フォルクワーゲンID.4 VWの本気のBEV 充電は? 走りは? サポートは?

VW ID.4 Pro Launch Edition 車両価格:636万5000円
電動化へ舵を切ったVWがBEV専用のプラットフォーム、MEBを使って開発した電気SUVがID.4だ。ID.シリーズの主力車種にして世界戦略車、ID.4を試してみた。
TEXT & PHOTO:世良耕太(SERA Kota)

万全のサポート体制

Pro Launch Editionの価格は636万5000円 Lite Launch Editionは499万9000円
VWの電動車ブランド「ID.」はどんどん拡大している。ID.4は世界戦略モデルだ。
ID.4とティグアンは、サイズ的にはオーバーラップする。
取り回しの良さもティグアンと同等。
ID.シリーズは電動車専用プラットフォーム、MEBを使う。
コンベのプラットフォームはMQB、電動車はMEBだ。

フォルクスワーゲン ジャパン(VW)は2022年11月22日、フル電動SUVのID.4(アイディー・フォー)を発売した。VW初の電気自動車(BEV)と言いたいところだが、先代ゴルフ7をベースにフル電動化したe-ゴルフという先例がある(2017年10月発売)。ID.4はVWが国内で販売するBEVとしては第2弾となるわけだが、e-ゴルフのときとは力の入れ具合が異なる。e-ゴルフの販売を通じて得たユーザーの反応を売り方やサービスに生かしたのだろう。ID.4の発売に合わせてサポート体制を充実させた。

VWは全国246の正規販売店のうち、156拠点をID.4取り扱い店舗とした。これらの店舗には最大出力90kW以上の急速充電器を順次設置する。VWの電気自動車に乗っているユーザー(現状はID.4のみ)は、24時間365日利用することが可能。利用は課金アプリ(詳細は後述)によって行なう。また、ID.4の新車購入時には、e-Mobility Powerが提供する日本全国の充電ネットワークが利用できるVolkswagen充電カードの年会費ならびに毎月90分までの急速充電器の利用料金を1年間無償で提供する。

PCAはアウディ、ポルシェ、VW3ブランドのBEVオーナーに向け、各ブランドのディーラーネットワークまたは都市部に展開する急速充電器ネットワークを統合し、日本国内の充電サービスを提供する。

ID.4の発売に合わせ、VWはプレミアムチャージングアライアンス(PCA)に加盟した。PCAはアウディ、ポルシェ、VW3ブランドのBEVオーナーに向け、各ブランドのディーラーネットワークまたは都市部に展開する急速充電器ネットワークを統合し、日本国内の充電サービスを提供する。ID.4のユーザーはPCAの課金アプリを使うことで、VWの販売店だけでなく、アウディやポルシェの販売店でも急速充電器を使うことができる。

スマートフォンやノートPCは家で充電するのが基本で、出先での充電は予定外に電力を消費してしまった際の緊急避難的な使い方が多いはずだ。BEVとの付き合いも同様で、家で充電するのが理想。とはいえ、外で充電できる環境が整っているほうがありがたいはずで、VWはID.4の発売にあたって、ユーザーの利便性を向上すべく、先回りして手を打ったというわけだ。

家で充電するのが理想と書いたが、「本当にそうなの?」との疑問が湧くかもしれない。また、これまで乗り継いできたエンジン車とどう違うのか。実際のところどれくらい走るのか。どのようなメンテナンスが必要なのか。購入を検討する前に不安や疑問を解消しておきたい。VWはそうした人たちの受け皿となる問い合わせ窓口を開設した。「ID.コンシェルジュサービス」がそれで、通常のお客さま相談室とは別に、BEVに関する質問に特化した24時間365日対応(!)の問い合わせ窓口である。なんとしてもBEVを普及させたいとするVWの意気込みが伝わってくる。

VWはまた、BEV関連知識のスペシャリストである「ID.ジーニアス」資格認定制度を導入。ID.4に関する商品知識はもちろん、BEV全般、家庭用ならびに公共の充電器、さらには政府や地方自治体が設定する補助金に関する知識を身につけたスペシャリストで、VW正規販売店の各拠点に1名が配置される予定だ。「どうぞ納得いくまで検討してBEVを購入してください」というわけだ。

100%エレクトリック 100%VW

では、肝心の商品はどうなのだろう。VWはID.4を「100%エレクトリックなクルマであると同時に、100%VW」と説明している。100%エレクトリックは言わずもがなだが、100%VWに関しては説明が必要だろう。VWは、「高い実用性を備えており、走りも楽しい。それに、VWが日本で長年築き上げてきたネットワークを生かし、安心し、信頼して乗っていただけるクルマ」と説明している。BEVだからといって特別ではなく、「毎日の生活に使えるクルマ」の位置づけだ。

