第一世代GT-Rのなかで最も多い台数が残存しているハコスカ・ハードトップGT-R。1970年に追加された2ドアハードトップボディはレースでの優位性を保つための処置だったが、同時にスポーティなルックスまで手に入れることになりスカイライン人気に拍車をかけた存在だといえる。ハコスカGT-Rはそれまでセダンだけだったが、このハードトップが発売されたことでラインナップから外れてしまう。
またレースでもハードトップGT-Rは圧倒的な強さを見せたから、当時も今もセダンより人気が高い。今やハコスカのハードトップGT-Rは天井知らずの中古車相場になっているが、当時としては桁外れの高性能車であり、それを50年以上経た現在まで調子良く保つには相応の金額がかかって当たり前。決して法外な中古車相場ではないのだ。
今回紹介するハードトップGT-Rは一見しただけでノーマルにこだわって維持されているとわかる1台。純正スチールホイールは細く、オーバーフェンダーを装備するリヤ側だと極端にタイヤが内側に入っているように見えるため、一般的にはワイドホイールにしたりスペーサーで外へ出すもの。ところがこのGT-Rはタイヤが奥へ引っ込んだまま。しかも定番パーツであるリヤスポイラーすら装備されていない。これはきっとこだわりのあるオーナーなのだろうと、お話を聞いた。オーナーは49歳の山口由雄さんで、長いことハコスカGT-Rに憧れてきた人だった。
このGT-Rを手に入れたのは2002年のことだというから、今のように中古車相場が暴騰する前のこと。といっても格安で買えたわけではなく、相応の金額で専門店から購入されている。当初はローダウンしたサスペンションにアルミホイールを履き、エンジンには純正より大径なミクニ・ソレックス44キャブレターを装備するライトなモディファイが施されていた。
’60年代から’70年代にかけての国産車は未舗装路がまだまだ多かった時代の名残りで車高が高めに設定されていたため、ローダウンしてワイドホイールを履くことが一般的だった。またキャブレター時代の旧車だと吸排気音を楽しみたいからと、キャブレターだけでなくエキゾーストマニホールドからマフラーまで大口径タイプにしてあることも多い。ただ、これには弊害がある。
この当時のクルマにはパワーステアリングなどないから、ローダウン+ワイドタイヤ仕様だとステアリングが非常に重い。据え切りなどできないくらいに感じるケースが多々あり、とても日常的に乗ろうなどと思えなくなる。また吸排気系をモディファイした旧車の多くは燃費が極端に悪くなる。さらにスパークプラグがカブリがちになり、普通に乗るだけでもアクセルを煽り気味になる。これまた日常的に乗りたくない仕様になってしまうのだ。
オーナーの山口さんはライトなモディファイを楽しむことより、ノーマルであることを優先した。コイルスプリングを切っってローダウンされていたサスペンションはノーマルコイルを探して交換。キャブレターも純正のソレックス40に戻しつつ、純正エアクリーナーケースまで装着している。ファンネル仕様で乗られることが多いものだが、エアクリーナーケースがあるとエンジンの寿命にも効果的だ。
ただ、いたずら心は忘れていない。ハコスカGT-Rが旧プリンス陣営による設計だったことに敬意を払い、見える場所にプリンスのPマークを追加している。それがラジエターグリルにあるPエンブレムで、これはS54スカイライン2000GT-Bのもの。意外にも違和感なく収まっている。そして面白いのがエンジンルーム。ボンネットを開けるとお馴染みの光景なのだが、少々違和感がある。
ヘッドカバーに本来ならNISSAN 2000の文字が鋳込まれているS20型なのだが、この個体ではPRINCE 2000となっているのだ。不思議に思い質問してみると、これは都内の専門店が独自に製造したもので、プリンスマニアに向けて小ロットだけ市販されたそうだ。ガチガチのノーマル主義者ではなく、適度に遊び心を持ったオーナーとGT-Rの付き合い方には、肩肘張らない楽しさがありそうに感じられた。