88歳、米寿のRX-8オーナーに訊く。「新車購入以来、ずっとマニュアル車に乗り続けてきたことが健康の秘訣」

著者の実父、出来丈弘(でき・たけひろ)は88歳で米寿を迎えたが、MTのRX-8初期型を新車購入して以来、20年近く元気に運転し続けている。健康の秘訣は「マニュアル車に乗り続けてきたこと」。高齢者の事故が頻発する昨今、クルマとの付き合い方のヒントを得るべく、米寿のお祝いの席で話を聞いてみた。
REPORT:出来利弘(DEKI Toshihiro)

脳で考え、身体を動かすことは老化防止にも繋がる

RX−8タイプS 6MTを2003年の発売前に予約して、初期型を購入。それ以来、20年間、乗り続けている。フロントバンパーとホイールは派手すぎないデザインのものへ変更している。

私は鹿児島県出身で、大学卒業後は日立製作所という会社で医療機器のレントゲンや超音波の設計をして、そのあとは会社の中で全体のまとめ役をしていました。


クルマは昔から好きで、免許を取ってすぐに購入したのは日産ブルーバード510スタンダード、その後、SSSが欲しくなって510SSSに乗り換えて、四角い4灯式ヘッドライトの日産ブルーバードSSS(811)、DOHCエンジンで160PS、リトラクタブルヘッドライトのホンダプレリュード2.0Si 5MT、ユーノスロードスター1600スペシャルパッケージの5MT(NA6CE)など乗りました。2003年、現役最後の頃、68歳の時にマツダRX-8タイプS 6MTを新車発売前に予約して購入しました。それに、もう20年近く乗っています。

RX-8は世界唯一のロータリーエンジンによる低いボンネットと高い静粛性、長距離ドライブでの振動の少なさ、乗り心地の良さがお気に入りだ。

「88歳を迎えるのになぜ、そんなに元気にクルマが運転できるのですか?」と最近よく聞かれます。もちろん、食事や健康に気をつけてはいますが、それに加えて、「クルマに乗って色々なところへ行ってみたいという好奇心」それと「マニュアル車に乗り続けてきた」ことが良かったのだと思います。マニュアル車の運転はやはり難しいですが、長年乗っていると、操作が身体に染み付いて習慣化し、自動的に手足が動くようになる。それが脳と身体のトレーニングになるのだと思います。

オートマチック車はクルマが勝手にギヤを選んで走ってくれるからドライバーは何も考えなくて良いですが、マニュアル車は、ドライバーがギヤチェンジを適切にやらないとギクシャクとハンチングしたりしますよね。ドライバーが速度計を見たり、エンジン音を聞きながら、減速したり、加速したり、ほぼ無意識に適切なギヤに変えることでスムーズに走ることが出来る。

でもそれは、脳のどこかを使い、頭の中に刷り込まれたもので、身体を動かしている。そうやって運転できるのは、実はとても凄いことなのです。オートマチック車は確かに楽だけれど、これがないから、アクセルとブレーキの踏み間違えも起こるのではないかと私は感じています。

20年近く乗り続けたRX-8は、まるで自分の体の一部のように、車幅感覚やサイズ感が手に取るようにわかる。

世の中が便利になると、人間は退化する

マニュアル車での渋滞は確かに大変ですが、ニュートラルをうまく使ってスムーズに走らせるには頭を使いますし、繰り返し半クラッチの動作をするのは足の運動にもなります。慣れればなんてことないし、老化防止に役立っているのではないでしょうか。もし、楽をしたいなと思い、オートマチック車に乗って満足していたら、おそらく今頃、クルマの運転は続けていなかったかもしれないですね。

最初は誰だってマニュアル車の運転は難しいですよ。私も最初は自動車教習所の先生に「お前はギヤチェンジが遅い!」って怒鳴られて、足を蹴飛ばされて、憶えたものです。「運転ってこんなに難しいのか」と落ち込みましたけど、大好きなクルマに乗りたいですから、頑張って免許を取りました。でも長年マニュアル車を運転していると自然に自分の身体が全部操作を憶えるんですよね。だんだんと上手くなって、そのうち無意識にマニュアル車を乗れるようになりました。

今はやっぱり「世の中が便利」になったことで「人間が退化」しているというか、ちょっとバカになってきているように感じますね。私も今の時代に生きて若者だったら、マニュアル車の免許取れていたか、わかりません。でも「本当にこのままでいいのかな?」と、最近よく思いますね。

例えば大切な人の電話番号を昔はたくさん憶えたけれど、今はそんなこと必要ない。自動運転なんか始まったら、道も覚えなくなるでしょうね。今でもナビを見るのが当たり前で地図を見ないでしょう。私は古い人間だから出かける前に地図で首都高の分岐なんかも道を覚えて、出発します。それも脳のトレーニングには良いのかもしれません。

自分の思い通りに動かせるのは最高の贅沢

米寿を迎えても、これまでと変わらず、マニュアル車に乗り続ける。

オートマチック車を購入しようとしたことは一度もありません。なぜかというとそれは「安っぽい」からですよ。だって、アクセルとブレーキしかついてないでしょう。確かに便利なのかもしれないけれど、マニュアル車はそれにクラッチが付く。やっぱりクルマっていう機械に多く関わって「動かしたい」から買うわけですから。なるべく自分の意思でクルマ(機械)を動かせる方が「高級」というか、「良いもの(機械)」に触れたと思えるんですね。

マニュアル車に乗るのは「とても気分が良い」ものです。クルマが自分の思い通りになるのは最高の贅沢です。そういった意味で両方知っている私としては、オートマチック車は乗る度になんか、簡易的な安っぽい機械を触らされている気分になるんです。自分で乗るなら、マニュアル車以外は考えられないですね。

今は公民館などでExcelやWordの高度な使い方を教える先生をしていて、Zoomでリモート授業したり、生徒との交流を楽しんでいます。おかげで今のところ、不安なく毎日楽しくドライブできていますが、あと13年生きたら1世紀も生きたことになる。それまでクルマに乗れたら最高なのですが、それはまあ難しいかな。

これからもRX-8と共に100歳を目指して、走り続ける。

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著者プロフィール

出来利弘 近影

出来利弘

1969年千葉県出身だが、5歳から19歳まで大阪府で育つ。現在は神奈川県横浜市在住。自動車雑誌出版社でアル…