絶対的な速さ以上に、速さを引き出すシャシーワークの絶妙さに感嘆!【シビックタイプR 鈴鹿試乗記】

シビックタイプRを鈴鹿サーキット本コースで試乗した。そこでの一番の驚きは、速さよりもむしろ、乗り心地の良さだった。そして、現役プロドライバーの駆る先導車、先代FK8型タイプRリミテッドエディションに、いとも簡単に追いついてしまう。明らかに、速くそして扱いやすい一台であることを実感させられっぱなしだった!
REPORT:山田弘樹(YAMADA Koki) PHOTO:平野 陽(HIRANO Akio)/MotorFan.jp

走り出しですぐに感じるサスペンションのしなやかさ

シビックタイプRにはサーキット、中でも鈴鹿が良く似合う。

6代目となったシビック タイプRを、ホンダの聖地である鈴鹿サーキットで走らせた。

シビック タイプRといえば「世界最速のFF」の称号を追い求め続けるスポーツハッチだ。しかし筆者が今回の試乗で一番驚かされたのは実はその速さではなく、なんと「乗り心地の良さ」だった。

当日は、F1日本グランプリの準備で本コースのパドックが使えなかったことから、6台のタイプRが西コースのパドック裏へと集められていた。そしてこの駐車場からコースインするまでの荒れた短い上り坂を走らせただけで、新型タイプRの素性が読み取れた。

F1準備の関係でメインパドックが使えず、西コースパドックよりコースイン。

足下に履く265/30ZR19サイズのミシュラン「パイロットスポーツ CUP2 コネクト」(オプション設定)を、ほとんど横揺れさせることなくバネ下で封じ込めたサスペンションのしなやかさ。ここに、先代FK8型からの進化を直観したのだ。

その予想は、コースインして正しかったと証明された。結論から述べてしまえば新型タイプRは、先導役を担当した現役プロドライバー、伊沢拓也選手の運転する先代型、FK8型リミテッドエディションよりも明らかに速く、そして扱いやすかったのである。

性能の柱となったのは、磨き込まれたボディ

プラットフォームは先代からのキャリーオーバーだが、ホンダいわく中身は別物だという。「e:HEV」の新設もあり、その骨格は、さらに大きく進化したとのことだった。また、新型タイプR用としても接着剤の塗布長を3.8倍に拡大することで、そのねじり剛性は先代比で15%引き上げられた。

ディメンジョン的にも前後トレッドで24/20mm、ホイルベースで35mm、全長で同じく35mm拡大されており、カーボンを張り込んだルーフは逆に30mm低くなって、その重心を下げている。

ホイールベース、トレッドの拡大や、タイヤ幅の20mmアップが効いて、安定してタイヤのグリップをより引き出せるようになった。

こうしてできあがったボディが可変ダンパーをしなやかに伸縮させ、長いホイルベースと共にアマチュアドライバーに対して寛容な操縦性を実現したというわけだ。全幅のみならずタイヤサイズも20mm幅広くなっており、大型化したボディのネガティブを、コーナリングパワーで相殺した。

さらに、リアハッチは樹脂製となってイナーシャを低減。新形状のリアウイングは下面の流速を早めることで、迎え角を増やさず(つまりドラッグを増やさず)、ダウンフォースを増やすことに成功した。

60kgも軽量な先代リミテッドエディションより明らかに速い

現役プロドライバーの駆る先代タイプRリミテッドエディションを余裕で追いついてしまうのが新型タイプRのポテンシャル。

ショートホイルベースかつ車重にして60kgほど軽量なFK8型リミテッドエディション(標準車との差は40kg)をもってしても、コーナーで新型を引き離せない。鈴鹿名物の三連続S字ではややターンインや切り返しでFK8型の方が機敏さを見せるものの、荷重が乗ってからの旋回速度は新型の方が明らかに速い。

下りながらの1コーナーや逆バンク、そして130Rといったチャレンジングなコーナーでは、リアが浮き足立つ先代FK8型タイプRの旋回姿勢を後ろから眺めながら、こちらは余裕をもってラインを選ぶことができた。

