ダイハツ・アトレーは、エンジン縦置きキャブオーバーレイアウトの逸品!【2022、今年のクルマこの1台】

技術系ジャーナリストの安藤 眞氏が2022年に気になった1台はダイハツ・アトレー。新開発された縦置きエンジン用のCVTを搭載している。乗り心地も想像以上に素晴らしく、思わず車中泊仕様にでも仕立ててみたくなる一台だった!
REPORT:安藤 眞(ANDO Makoto) PHOTO:神村 聖(KAMIMURA Tadashi) MODEL:新 唯(ARATA Yui)

今年のクルマは、タイプRでもZでもなく、アトレー!

今年の下半期は、シビックタイプRやフェアレディZなど、数年後に振り返れば時代の転換点だったと感じられそうなクルマが発売されているが、残念ながら、いずれにも試乗できていない。ということで、今年、実際に公道で試乗した中から印象的だったクルマを選ぶとすると、ダイハツ・アトレーだろうか。

大きな理由は、新開発された縦置きエンジン用のCVT。試乗したのも、このCVTの取材の予習が目的だった。アトレーは商用バンのハイゼットカーゴがベースなので、エンジン縦置きのキャブオーバー(傾斜搭載したエンジンの上に、前2席を載せた)レイアウトになっている!

現行アトレーは21年12月に、実に17年ぶりのフルモデルチェンジをしたばかりのニューモデル。現行6代目の一番の特徴は、従来モデルと異なり、商用登録の4ナンバー車としてデビューしたことだ。

軽乗用車のほとんどがエンジン横置きになる中、商用バンとトラック専用に、縦置きのトランスミッションが必要になるわけだ。日本市場限定で販売台数がそれほど多くないのに加え、利益率の低い軽自動車の中でも、さらに低い軽商用車用に、よくぞまったく新しいCVTを開発したものだと思う。

技術の詳細は「モーターファンイラストレイテッド(MFI)誌」186号を参照いただくとして、遊星歯車式ATでは、どう作ってもトップギヤでの一次振動共振が出てしまい、ロックアップできずに燃費が伸ばせないことと、変速ショックのないCVTなら荷崩れのリスクも小さくなるというのが主な理由だ。

フロントシート下に縦置き搭載されるエンジン。CVTはこの縦置きユニット用にまったく新規に開発されたものだ。

実際、変速応答は滑らかなのだが、何より感心したのが、騒音の小ささ。金属ベルト式CVTにありがちな高周波音が、ほとんど聞こえない。クルマが重いし空気抵抗も大きいので、高速道路でもそれほど低回転で走るという感じではないものの(100km/hで3200rpmぐらい)、従来の4ATに比べれば低い回転数で静かに走れるし、上り坂で踏み増ししてダウンシフトしても、ショックが出ないのがまた良い(その分、多少のラバーバンド感はある)。

4WDシステムは電子制御カップリング式でロックモード付き

ヒール段差が少なめで、膝は立ち気味に。背もたれも後ろ側にリクライニングしないため、直立した姿勢になる。
前席シート高は760mm(実測値)と高めで、ハンドルが寝ているレイアウト。

もうひとつ驚いたのが、乗り心地の良さだ。商用バンは積載時を考えてリヤサスのスプリングを硬めに設定するのが常だし、タイヤの空気圧も前280kPa/後350kPaと極端に高い。乗り心地が良くなる要素は皆無といえる。ところが、僕が乗り心地評価に使っている極悪舗装路面を走っても、速度を落とすことなく助手席と会話できるのだ。

このコースは、荒れた舗装がまだらに補修され、それも剥がれてポットホール状になった箇所が連続するため、乗用車でも下手なクルマでは突き上げが強く、縦Gで息が詰まったり、会話していると舌を噛みそうになることがあるのだが、ハイゼットカーゴはそういうレベルにはならない。これなら林道でも不快感なく走れそうだから、車中泊仕様に仕立てて、渓流釣りや沢登りに使うのも楽しいかもしれない。

なにしろ4WDシステムが電子制御カップリング式で、ロックモードも付いている。だからパートタイム式並みの走破性を持ちながら、タイトコーナーブレーキング現象も気にしないで済む。

4ナンバー車なので、リヤシートの背もたれは垂直に近く、3名以上で使うのは無理があるし、運転席は身長181cmの僕には少々窮屈だが、平均的な体格の人が1〜2名で趣味専用車として使うなら、良い選択肢になると思う。

後席使用時でも1030mmのフロア奥行きが取れ、十分に広大なラゲッジ空間。
後席を畳むと奥行きは1820mmにまで拡大。天井までの高さも1215mmとたっぷりある。
ダイハツ アトレー RS(4WD)


全長×全幅×全高 3395mm×1475mm×1890mm
ホイールベース 2450mm
最小回転半径 4.2m
車両重量 1020kg
駆動方式 四輪駆動
サスペンション F:マクファーソン・ストラット式 R:トレーリングリンク車軸式
タイヤ 145/80R12

エンジン 水冷直列3気筒DOHCターボ
総排気量 658cc
最高出力 47kW(64ps)/5700rpm
最大トルク 91Nm(9.3kgm)/2800rpm

燃費消費率(WLTC) 14.7km/l

価格 1,826,000円

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著者プロフィール

安藤 眞 近影

安藤 眞

大学卒業後、国産自動車メーカーのシャシー設計部門に勤務。英国スポーツカーメーカーとの共同プロジェク…