下の着座位置を主にして、スタジアムの開口部越しに斜め上にちょうどよく見えるように飛行コースと高度、発煙時期を調整していたのだとすれば、インパルスファンの推測を裏づけるものと考えられなくもない。

素敵な現代版「子連れ狼」

ちなみに当日のスタジアム周辺には皇室ファンとインパルスファンが混在する状況だったが、陸路を車両移動される両陛下をお迎えしたい皇室ファンと、空を見渡せる場所を求めるインパルスファンは結果的に各々居場所を分けて活動することになっていた。もちろんスタジアムの周囲にいたのは両者だけではなく地元の方など一般層も多かったわけで、総合運動公園への交通規制や雑踏警備は大きなトラブルや混乱もないようで、栃木県警の警備計画どおり無事・無難であった様子だ。

脱線するが、ブルーインパルスファンについて。インパルスが全国各地で展示飛行や記念飛行などを行なうのに合わせ遠征するファン層には経験豊富な方々が多く、彼らはインパルスが初めて飛行する地域・会場であっても方角や太陽の位置から飛行コースを推測、自分の立つ最適な位置を割り出して臨むことを自然に行なう。

事前の情報収集も念入りだ。本人の趣味だから当然なのかもしれないが、遠距離の旅程や状況により現地で発生する長距離の徒歩移動も厭わない。場合によっては「長い待ち時間」が発生することなども含め、傍目から見れば疑問に映るような骨折りや苦労をしたとしても、それは本人には楽しみに変換されているはずだ。

ハードな活動に対応する個人装備品も、吟味されたものを携えている(効率化や疲労軽減などを重視)。
これはたとえば鉄道趣味でいう「乗り鉄」や「撮り鉄」、自動車やオートバイのレース観戦やイベント参加、またアイドルなどのファンの世界でも同様な行動様式で展開されているから特別なことではない。趣味の世界は、より深い方向へ進み磨かれていくからこそおもしろい。

予行日の「サンライズ」。栃の木ファミリーランドの上で5方向に散開する。撮影者群の最前列では金融機関系と思しき制服姿の女性ファンが望遠レンズをセットしたカメラを向けている。近隣の企業OLさんだろうか、単身でインパルスを『追う』背中が熱い。

さて、ブルーインパルスを『追う』趣味活動を行なう老若男女のなかでは、女性ファン比率が比較的多い。単身や複数で全国を駆ける猛者たちだ。デジタル一眼レフやミラーレスに望遠レンズをセットした撮影機材と航空無線のレシーバーを携えた撮影ガチ装備で臨む女性も多く見かける。

栃木にはベビーカーを押しながらそうしたガチ装備を携行する「ママさん」もいた。我が子の面倒を見ながら望遠レンズで流し撮りをする姿は「子連れ狼」を連想させてとても素敵だ。
加えて「家族でファン」であるファミリー層も多く、たとえば長男が双眼鏡で機影を追い、ママは撮影、パパはまだ幼い娘を乗せたベビーカーの運用担当というような感じ。

家族そろって同じ空を見上げるのは良い気持ちだろう。そもそも青空を飛ぶ飛行機とその航跡という鮮やかな光景には年齢や性別も関係なく惹きつけられるものがある。そのなかでも多様なファンに支持されるのがインパルスの世界。

そして10月1日の国体開会式。前日の予行では複数回の飛行で最適なコースを確かめていたインパルスだが、本番は一発勝負であることが予想できた。航過飛行と「サンライズ」を各々一回だけ行なうはずだ。

10月1日、栃木国体開会式の本番日。スモークの航跡を長く捉えようと考え撮影場所を「カンセキスタジアムとちぎ」の北側寄りに変更。そして14時27分ごろ、快晴の宇都宮の空に白いスモークを曳いて6機が航過した。

そして14時27分ごろ、インパルスは快晴の宇都宮の空に白いスモークを曳いて航過し、一旦離脱して2分後に「サンライズ」を描いた。
ごく短時間で終わるのが記念・祝賀飛行というものだ。スタジアムの周囲で見ていた人々はもう少し見たい気持ちはありながらも、満足そうに帰路に着いていた。

同じく本番日の「サンライズ」。国体開会式の会場、スタジアムからは文字通り日の出のように、または花が咲くようにも見えたと思う。

航空自衛隊新戦力図鑑 戦闘機、ヘリコプター、ブルーインパルス……日本の空を守る

Motor-Fan.jpの人気連載「自衛隊新戦力図鑑」。日本を守る陸・海・空自衛隊には、テクノロジーの粋を集めた最新兵器が配備されている。普段はなかなかじっくり見る機会がない最新兵器たち。ここでは、航空自衛隊の装備を解説する。

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著者プロフィール

貝方士英樹 近影

貝方士英樹

名字は「かいほし」と読む。やや難読名字で、世帯数もごく少数の1964年東京都生まれ。三栄書房(現・三栄…