38mm→30mmへ 新型プリウスは「虜にさせる走り」の実現させるためにオルガン式を選んだ

新型トヨタ・プリウス(プロトタイプ)
大注目の新型トヨタ・プリウス。ひと目惚れするデザインが話題である。そのプリウスのプロトタイプをクローズドコースで試す機会を得た。今度は「虜にさせる走り」を確認するためだ。プリウス開発陣のこだわりは細部に及ぶ。まずは、アクセルペダルである。「38mm→30mm」この数字の意味するところはなんだろう?
TEXT & PHOTO:世良耕太(SERA Kota)PHOTO:平野 陽(HIRANO Akio)

吊り下げ式からオルガン式に変えた意味

新型プリウスのフットスペース。
新型プリウスのアクセルペダルはオルガン式になった。

第5世代となる新型プリウスは、「乗って頂くお客様に長く愛される“愛車”」であるために、「ひと目惚れするデザイン」と「虜にさせる走り」をコンセプトに開発された。虜にさせる走りに関しては、「軽快な加速感」と「意のままの走り」を目指し、日常の走行シーンをイメージしながら、クルマの動きや操作のつながりを意識したという。

先代プリウスのフットスペース。
アクセルペダルはこのクラスのスタンダードである吊り下げ式。

先代プリウスのアクセルペダルはステアリングコラム側に支点がある吊り下げ式(ペンダント式)だったが、新型は床を支点に動くオルガン式を採用している。「虜にさせる走り」を具現化するためのアイテムのひとつだ。

国内では新型プリウスで初採用となる(欧州ではカローラ・クロスに適用)2.0Lハイブリッドシステム搭載車はとくに、アクセルペダル踏み始めからの応答性を高くしようと、こだわって開発したという。4世代目まではアクセルペダルを踏んでから少し待って加速するイメージだった。そこを解消しようというわけだ。

プリウスは代を重ねるごとに、「プリウス=ハイブリッド車」のイメージが定着していった。プリウスの走りが良くないと「ハイブリッドの走りは良くない」と受け止められかねない。「そこを打破したかった」と、開発に携わったある技術者は言う。「ハイブリッド車に対する世間のイメージを変えたい」と。

新型プリウスでは、アクセルペダルの定常開度を少し浅くしたという。例えば、従来は40km/h一定速で走る際のアクセルペダルストロークが10mmだったとすると、8mmに減らす感覚だ。40km/hで走っているときに一旦アクセルオフにして再び加速側に転ずる場合、10mmの定常開度より踏み増さないと加速に転じない(10mm未満は減速側になる)。それを8mmに減らせば、踏み込み量が減るため早く加速に転じ応答性向上につながる。

ただし、背反がある。定常開度のストロークが短いとコントロール性に難が生じて加速側・減速側のG(加速度)の変動が激しくなり、ギクシャクした動きになりがちだ。

そこで、オルガン式アクセルペダルの出番である。一般的に、吊り下げ式ペダルは軽い踏力でストロークし、オルガン式のほうが重たい。そのため、オルガン式はストロークを短くしてもコントロール性を確保できる。ペダルを踏み込んだ際に剛性感が感じられるため、高級感につながるのもメリットだ。

電気自動車のbZ4Xでオルガン式のアクセルペダルを採用しており、これがプリウスでも使えると確認できた段階で、オルガン式ペダルを前提に応答性の作り込みを行なったそう。従来の吊り下げ式ペダルのストロークは38mmだったのに対し、新型プリウスのオルガン式は30mm。ストロークは短くなっているが、吊り下げ式のようにフワフワ動かず、剛性感のある動きをするのでストローク(アクセル開度)の調節がしやすい。短い定常ストロークで応答性が高くなっているだけでなく、剛性感のある踏み心地を実現した点が、新型プリウスが採用したオルガン式アクセルペダルの特徴だ。

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著者プロフィール

世良耕太 近影

世良耕太

1967年東京生まれ。早稲田大学卒業後、出版社に勤務。編集者・ライターとして自動車、技術、F1をはじめと…