「新型シビックタイプR」からは、GT-R NISMOやポルシェ911GT3RSと同じ匂いがする!【2022、今年のクルマこの1台】

2022年、数多く登場した純エンジン車の新型スポーツモデル。いずれも高い完成度をもつ逸材揃いだが、ジャーナリストの佐野弘宗が“その走りや味わいは感動レベルに達している”と感じたのは、シビックタイプRだった。
REPORT:佐野弘宗(SANO Hiromune) PHOTO:HONDA

すべてのタッチが“まろやか”になったことがもっとも印象的

多くの新型スポーツモデルが登場した2022年だが、筆者にとって、タイプRの印象は特に抜きん出ていたという。

昨今の排ガスや騒音規制の現状を考えると「これで打ち止めか?」と思われる純内燃機関スポーツが次々と発売され(て、どのクルマにも注目が殺到し)たのが、2022年だった。今後に見込まれる規制強化の内容やスケジュールを考えた場合、新規開発の量産車としてデビューさせて一定の台数をつくって投資を回収できる最後のタイミングが、多くのメーカーにとって今なのだろう。

というわけで、2022年に日本で発売もしくは発表された純エンジンの新型スポーツモデルは数多い。国産車では、スバルWRX S4に日産フェアレディZ、レクサスLS500、GRカローラ、ホンダ・シビックタイプR、輸入車ではロータス・エミーラ、BMW M240iクーペ、アウディRS3にVWゴルフRといったところだ。

ただ、この種のクルマは余命がさほど長くないこともあってか、基本骨格や主要コンポーネンツは従来改良版である例が多い。だから、これらのクルマは新型車でありながらも、その走りにはどれも熟成感が漂う。たとえばフェアレディZやLS500などは良くも悪くも古典的な乗り味といえなくもないが、完成度そのものは「これ以上のにするのは無理?」と思えるくらいに高い。

そんななかでも、その走りや味わいが、個人的にはちょっと感動するくらいの領域に達していると痛感したのが2022年7月に世界公開された新型シビックタイプRだ。

タイプRの真っ赤なインテリアは闘争心を掻き立てるが、そうした派手さから連想されるような荒々しい乗り味ではない。

新型タイプRもまた、その技術内容は“熟成された最終進化形”といっていい。ベースとなった11代目シビック自体もプラットフォームは10代目の改良強化型である。そして、そこに搭載されるタイプR独自のエンジン、トランスミッション、サスペンションなどの要素技術は、先代どころか先々代からこの新型まで3世代にわたって改良を重ねながら継続採用されたものだ。

そんな新型タイプRは絶対的な速さにおいても先代よりも確実に進化した。ライバルの状況を見るに、これが世界最速のFF車であることもまず間違いない。しかし、誤解を恐れずにいえば、ステアリング、シフト、ブレーキ、そしてシートの座り心地から路面感覚にいたるまで、すべてのタッチが“まろやか”になったことが、新型タイプRではもっとも印象的である。

それはパワステが軽くなったり、サスペンションが柔らかくなったわけではない。動力性能や旋回速度、ブレーキ性能といったクルマの基本フィジカルは確実にレベルアップしているのに、乗り手に伝わってくる肌ざわりから、荒さや雑味が見事に消えているのだ。

フル4シーターとしても使える懐深さはタイプRの別の側面としての魅力を放つ。

“世界一のシフトフィール”を自認していた6速MTはさらに究極に

新型タイプRでは、可変ダンパーがもっとも引き締まる「+R」モードでも日常の乗り心地が決して暴力的にならないのもたいしたもの。しかし、それ以上に印象的なのは、もっとも柔らかい「コンフォート」モードの完成度である。先代までは硬いスプリングに対して減衰が不足したような上下動が残っていたが、ダンピング制御の熟成がきわまった新型では、そんなクセもほぼ払拭されている。

路面からアタリの優しさはそのままに、走行中のボディがピタリと安定するようになったのだ。さらに無駄な動きが出ないので、天候などの路面状況やコースレイアウトによっては。本格的なワインディングやサーキットでもコンフォートモードが使えるようになった。ホールド性はいいのに表面は柔らかいバケットシートから伝わってくるその路面感覚は、やはりまろやかと表現するほかない。

シフトフィールひとつとっても“究極”と言えるまで徹底的に改良が施され、そのことが実感できる。

先代の時点で“世界一のシフトフィール”を自認していた6速MTも、レバー構造やレバーそのもの、そしてシフトリンクまで見直して、さらに究極に近いシフトフィールを追求したとか。手応えは堅牢なのに操作力は軽く、するりと吸い込まれる繊細なシフトフィールもまさにまろやか。クラッチのミートポイントも奥すぎず手前すぎず、走りのリズムを刻むのにちょうどいい。

こうした“すさまじく高性能で速いのに、手応えや肌ざわりはまろやか”という体験は、じつは新型タイプRが初めてではない。たとえば日産GT-Rニスモの最新2022年モデル、あるいはポルシェ911GT3RSでも、これに似た感覚を味わった記憶がある。

きれいにバランス取りされた本物のチューンドマルチシリンダーエンジンを7000rpmあるいは8000rpmまで回すと、すべての振動のツブがそろってクリーミーでまろやかなフィーリングになることを、私はGT-Rニスモや911GT3RSで知った。また、優れたスポーツカーはどんなに締め上げたサスペンションでも走行中に目線がブレることはなく、人間にはあくまでまろやかで優しい。新型タイプRも、これら名作スーパースポーツとどこか同じ匂いがするのだ。

まさに熟成という言葉がぴったりと当てはまるK20C型エンジン。
HONDA シビック TYPE R


全長×全幅×全高 4595mm×1890mm×1405mm
ホイールベース 2735mm
最小回転半径 5.9m
車両重量 1430kg
駆動方式 前輪駆動
サスペンション F:マクファーソン式 R:マルチリンク式
タイヤ 265/30R19 93Y

エンジン 水冷直列4気筒DOHC16バルブターボ
総排気量 1995cc
内径×行程 86.0mm×85.9mm
最高出力 243kW(330ps)/6500rpm
最大トルク 420Nm(42.8kgm)/2600-4000rpm

燃費消費率(WLTC) 12.5km/l

価格 4,997,300円

キーワードで検索する

著者プロフィール

佐野弘宗 近影

佐野弘宗