極めつけは、エンジンだ。その性能は数字だけを見れば10ps/20Nmの向上に過ぎない。しかし実際に走らせればその差は、とても大きい。チューニングは補機類の性能向上で達成しており、ターボチャージャーはそのハウジングやインペラー形状を変更することで効率を3%向上させた。またタービンは軸の抵抗を減らすことで、回転イナーシャを14%低減した。

吸気は10%、排気では13%その空気流量を向上させ、インタークーラーもコアを9段から10段へと拡大。最後はECUで点火時期やバルブタイミングを最適化し、アクセル開度に合わせたトルクの追従性をもリセッティングして、数値以上のドライバビリティ性能向上を果たした。

実馬力10ps以上の違いをもたらす冷却性能の差

数値の違いは10ps、20Nmのみだが、タービンのブレードはじめ補器類や冷却性能の向上により、気温など条件が厳しくなるほど新型と旧型の速さの差は開いた。

だが最も大きな武器となったのは、こうした地道な努力で積み上げた性能を維持する、ボディ側の冷却用エアフローだろう。フロントバンパーの開口部は見た目にそれほど大きくないが、これは風洞実験によるCFD解析で得られた最適解。そしてここから流れ込んだ空気は、インタークーラーやラジエターの熱を奪って通り抜け、ボンネット上のアウトレットから排出される。ちなみに先代ではこのボンネットスクープは、NACAダクト形状のインテークだった。

こうした冷却性能の違いから、走れば走るほど新旧の差は開いた。午前中の走行では「僅かだが確実に速い」と感じた旧型タイプRとの差も、気温が上がった午後では明らかな違いとなって現れた。

登りセクションとなるセクター1はもちろん、スプーンのようなテクニカルコーナーでさえ、FK8型に立ち上がりで追いついてしまう。何度も間隔を開け直しても、そのテールを捉えてしまうのであった。

だが筆者がこの新型シビックタイプRで感心したのは、冒頭でも述べた通りこうした速さではない。むしろその速さを優しく包み込むような、懐の深いシャシーワークだ。なにせ今回走ったのは、あの鈴鹿である。F1ドライバーさえもが絶賛するエキサイティングなコースを、必要以上の緊張感を強いることなく、新型タイプRはレーシングスピードで走らせてくれるのだ。あまつさえ目の前でふらつく挙動をバランスさせるトップドライバーの技術を学びながら、自分のドライビングをちゃっかり修正できてしまうのである!

6速MTは操作感が軽い上に、節度感もある。シフトダウン時は「レブマッチング機能」がエンジン回転を合わせてくれるから、ブレーキングに集中できる。機能的には7速DCTの方が、ギア比も細かく設定できて操作はよりイージーになる。しかしその分コストはかさみ、クルマは重たくなる。ホンダはDCTのソリューションを持っていたメーカーだから、当然双方のメリットは承知のはず。つまり運転の愉しさと構造のシンプルさを取って、6速MTを選んだわけだ。

ドライブモードは意外なことに、さほど運転に影響しない

サーキット=「+R」モードでなくても、「スポーツ」モードも十分に楽しめる。

「コンフォート」モードだと高速領域で少しだけフワッと浮き足立つ場面もあったが、基本的には足周りのしなやかさが運転しやすさに直結している。そしてこれを「スポーツ」モードに転じると、その挙動が落ち着いた。感動的だったのは縁石に内輪を沿わせたときの落ち着きっぷりで、ダンパーのコンプレッションが素早く上がるような状況でも、車体が跳ねない。極めてしなやかにその入力を吸収して、姿勢変化を抑えてくれる。

期待の「+R」モードは特にリアダンパーの伸び側減衰力が高まる印象で、ボディの動きは安定するが、個人的にはスポーツモードの方が自由度が高いと感じた。+RモードはVSC(車両安定装置)をカットオフできるのが利点であるが、そもそも新型タイプRは4輪の接地性が高いので、スポーツモードでもこれが介入して挙動を抑えてしまうような状況が今回は見られなかった。

