日産キックスのパワートレーンは、日産が「e-POWER」と呼ぶシリーズハイブリッドのみだ。1.2ℓ直3自然吸気エンジンは発電専用。駆動はEM57型モーター(129ps/260Nm)が担う。電動車の魅力をバッテリー切れの心配なく味わえるのがe-POWERのウリである。
キックスのe-POWERは、e-POWERの第三弾(先代ノート、セレナに次いで)だ。当初は(勝手に)次期ジュークがエンジンとモーターも含めて全面的に改良した「e-POWER Gen.2」を積んでデビューするのだと思い込んでいた。
蓋を開けてみれば、ジュークではなくキックス(すでにグローバルで北米を中心に売られていたモデル)で、e-POWERもHR12DE型+EM57型交流同期モーター(リーフ、先代ノートとセレナe-POWERが採用している)、言ってみればe-POWER Gen.1だったから、正直言ってちょっと拍子抜けしたのも事実だった。
試乗会で短時間ドライブしたときの印象は、「あれっなかなかいいじゃないか」というポジティブなものだった。その際にエンジニアに聞いた「キックスのe-POWERは、これまでのe-POWERの使い方を分析してネガをすべて消した『e-POWERの第一段階の完成形』です。80km/h以下なら最強です」という言葉が印象に残っている。
80km/h以下最強というのは燃費のことで、80km/hを超える、高速巡航ではエンジンで発電してモーターで駆動するよりエンジンで直接駆動する方が効率が高いという意味だ。これは、キックスの、いやe-POWERの弱点というより「性格」である。高速になったらエンジンで駆動するようにすればいいじゃないかと思う人もいるだろうが、そうしたらシステムは重く価格も高くなってしまう。e-POWERはモーター駆動の気持ちよさをバッテリー切れの心配なしに味わえるのが良いところなのだ。毎日、高速道路を100km/h以上で長距離走る人はe-POWERではなく、ほかのパワートレーンを選ぶのが賢明だ。
というわけで、「80km/h以下最強」を確かめるために、今回は最高速度を80km/hに決めて試乗することにした。
まずは、横浜の日産グローバル本社の地下で鮮やかなイエローのキックスを預かって首都高速を使って東新宿の編集部に戻る。やや混雑した平日の首都高はMAX80km/hの速度で流れている。Pro PILOTを使って速度は80km/hに設定して前が空いても80km/hを超えないようにして約50km離れた編集部を目指す。
ご存知の通り、日本の夏は過酷だ。この日も外気温計は38℃を示していた。日産車に(ほかの国産車も、だが)乗っていつも思うのはエアコンの優秀さだ。どんなに外が暑くてもすぐに車内を涼しくしてくれるエアコンは、素晴らしい。この性能はドイツ車も含めて輸入車がなかなか太刀打ちできない分野だろう。
快適なドライブで編集部に到着。燃費計は24.4km/ℓを示していた。借り出したこの広報車両の過去最高燃費(20.4km/ℓ)だったので、「ベスト燃費を更新しますか?」とモニターに出てきた。WLTCモード燃費が21.6km/ℓだから、それも大幅に超えている。
「確かに80km/h以下、素晴らしいな」とまず実感した。
都内〜三浦半島の一般道、230km走ってみたら
次は、いつもの試乗コース(都内~三浦半島往復)をドライブした。都内~第三京浜道路~横浜新道~横浜横須賀道路、そして三浦半島の一般道を走る。
キックスは、本当に見事にノートやセレナe-POWERのネガを消すことに成功している。なんと言っても、ほとんどエンジンの始動・休止・再始動がわからないくらい静かで滑らかだ。エンジンの最高効率点は2400rpmであるのは、先代ノート、セレナと同じ(同じエンジンだから当然か)。この回転数で発電するのが最も効率が高く、燃費はいい。しかし、走行音が低い低速域でいきなり2400rpmまで回すと、エンジン音が耳につく。先代ノートやセレナでは、とても気になった。そこで、キックスのe-POWERは、いったん1600rpmで抑え、車速の上昇とともに徐々に2400rpmまで回転数を上げるようにしている。
