スバル「クロストレック」にFFが新設定されたワケは?コスパ重視の若者世代は「4WDは不要」と判断?

クロストレックFF走り
FFはフロントタイヤが限界に近づくとアクセルを戻して曲がるのを待つしかない。
SUBARU XVが、スバル・クロストレックとして生まれ変わる。XVとクロストレックの大きな違いといえば、1.6L車の廃止と2.0L・FFの新設定だ。はたして2.0LマイルドハイブリッドのFFを用意した背景とは? そしてスバルのコアテクノロジーであるシンメトリカルAWDではないクロスオーバーSUVは、どんな走りを見せるのか。プロトタイプを試乗して確認してみた。
REPORT:山本晋也(YAMAMOTO Shinya)

賢い買い物を求める世代は4WDを不要と考えている

クロストレックAWD
FFとAWDの識別ポイントは、テールゲートの「シンメトリカルAWD」デカールの有無。

完全に予想外だった。

スバルから登場する新型クロスオーバーSUV「クロストレック」には、同ブランドのコアテクノロジーであるシンメトリカルAWDに加えて、FF車も用意されることが明らかとなった。

スバルのSUVといえば、AWDの走破性やスタビリティをセールスポイントとしてきたのがこれまでの流れ。口の悪いクルマ好きはFFのクロスオーバーSUVのことを「なんちゃってSUV」などと揶揄することもあるが、スバルというブランドには、そうした軟弱なイメージがないのも事実。はたして、どのような狙いからクロストレックにFFを設定することになったのだろうか。

今回、プロトタイプに試乗する機会を与えられたのと同時に、開発責任者となる商品企画本部の毛塚紹一郎 氏に話を聞くこともできた。単刀直入に、FFを設定した理由を尋ねると、その回答はいたってシンプルで「お客様のニーズが高く、それに応えたカタチになります」というものだった。

クロストレックFF走り
FFでも四輪接地感の高さは共通。アクセルで曲がっていく感覚はないが、クイックな動きをみせ、加速感はAWDを凌ぐ。

現時点で、FFを用意するのは日本市場だけとなるということだが、その理由について毛塚氏は「日本にはとても合理的なお客様が多く、不要な4WDはいらない(だからスバルのSUVは買わない)という話があるのです」という。

スバルのアイデンティティであるシンメトリカルAWDを否定するというのは、ブランドとしては痛し痒しかもしれないが、たしかに「コスパ」をキーワードに”賢い買い物”を重視する世代にとっては4WDの走破性というのは無駄な機能と感じられるのかもしれない。4WDしか設定していないことでみすみすセールスの機会を逃しているのだとすれば、FFを用意するという判断もまた合理的といえる。

FFの加速は鋭く、ハンドリングも軽快。4WD制御も進化した

というわけで、ここではクロストレック(プロトタイプ)の試乗において感じられたFFと4WDの違いを中心にレポートしていきたい。

ここで並べた写真は、いずれも同じコーナーで定点的にFFと4WDの走りを比較したもの。舵角とロールが大きいのが4WDとなっているが、同じコーナーであっても旋回スピードが異なるからだ。

ドライバーのスキルによって結果は異なるかもしれないが、筆者のような一般レベルのスキルでは4WDのほうが明らかに速くコーナリングすることができた。その理由は単純で、4WDはコーナリング中にアクセルをはやめに踏み込むことができるが、同じポイントでFFのアクセルを踏み込むとアンダーステアが出て曲がらないためアクセルを踏めない領域が少々長くなってしまうからだ。

クロストレックAWD
AWDの特徴は、ステアリングを切りながらアクセルを適度に踏んでいくと、駆動力で曲がっていく感覚があるところ。

サスペンションセッティングについてはタイヤサイズ(18インチと17インチを設定する予定)に合わせて変えていることはないというが、駆動方式による違いはあるという。実際のバネレートはさておき、個人的にはFFはクイックに動くよう味つけられていると感じた。車重もFFが軽いはずで、アクセルを踏んだときの加速感もFFのほうが鋭い。