数少ない不満を述べるならば、ブレーキだろうか。絶対的な制動力というよりそのタッチがやや甘く、鈴鹿はブレーキに厳しくないコースだけに、フルブレーキングからターンインにかけてはもっとソリッドさが欲しいと感じた。

もっともそれは、1インチ太くなったCUP2 コネクトのグリップ力も関係しているだろう。先代から踏襲される2ピースローターとアルミ製の4potキャリパーに、特にネガティブな印象はない。これが標準タイヤ(パイロットスポーツ4S)であればもっとタッチは良くなるだろうし(サスペンションもさらにキビキビ感が増すだろう)、CUP2 コネクトを履いてサーキットを走るなら、もう少しだけ耐熱性の高いパッドを用意すればいいだけのことである。

あとフロントタイヤへの攻撃性も、少しだけ高いと感じた。もちろんあの鈴鹿を安全に走りきれたわけだから、代償としては理解できる。ただCUP2 コネクトの中央リブが30分×2本の走行で、ごっそり削れてしまうのにはやはり驚いた。そのパワー&トルク、そしてトラクションの高さに対して、足周りがややソフトなのだろう。このパフォーマンスを穏やかな操縦性で両立させた代償が、タイヤに集中したのだと思う。

走行後のフロントダイヤは写真の状態。負荷の高さを物語る。手前から2本目のブロック外側はショルダーが剥がれ落ちている。
走行前のパイロットスポーツCUP2コネクトは下ろしたての新品。5ラップの走行1、2本で左の写真の状態に。

もっともその状態でもグリップ力はマイルドに落ちてゆくだけで、むしろその操縦性に変化がなかったことにはもっと驚かされたのだが。

総じて新型タイプRは、極めて高いレベルの走りを身につけたと言えるだろう。先代では確かに限界性能は高いのだが、どことなくその速さに不安を感じた筆者だったが、今回はとても安心してブレーキペダルを踏み込み、そのステアリングを切り込むことができた。

試乗後の筆者山田弘樹(左)と、FK8型リミテッドエディションで先導ドライバーを努めた武藤英紀選手(中)、伊沢拓也選手(右)。「FK8で逃げるのはタイヘン!」新旧タイプRの総合的なポテンシャルやドライバビリティの違いは想像以上に大きく、鈴鹿本コースという舞台ではそれはより鮮明になった。

そしてこれを一般公道で走らせたとき、もしかしたら標準車よりも乗り心地が良く、質感高い走りが得られてしまうかもしれないとさえ感じた。つまりその落ち着いた外観を含め(リアウイング除く)、スポーツカーとしてだけでなく、ファミリーカーとしてもその役目を十分に果たせるレベルにまで仕上がったのではないかと予測する。

ただしタイプRというスポーツカーは、どこまで行ってもやっぱりタイプRである。ファースト・エディションとしてこの穏やかなキャラクターは大いに賞賛するが、今後はこれを土台にして、さらなるスポーツエディションの登場や、ドライビングのカルチャーを育てて欲しいと感じた。そう、ホンダの新たなワークスである「HRC」(ホンダ・レーシング・カンパニー)とともに。

試乗が行われたのは9月下旬。10月9日に決勝が行われる「F1日本グランプリ」の準備真っ最中だった。
HONDA シビック TYPE R


全長×全幅×全高 4595mm×1890mm×1405mm
ホイールベース 2735mm
最小回転半径 5.9m
車両重量 1430kg
駆動方式 前輪駆動
サスペンション F:マクファーソン式 R:マルチリンク式
タイヤ 265/30R19 93Y

エンジン 水冷直列4気筒DOHC16バルブターボ
総排気量 1995cc
内径×行程 86.0mm×85.9mm
最高出力 243kW(330ps)/6500rpm
最大トルク 420Nm(42.8kgm)/2600-4000rpm

燃費消費率(WLTC) 12.5km/l

価格 4,997,300円

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著者プロフィール

山田弘樹 近影

山田弘樹

自動車雑誌の編集部員を経てフリーランスに。編集部在籍時代に「VW GTi CUP」でレースを経験し、その後は…