80km/hで巡航中にメーター内のインジケーターを見ていると、微妙な勾配、バッテリー容量などによってパワートレーンの振る舞いは違っている。力行・回生・空走・エンジンによる発電と様態はさまざまだが、インジケーターを見ていなかったら、まったくわからない。そのくらい静かだ。
三浦半島の一般道(というより畑の間を縫うような農道)をキックスで走る。軽トラ想定の道路は極めて狭い。そんなところでもキックスなら自信を持って入っていけた。全幅は1760mmあるが、見切りがいい(視点も高い)から、リラックスしてステアリングホイールを握っていられる。
また、微低速のアクセルコントロールのしやすさも、こういうシーンではありがたい。都内の信号待ちで、アイドスルトップするエンジン車が、エンジンの再始動(ブルッと震える)~トランスミッション~車輪が動き出すシチュエーションでもキックスならタイムラグなくドライバーの意思通りにクルマは動いてくれる。これが気持ちいい。変速ショックも(当たり前だが)ない。モーター駆動を味わうと、CVT(無段変速)のシームレスな感じよりももっと右足と車輪がくっついている感じがする。
車内のNV性能が上がったという説明を聞いていたので、ドライブにはCDを持ち込んだ。あまりオーディオの音には期待をしていなかった(失礼!)のだが、これが望外にいい音(聴きやすいメリハリがきいた音)で、キックスの好印象にひと役買ってくれた。音楽を楽しめるクルマはいいクルマ(の可能性が高い)である。
今回はスピードの上限を80km/hに決めてドライブした。高速道路ではほぼプロパイロットで走行したが、日産は力を入れているだけあって、使いやすいし動作も洗練されている。
丸一日、キックスをドライブして、好印象はさらに強まった。内装が少し安っぽいところがあったり、後席の余裕が(横方向で)ちょっと足りないかな、というところはあったりするが、このサイズ、この乗り味、この仕上がりはかなりいい。230km走ってトータルの燃費は19.0km/ℓ(平均時速33km/h)だった。
WLTCモード(21.6km/ℓ)の88%。酷暑でエアコンがフル稼働という条件を考えればなかなかの燃費性能だと言える。モード燃費は
市街地モード26.8km/ℓ
郊外モード20.2km/ℓ
高速道路モード20.8km/ℓ
であることからわかるように、キックスがもっとも得意とするのは加減速(回生の取り分が多い)が多い市街地である。今回80km/h巡航のシーンが多かったのが19.0km/ℓの燃費に繋がったのだろう。
今回のドライブは80km/h以上で走っていないから、高速域の乗り味は確認できていない。だが、80km/h以下最強の言葉には偽りはないことがわかった。繰り返すが、サイズとデザイン(と価格)が気に入って使用するのが市街地・郊外が多い人なら選んでがっかりすることなない。
日産キックス X(FF)
全長×全幅×全高:4290mm×1760mm×1610mm
ホイールベース:2620mm
車重:1350kg
サスペンション:Fストラット式 Rトーションビーム式
エンジン形式:直列3気筒DOHC
エンジン型式:HR12DE
排気量:1198cc
ボア×ストローク:78.0mm×83.6mm
圧縮比:12.0
最高出力:82ps(60kW)/6000rpm
最大トルク:103Nm/3600-5200rpm
過給機:×
燃料供給:PFI
使用燃料:レギュラー
燃料タンク容量:41ℓ
モーター:EM57型交流同期モーター
定格出力:95ps(70kW)
最高出力:129ps(95kW)/4000-8992rpm
最大トルク260Nm/500-3008rpm
最終減速比:7.388
バッテリー容量:1.47kWh
駆動方式:FF
WLTCモード燃費:21.6km/ℓ
市街地モード26.8km/ℓ
郊外モード20.2km/ℓ
高速道路モード20.8km/ℓ
車両価格○275万9900円
OP:インテリジェントアラウンドビューモニター&インテリジェントルームミラー6万9300円/サンライトイエロー3万8500円 前席シートヒーター&ステアリングヒーター+寒冷地仕様5万5000円
ナビレコパック+ETC2.0 30万8629円