かといって、FFはリヤのグリップを落として曲がり始めのクイックさを演出しているわけではなさそうだ。実際、大きめのコーナーをオーバースピード気味に走り抜けようとすると、FFであっても四輪のタイヤからスキール音が聞こえてくる。これは四輪が同じように接地していることを示している。

もちろん、リヤ荷重が大きく、駆動配分制御も取り込んでいる4WDのほうが四輪接地感は大きく、スバルらしいスタビリティを感じることができる。さらに駆動力で曲がるような味つけもされているようだ。これも4WDのほうがアクセルを踏み込むタイミングを早くできる理由となっている。

個人的にはタイヤを変えるともっと気持ちよくなりそうと感じた

まとめると、クロストレックの4WDはスバルのクロスオーバーSUVが伝統的に示してきたスタビリティを保ちつつ、駆動力制御によって曲がる性能を高めている。それはWRXシリーズほどではないが、クロストレックのスタイルにスポーティさを期待するユーザーを満足させるには十分すぎるレベルに仕上がっているといえそうだ。

一方、新設定されたFFはアーバンSUVとして走らせるユーザーのニーズをくみ取り、俊敏性を表現するキャラクターに仕上がっている。想像以上に駆動方式によって走りのテイストが差別化してあるといえる。ともすれば4WDが上級で、FFは廉価版という風に捉えてしまうかもしれないが、クロストレックについては求める走りのキャラによって選ぶべき駆動方式が変わってくるといえそうだ。

クロストレック18インチタイヤ
上級グレードは225/55-18サイズのタイヤを履く。プロトタイプではファルケン・ジークスZE001A A/Sという銘柄だった。

さて、駆動方式にかかわらず非常に気持ちよく走れるというのが全体としての印象だが、気になったのはタイヤの特性だ。プロトタイプが履いていたタイヤは、ノイズも抑えられているし、転がり抵抗についても優秀なのだろうと想像させるフィーリングだったが、55偏平のタイヤとしてはショルダー部分がやわらかく、変形具合が気になる部分もあったのだ。

サスペンションがしっかりストロークしてタイヤを接地させるというセッティングは大歓迎だが、荷重が増していったところでタイヤが腰砕けになるような瞬間もあった。とくにキビキビ感の強いFF車については、トレッド全体で支えることのできるカチッとしたタイヤのほうが、キャラクターが際立ってきそうに思えた。

このあたり、公道での試乗や17インチ仕様との比較などができれば答えが見えてくるかもしれないが、少なくともハイグリップにすれば解決する問題ではないということはお伝えしておきたい。

クロストレック7カラー
ボディカラーは7色を用意。クリスタルホワイトパール/マグネタイトグレー/オフショアブルー/クリスタルブラックシリカ/ピュアレッド/サファイアブルー/オアシスブルーとなる模様。
SUBARUクロストレック上級グレード(プロトタイプ参考値)
全長×全幅×全高:4480mm×1800mm×1580mm
ホイールベース:2670mm
最小回転半径 5.4m
最低地上高:200mm
車両重量:1540~1620kg
排気量:1984cc
エンジン:水平対向4気筒DOHC直噴+モーター
駆動方式:FWD/AWD
トランスミッション:CVT
タイヤサイズ:225/55R18
乗車定員:5名

スバル・クロストレック試乗! 重厚でしなやかなAWD、軽快感が際立つFFモデル【プロトタイプ試乗記】

インプレッサのクロスオーバーモデル、「XV」が、本家インプレッサに先んじてフルモデルチェンジ。車名も北米同様「クロストレック」に統一された。クロストレックが派生モデルから独立モデルに“飛び級”したのは、昨今のSUV需要を反映してのものだろう。スバルにはこのクルマを、同社のベーシックモデルとして、若年層へアピールする狙いもあるようだ。 REPORT:山田弘樹(YAMADA Koki) PHOTO:中野幸次(NAKANO Koji)

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著者プロフィール

山本 晋也 近影

山本 晋也

1969年生まれ。編集者を経て、過去と未来をつなぐ視点から自動車業界を俯瞰することをモットーに自動車コ…