ドライブモードセレクターは前後に回す。直感的な操作が可能

ゴルフやポロやティグアンなど、従来のVWのエンジン車のつもりでID.4と対面すると、最初は戸惑うかもしれない。システムを起動するスタートボタンはエンジン車と同様に付いているが、押す必要はない。運転席に座ってシートベルトを締め、ブレーキペダルを踏むと、システムは自動的にオンになる。メータークラスターと一体化されたドライブモードセレクターをひねって「D」レンジを選択すれば、走り出す準備は完了。クルマに乗り込んでから走り出すまでの手順が簡素でスムーズだ。

走行停止後はドライブモードセレクターの「P」のボタンを押し、ブレーキペダルから足を離すと、いわゆるイグニッションはオフの状態になる。ドアを開けてシートから降りると、着座センサーがドライバーの降車を検知し、システムを完全オフにする。

ドライブモードセレクターと一体化したメータークラスターはステアリングコラムと一体化しており、高さの調整をしても表示部がステアリングのリムに隠れることはない。そもそも、デジタル表示部はコンパクトだ。5.3インチサイズだというから、最新のiPhoneより小さい。じゃあそれで困るかというとそんなことはなく、車速やバッテリー残量といった必要な情報が簡潔に表示されるため、機能面で不足はない。その代わり、インフォテイメント系のセンターディスプレイは大型だ(写真は上級グレードで12インチサイズ)。

ドライバーインフォメーションディスプレイ

新型ID.4は2グレード展開で、ID.4 Lite Launch EditionとID.4 Pro Launch Editionで構成される。全国希望小売価格(税込)は「Lite」が499万9000円、「Pro」は636万5000円だ。両グレードでリヤに搭載するモーターの出力とバッテリーの容量は異なっており、Liteのモーターは最高出力125kW/最大トルク310Nm、バッテリー容量は52kWh(一充電走行可能距離388km)、Proのモーターは最高出力150kW/最大トルク310Nm、バッテリー容量は77kWh(一充電走行可能距離561km)となる。航続距離の点で、売れ線はProだろうとVWは見込んでいる(LiteとProでは主に快適装備系の違いも大きい)。

Play & Pauseペダルもちょっと楽しいアイデア

そのProを少しばかり動かした。車両重量は2140kgにも達するが、重さは少しも感じない。不思議なことに、むしろ軽快だ。必要充分なトルクを反応良く発生することができるモーターの特性を上手に生かしているからだろう。全長×全幅は4585×1850mmで、VWのラインアップではティグアンより65mm長く、10mm幅広い。ステアリングの操作に対するクルマの動きも反応が良く、沈み込んだり揺り返したりが大げさでないこともあって、前後方向だけでなく左右方向の動きも軽快だ。

タイヤ:F235/50R20 R 255/45R20 ハンコックのVentus S1 evo3を履く
リヤサスペンションはマルチリンク式
モーターをリヤに搭載するRWDだ。

細街路でのすれ違いは絶対的な寸法が効いてくるので楽とは言い切れないが、幹線道路や高速道路では身軽に動き、かつ無駄な動きが感じられないので運転に気を使わず、ストレスに感じない。それに、モーターのみの動力で走るBEVに共通している点でもあるが、とことん静かである。判断がわかれる点があるとすれば、回生ブレーキの制御だろうか。ハイブリッド車も含めてモーター駆動車に特有の機能で、アクセルペダルをオフにした際、モーターの発電機能を利用して減速力を発生させる回生ブレーキが働く。

ID.4の場合はドライブモードセレクターでD(回生ブレーキ弱)かB(回生ブレーキ強。完全停止はしない)に2段階に切り替えるのみ。Dは空走感が強く、Bは減速感が強すぎる……パドルの操作で細かく制御できるともっと気持ち良く走れるんだけど……というのはないものねだりか。

最小回転半径は5.4m。これはティグアンと同じだ。 トレッド:F1585mm R1570mm

VWの公式ホームページ(日本版)には「電気自動車に関する総合FAQサイト」も用意されているので、BEVに関して疑問・不安がある向きは覗いてみるといいだろう。

0-100km/h加速はPro Launch Editionで8.5秒。最高速度は160km/hだ。
90kWの急速充電を利用した場合、約39分で80%までの充電が、50kWの急速充電を利用した場合、約62分で80%までの充電が可能。そして、6kWの普通充電では、約13時間で満充電となる。
VW ID.4 Pro Launch Edition
全長×全幅×全高:4585mm×1850mm×1640mm
ホイールベース:2770mm
車重:2140kg
サスペンション:Fマクファーソンストラット式Rマルチリンク式
モーター型式:EBJ型交流同期モーター
定格出力:70kW
最高出力:150kW(204ps)/4621-8000rpm
最大トルク:310Nm/0-4621rpm
搭載電池:リチウムイオンバッテリー
 総電圧:352V
 総電力量:77.0kWh
駆動方式:RWD
WLTCモード一充電走行距離:561km
交流電力量消費率:153Wh/km
 市街地モード 135Wh/km
 郊外モード 143Wh/km
 高速道路モード 168Wh/km

トランスミッション:1段固定式

車両価格:636万5000円

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著者プロフィール

世良耕太 近影

世良耕太

1967年東京生まれ。早稲田大学卒業後、出版社に勤務。編集者・ライターとして自動車、技術、F1をはじめと…